ルーキーで本塁打王獲得でも上がらない年俸——MLB労使交渉最大の争点、若手選手への「ボーナスプール制度」を解説<SLUGGER>
ロックアウトが続くMLBでは現地2月12日、選手会とオーナー側の間で新たな交渉が持たれたが、残念ながらまたも合意には至らなかった。交渉の大きな争点で、かつ互いの主張が隔たっているのが、新たに導入される予定の若手選手向けの「ボーナスプール」の内容だ。
「ボーナスプール」が何かを説明する前に、今回の労使紛争の争点を改めて簡単に説明しておかなければならない。
選手会は、この10年でMLBの総収入はおよそ70%も増加しているにもかかわらず、選手平均年俸がむしろ減っていることを問題視している。
MLBの年俸システムは独特で、メジャー最初の3年間は基本的に最低保証年俸(21年は57.5万ドル=約6631.1万円)からほとんど上がらない。このため、19年に新人王を獲得したピート・アロンゾ(メッツ)は、新人史上最多の52本塁打を放ってタイトルを獲得したにもかかわらず、年俸は55.5万ドルから65.3万ドルへ上昇したのみだった。
その代わり、メジャー経験3年以上になると年俸調停権が与えられ、それを機に年俸は一気に跳ね上がる。そして、メジャー6年目を終えるとFA権を獲得し、さらにビッグマネーをつかむ……というのがかつての基本的な構図だった。この形があったからこそ、選手たちは最初の3年間で年俸を低く抑えられても我慢できた。
だが近年、球団は高額FA選手との契約を敬遠するようになった。データ分析が進んだ結果、わざわざFA市場で大金を投じなくても、安い金額で同じレベルのパフォーマンスを確保できると考えるようになったからだ。また、有望な若手選手のメジャー昇格時期を意図的に遅らせ、FA権取得時期を先延ばしする手法も定着した。
このため、最初の3年間は不当に安い年俸に甘んじ、ようやくFA権を得ると今度は「歳を取っている」という理由で敬遠される、という悪循環にはまる選手が出てきてしまったのだ。
そこで選手会は、メジャー1~3年目に活躍した若手選手への待遇改善を強く主張。この目的に沿って選手会が提案したのが「最低保証年俸の増額」と「ボーナスプール制度」だ。「ボーナスプール」は、各球団が資金を供出して一定の金額を蓄え、メジャー経験3年未満の選手に対して活躍の度合いに応じて分配するもの。オーナー側も、FA権取得時期の短縮は断固として認めない代わりに、この2つは受け入れる意向を示している。
とはいえ、金額面では依然として両者の隔たりは大きい。選手会側が最低保証年俸を現行の57.5万ドルから77.5万ドルに増額することを求めているのに対し、オーナー側の提示は61.5万~63万ドル。これは今後の物価上昇分を考慮すれば実質的に昇給なしに等しく、他の4大スポーツと比べてもまだ最も低い額にとどまっている。
ボーナスプールの総額については、選手会が1億ドルを要求しているのに対し、オーナー側はわずか1500万ドル。実に6倍以上も開きがある。『MLB.com』のマーク・ファインサンド記者の試算によれば、オーナー側の総額に基づくと、昨季サイ・ヤング賞を受賞したコービン・バーンズは年俸が60.8万ドルから234万ドル、大谷翔平(エンジェルス)とMVPを争ったブラディミール・ゲレーロJr.(ブルージェイズ)は、63.5万ドルから184.3万ドルに昇給する。
一見かなりのアップに思えるが、球界最高年俸のマックス・シャーザー(メッツ/約4333万ドル)や、2位のマイク・トラウト(エンジェルス/3545万ドル)の足元にも及ばない。実際、FA市場で年俸250万ドルの選手と言えば、控え野手や勝ちパターン外の中継ぎ投手がせいぜい。これでは抜本的な改善につながらない。
12日の交渉では、選手会側が1億500万ドルから1億ドルへ、オーナー側も1000万ドルから1500万ドルへと、ほんのわずかな譲歩にとどまった。次回の交渉では双方がさらに譲歩するとみられるが、「ボーナスプール制度」を真に意味のあるものにするためには、つまり選手が活躍に応じた報酬を得るためには、オーナー側がさらに歩み寄るべきだろう。
構成●SLUGGER編集部
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