「一番の選手になる」大谷翔平が描く“理想像”はどんなものか。イチローの“予言”を超えた偉才の行く末
「何をもって一番なのかっていう、少し曖昧なところではあると思うんですけど、まぁそこが良かったりするんですけど、これからも目指していきたい目標ではあるかなと思います」ーー11月15日に会見を開いた大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)は、4年前に「一番の選手になる」と言ったことを引き合いに出された際、こう口にした。
2017年11月11日、大谷はこの日と同じ場所でメジャーの目標を訊かれると、「野球をやっている以上は『一番の選手』になりたい。ファンの人に、『彼が一番だ』と言ってもらうのが幸せ。そういう選手を目指したい」と語っている。
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あれから4年、大谷は投打二刀流として圧巻のパフォーマンスを続け、打ってはリーグ3位の46本塁打、2位のOPS.965、投げても9勝、156奪三振をマーク。シーズンを終えて数々の媒体から「最優秀選手」にチョイスされると、選手間投票による両リーグで一人だけを選ぶ「年間最優秀選手」の栄誉に輝いた。日本時間19日に発表されるシーズンMVPの受賞も確実といった情勢だ。
MVPはシーズン“最高”の選手に与えられる、球界で最も名誉あるアウォードだ。普通に考えれば、これを受賞した段階で「一番の選手」と言ってもいいはずである。しかしおそらく、大谷の言う「一番の選手」とは、これだけでは不十分なのだろう。MVPの発表はまだではあるが、数多くの栄誉を獲得してもなお、その表情は達成感で満たされたものではなかった。
冒頭の大谷のフレーズを聞いた時、確かに「何をもって一番なのか」というのは、かなり深いテーマだと考えさせられた。例えば、ここ数年メジャーで最も重要視されているWARという指標がある。走攻守、投球のすべてを得点に換算し、いかに勝利に貢献できたのかを示すもので、選手の優劣を競うランキングや、アウォード投票においてもかなり重視されている。
果たして、今シーズンの大谷はメジャートップのWAR9.1(『Baseball-Reference』版)をマークした。歴史を作るインパクトはもちろん、選手としてのパフォーマンスも今季“最高”だったのだ。しかしそれでも、大谷は「足りなかったな、というところはたくさんあります」と言う。
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【PHOTO】“歴史的なシーズン”をホームランで締め括る!二刀流で大躍進を遂げた大谷翔平の2021年を厳選! 今から2年前、「世界一にならないといけない選手」として、大谷について評していたのがイチローだった。自身の引退会見、日本史上最高の野球選手とも言える存在が、熱を帯びながら語ったこの言葉が、改めて反芻されてくる。
イチローは大谷の二刀流について、あるシーズンは打者として本塁打王、次のシーズンはサイ・ヤング賞といった大胆すぎる提言を行なった。そして、「そんなことを(普通は)考えることすらできない。でも、翔平はその想像をさせるじゃないですか、人に。この時点で、明らかに人とは違う選手であると思うんですよ」と、真剣な面持ちで口にした。
そして、今シーズンの大谷は、イチローが「考えることすらできない」とした領域に足を踏み入れつつあった。最終盤まで本塁打王レースのトップに立ち、7月以降はコントロールが劇的に改善されて、サイ・ヤング賞クラスの投球を披露した。しかも、同時にだ。
シーズンが夏場を迎えた頃、「今季の大谷は史上最高のシーズンなのではないか?」との声が聞こえ始めた。確かに、投打の両部門でこれだけ完成度の高いプレーを見せたのは、あのベーブ・ルース以来のこと。しかも、よりハイレベルとされる現代野球において、ともにオールスター級の活躍する選手がいるなど、誰も想像できなかった。
しかし、これは大谷に対して”失礼”なのではないか、と思い始めた。なぜなら、稀代の天才自身が、今シーズンを「来シーズンにおける最低ライン」と位置付けているのだから。
向上、貪欲、飽くなき探求心。
今季の活躍は本当に心躍るものだった。こんなプレーは今後見ることができないとすら思っていた。しかし、大谷は満足しない。自身が描く「一番の選手」になるまでは。シーズンは終わったばかりだが、早くも来シーズンの大谷を見ることが待ち遠しい限りである。
構成●新井裕貴(THE DIGEST)
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