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“決死の継投”にここしかなかった「代打・川端」。20年ぶりの日本一を成し遂げた高津采配の妙【氏原英明の日本シリーズ「記者の目」】<SLUGGER>

就任2年目にして頂点をつかみとった高津監督。セ・リーグのチームが日本シリーズを制するのは9年ぶりだった。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)
 まるで2017年を思わせる結末だった。

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 ヤクルトの3勝2敗で迎えた第6戦。「もう一つ負けられることができる」条件であったはずのヤクルトが決死の継投策を見せた。

 5回途中までをゲームメイクした先発の高梨裕稔の後を、アルバート・スアレスが引き継いで2.1回を無失点に抑え、3番手の清水昇は2イニング、田口麗斗が0.2イニングを挟んだ後は、クローザーのスコット・マクガフがこのシリーズ5度目の登板で、自己最長の2.1回を投げたのである。

 17年のソフトバンク対DeNAの日本シリーズでは、ソフトバンクのクローザー、デニス・サファテが第6戦の9回から延長11回までの3イニングを投げて勝ち投手になった。この時と同じように、クローザーの熱のこもった投球が手繰り寄せた日本一だった。

「俺は全然気にしてないから」

 第1戦が終わった後、高津臣吾監督はマクガフにそう声をかけたという。

 シリーズ開幕戦で相手のエース山本由伸を攻略し、2点リードで迎えた9回裏。マクガフの大乱調の果てに試合をひっくり返された。四球あり、送球ミスありの一人相撲だった。それでも高津監督の信頼は揺るがなかった。

 この日の試合は戦前から継投策がポイントになると予想された。
  先発は高梨が務めるが、その後をどうマネジメントしていくか。相手投手が山本だっただけに、余計にやりくりが難しかった。

 試合を振り返る。先制したのはヤクルトだった。

 5回表、7番ホセ・オスナがセンター前ヒットで出塁。その後は犠打などで2死二塁とすると、1番の塩見泰隆がレフト前へのタイムリーで先制した。2死だったとはいえ、迷いなく三塁を蹴ったオスナの走塁も的確だった。

 しかし、その裏、オリックスは同じように2死二塁の好機を作ると、1番の福田周平がやはりレフト前に落とす同点タイムリーを放ち、試合を振り出しに戻した。

 この同点劇で、オリックス先発の山本はギアを上げた。6回は2つの失策で無死一、二塁のピンチを背負うも、5番ドミンゴ・サンタナを併殺打。調子のいい中村もショートゴロに抑えた。7回もピンチを招いたものの、2番の青木宣親を力で押し込んでセカンドゴロ。8回は圧巻の3者連続三振で、さらに9回も続投して三者凡退に封じ込めたのだった。 こういう展開になると難しいのが投手起用だ。
 
 勝ち越していれば「勝ち継投」を迷いなく選べるだろう。

 しかし、両者にはこの時点で差がつかなかった。シリーズはすでに6戦目。疲労もある中で、同点のシチュエーションで勝負手を打っていいかどうかは選択が難しいのだ。

 だが、高津監督は5回途中から決死の継投に入った。

 複数イニングを投げたスアレス、清水、マクガフの球数は30球を超えている。もし、7戦目があったなら、登板できたかどうかは判断が難しかっただろう。しかし、言い換えればこの継投は、そのまま高津監督の「勝利への執念」が現れたものだった。

 12回表、ヤクルトは最後の攻撃だったが、簡単に2死を取られた。だがこの後、1番の塩見が安打。これが大きかった。高津監督はここで、代走から途中出場の渡辺大樹に代打の切り札・川端慎吾を投入したのである。

 直後に相手投手の吉田凌が暴投。2死二塁となると、川端がレフト前に落としてこれが決勝点になった。

 やはりここの代打策は見事だった。後ろに山田哲人と村上宗隆が控えているからストライク勝負をしなければいけない。投手からすれば少しのミスも許されない状況だったのだ。高津監督の“代打の切り札”の投入はまさにここしかないというタイミングだった。

 川端は殊勲の一打をこう振り返っている。
 「7回くらいからずっと準備していた。いつきてもいい用意していたので、最後の最後にいいところで回ってきてよかった。(代打で出た時は)ランナー一塁だったので、山田、村上と3、4番がいたので、後ろにつなごうと思って打席に入ったんですけど、ランナーが二塁になってくれて、いいところに落ちてくれた最高の結果になりました」

 12回裏はマクガフが一人の走者を出したものの、最後の打者をセカンドゴロに封じてゲームセット。マクガフの乱調から始まった日本シリーズは彼の手によって締め括られたのである。

 高津監督はこう振り返っている。

「勝つ気でみんなグラウンドに立ってくれたと思います。何とか打つほうも投げるほうもみんなでつないで、延長戦にはなりましたけど、何とか勝つことができました。ピッチャーに関しては高梨から始まり最後マクガフまでみんながそれぞれ持ち味をしっかり発揮して素晴らしい投球をしてくれたと思います」。

 振り返ってみると激闘続きの日本シリーズだった。

 高津監督は日本シリーズの初戦先発に高卒2年目の奥川恭伸を抜擢しながら、中6日では登板させなかった。これはシーズン中から続けている若い世代の将来を見据えた采配だった。一方、身体を守るばかりではなく、年数を重ねた投手たちには勝負所にどんどん注ぎ込んでいって勝利の執念を見せた。

 シーズンやシリーズを通して高津ヤクルトが見せた新旧の考えをミックスさせた戦い方はどの野球界の全てのカテゴリーへの大きなメッセージとなったことだろう。

 まさに、20年ぶりの日本一にふさわしいチームだった。

文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』『甲子園は通過点です』(ともに新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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