• HOME
  • 記事
  • 野球
  • 遠くに飛ばすコツを心得た打撃は天下一品!一方で課題は…花巻東の怪物1年生スラッガー・佐々木麟太郎の「現在地」<SLUGGER>

遠くに飛ばすコツを心得た打撃は天下一品!一方で課題は…花巻東の怪物1年生スラッガー・佐々木麟太郎の「現在地」<SLUGGER>

「全国デビュー」戦となった明治神宮大会でも大活躍。スター性も佐々木の大きな魅力と言っていいだろう。写真:滝川敏之
 現在、最も注目を集めている高校球児と言えば佐々木麟太郎(花巻東)だろう。

 今年、父である佐々木洋監督が指揮を執る花巻東に入学すると、春からホームランを量産し、明治神宮大会終了時点で高校通算本塁打数は49本を数える。史上最多となる高校通算111本塁打を放った清宮幸太郎(早稲田実→日本ハム)ですら1年秋終了時点では22本塁打だったことを考えると、いかにこの数字が規格外かということがよく分かるだろう。

 筆者は夏の岩手大会準決勝の水沢工高戦、秋の東北大会の東日大昌平高戦、そして明治神宮大会での国学院久我山高戦、高知高戦、広陵高戦と計5試合で佐々木のプレーを見たが、そのうち4試合でホームランを放っている。高校通算本塁打数は練習試合も含まれることから、数字通りにその価値を評価することはできないが、レベルの高いチームが相手の公式戦でもこれだけ続けてホームランを打てるというのはやはり只者ではない。

 この夏から秋にかけてのわずかな期間にも着実にレベルアップしており、それは打撃成績にもよく表れている。夏の岩手大会、秋の東北大会、明治神宮大会の成績をまとめてみると以下の数字となった。■夏の岩手大会
5試合 22打席 21打数 6安打
0二塁打 0三塁打 2本塁打
4打点 1三振 1四球
打率.286 出塁率.318 長打率.571 OPS.889

■秋の東北大会
4試合 18打席 13打数 5安打
2二塁打 0三塁打 1本塁打
4打点 4三振 5四死球
打率.385 出塁率.556 長打率.769 OPS1.325

■明治神宮大会
3試合 12打席 10打数 6安打
1二塁打 0三塁打 2本塁打
9打点 1三振 2四死球
打率.600 出塁率.667 長打率1.300 OPS1.967

 夏の岩手大会では5試合で2本のホームランを放ったものの、打率は3割を下回っている。打ちたいという気持ちが強く出過ぎて、ボール球に手を出すシーンも多かった。ただ、秋の岩手大会では厳しいマークの中でも4割近い打率を残すと、続く明治神宮大会では更に全ての成績を伸ばしてみせたのだ。大会前には左足のすねを疲労骨折していたにもかかわらず、初の全国大会となる舞台でこれだけの成績を残すというのは驚きである。 佐々木の最大の特長は、ボールを遠くへ飛ばす"コツ"を知っているということではないだろうか。筆者が初めて見た試合でのホームランは技巧派サウスポーがタイミングをずらそうとして投じた92キロのスローカーブをとらえたものであり、また明治神宮大会で放った2本のホームランは外角低めいっぱいのストレートと真ん中高めのボール球のストレートで、どのボールもヒットにはできてもホームランにするのは極めて難しいボールだった。

 東北大会の東日大昌平戦では、外から入ってくる少し甘い変化球だったが、タイミングを外されそうになりながらも体を残して逆方向の左中間に運んでいる。4本のサンプルでも打ったボール、打球の軌道、打球方向にこれだけバリエーションがあるというのは、どんなボールでも遠くへ飛ばすテクニックがある証明と言える。

 スウィングの形はメジャーで歴代最多シーズン73本塁打を放ったバリー・ボンズを参考にしているとのことで、構えている時はバットの動きが大きくヘッドもかなり中に入るスタイルだが、トップの形は安定しており、頭が上下動することなく鋭く振り出すことができている。また決して腕力だけでなく、下半身や体幹も使って振れるというのも大きな特長だ。 佐々木の魅力はバッティングだけではない。ピンチの場面では真っ先に投手に声をかけ、他の選手に対しても積極的に指示を出す姿が見られたのだ。また、明治神宮大会の高知高戦の第4打席ではレフトへの大飛球を放ち、セカンドランナーのタッチアップが早いということでダブルプレーとなったが、かなり微妙な判定に対して毅然とした態度で審判に質問する姿も見られた。

 高校野球では抗議は認められておらず、主将が審判に判定を確認することしかできないためルール的には良いことではないかもしれないが、すぐにこのような行動が自然と出るところにもチームを引っ張ろうという意識が感じられた。 もちろん、今後に向けての課題もないわけではない。まず気になるのは183㎝、117㎏という体格だ。夏から秋にかけて少し体が絞れたように見えたが、まだオーバーウエイトという印象は否めず、すねの疲労骨折にも影響していることが考えられる。体重の占める筋肉の割合次第では安易な減量はマイナスにもなりかねないが、長いシーズンを戦えるための肉体改造は必要になりそうだ。

 もう一つ気になったのがファーストの守備だ。動き自体はそれほど悪いわけではなく、スローイングの強さもあるが、グラブさばきや送球への対応はまだまだ不安定という印象を受けた。チームのことを考えても、守備のレベルアップはこの冬の強化ポイントと言えるだろう。 ただ、そんな課題も小さなものに思えるほどの打者としての魅力があることは間違いない。花巻東の先輩である大谷翔平(エンジェルス)がメジャーでホームランを量産した年に、日本の高校球界で華々しいデビューを飾ったということに運命を感じている人も多いのではないだろうか。近い将来、大谷と佐々木が海の向こうでホームラン王争いを演じる、そんな夢が正夢になることも十分に期待できるだろう。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

関連記事