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【エンジェルスの失われた10年:中編】最大の課題だった先発投手の補強はいつもおざなりだった<SLUGGER>

将来のエースと期待されながら開花しきれなかったヒーニー。今季からはドジャースの所属となるが……。(C)Getty Images
「大谷翔平選手はホームランを放ちました。なおエンジェルスは……」。今年、何度このフレーズを耳にしたことだろう。100年に一度の二刀流選手と球界最高のプレーヤーがいながら、なぜエンジェルスは勝てないのか。“負の歴史”は10年前に始まっていた——。

※スラッガー2021年11月号より転載(時系列は9月16日時点)

15年開幕時点で、エンジェルスの先発ローテーションの未来はバラ色に見えた。前年の14年にマット・シューメイカー(16勝、新人王投票2位)と豪腕ギャレット・リチャーズ(13勝、リーグ5位の防御率2.61)がブレイク。さらに有望株左腕のアンドリュー・ヒーニーもトレードで加入した。もう一人の若手左腕タイラー・スキャッグスは14年夏にトミー・ジョン手術を受けていたが、才能豊かな4人の先発投手の存在に、明るい未来予想図を描いた関係者やファンは少なくなかった。

だが、夢のローテーションは結局、実現しなかった。原因は怪我だ。リチャーズは15年も16勝と活躍したが、16年に右ヒジ靭帯を部分断裂。以降は故障者リスト入りを繰り返し、18年7月にトミー・ジョン手術を受けてそのまま退団した。シューメイカーは16年9月に打球が頭部を直撃して頭蓋骨を骨折。その後も右前腕を痛めるなどして、リチャーズと同じく18 年限りでチームを去った。

スキャッグスとヒーニーも怪我を繰り返した末、先発4番手クラスに落ち着き、スキャッグスは19年7月にドラッグの過剰摂取で死去、ヒーニーも本格開花を果たせぬまま21年夏にヤンキースへ放出された。
相次ぐ誤算で、先発陣はみるみるうちに弱体化した。時を同じくして、マイナー組織もMLB最低レベルにまで枯渇してしまった。特に、先発投手の育成にことごとく失敗。10~16年のドラフトで指名された投手のうち、エンジェルスで先発マウンドに立ったのはクリス・ロドリゲスだけで、しかも2試合しかない(オープナーを除く)。

期待していた投手たちが揃って怪我に苦しみ、マイナーからの供給もまままならない状況。にもかかわらず、球団は打者には気前良く大型契約を連発する一方で、なぜか優先度が高かったはずの先発投手には一向に資金を投じようとしなかった。FAだけではなく、トレードでエース級を獲得しようと動くこともなかった(もっとも、これはファーム組織が枯渇していたため相手の満足いく交換要員を用意できなかったことが大きい)。

代わりに球団が目を向けたのが、全盛期を過ぎた中堅/ベテランの先発投手たちだった。18年オフから20年オフにかけて、トレバー・ケイヒル、マット・ハービー、フリオ・テラーン、ホゼ・キンターナといった投手たちをいずれも1年1000万ドル前後で獲得したが、結果は惨憺たるものだった。4人は合計で246.2イニングを投じ、7勝21敗、防御率6.97。WARは−2.7。つまり、3Aレベルに毛が生えた程度のパフォーマンスと引き換えに、計3700万ドルを浪費したことになる。

大物投手獲得に動いたこともあった。19年オフには、アストロズからFAとなったゲリット・コール争奪戦に参加。コールはアナハイム近郊で育ち、エンジェル・スタジアムのシーズンチケットホルダーでもあった。そのため、当初からエンジェルスを移籍先有力候補に挙げる声も少なくなったが、9年3億2400万ドルをオファーしたヤンキースに敗れた。
これ自体は致し方ないとしても、理解できないのは市場にまだリュ・ヒョンジン(現ブルージェイズ)らが残っていたにもかかわらず、方針転換してレンドーンとの契約に動いたことだ。オーナーのアート・モレノはレンドーン獲得後も「4、5番手ではなく、大きく貢献してくれる投手を探している」と語ったが、結局は前出のようにまさに「4、5番手」でお茶を濁して散々な結果となった。

確かに、投手の長期契約は不良債権化するリスクが高いのは事実だ。だが、本当の実力者なら、少なくとも最初の数年は一流のパフォーマンスを期待できる。その後、怪我や衰えで成績が悪化すれば年俸は割高になるが、その頃にまた別の有力選手を補強すればいい。エンジェルスほどの資金力を誇るチームなら、このようにある程度の“死に金”をあらかじめ組み入れた上で、なおかつ競争力の高いロースターを構築することも十分できるはずだ。

そもそも、契約後半になって成績が落ちるのは野手も同じ。アスレティックスやレイズのように大型FA補強そのものから背を向けるならともかく、先発投手にだけ出し渋るのは理屈に合わない。

野手は採算度外視で大物をかき集め、弱点の先発投手は二線級ばかり。そんな補強を繰り返した結果、チームの年俸構成はかなり歪な形になった。21年開幕時点のエンジェルスの野手年俸トップ5には、3545万ドルのトラウトを筆頭に、プーホルス、レンドーン、アップトンと2000万ドルプレーヤーが4人。この4人だけで約1億2000万ドルに達し、チーム全体の約3分の2を占めている。
一方、投手は1000万ドルを超えているのがアレックス・カッブだけだった。しかもカッブの場合、1000万ドルは古巣のオリオールズが払っていた。年俸が必ずしも選手の実力を正確に反映しているわけではないとはいえ、これだけ偏った編成では、やはり勝つのは難しい。

今年のドラフトで、エンジェルスは何と1~20巡目ですべて投手を指名するという前代未聞の奇策に出た。このような、ある意味で掟破りとも言えるドラフトを展開したことは、いかに投手の育成が上手くいっていないかを如実に示している。

今から5年前の16年8月、『CBSスポーツ』に「エンジェルスが球界で最も絶望的なフランチャイズに思える6つの理由」と題する記事が掲載された。そこではすでに、大型補強やドラフトの失敗、若手投手の故障禍などが指摘されていた。

ある程度の知識を持っている者にとっては、エンジェルスの問題点はかなり前から明らかだった。にもかかわらず、歴代のGMたちはなぜ軌道修正できなかったのか。端的に言えば、合理的な意思決定のプロセスが機能していないからだ。
※後編に続く

文●久保田市郎(SLUGGER編集部)

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