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16年ぶりV逸もネガティブ要素ばかりじゃない! 「まだまだ発展途上」の矢野阪神が示した“希望”とは?

矢野体制3年目を迎えた阪神。怒涛の快進撃を見せた序盤戦を思えば、確かに失速の感は否めないが、その戦いぶりは悲観的なものばかりではなかった。金子拓弥(THE DIGEST写真部)
レギュラーシーズンで2位の阪神は、クライマックスシリーズ・ファーストステージで3位の巨人に初戦から連敗。2日連続で今季最多動員を更新した甲子園にはファンのため息が充満した。

今季の課題を浮き彫りにするかのような、重苦しい連敗だった。初戦は菅野智之に7回2安打無失点の快投を許すなど、打線が沈黙。6回2死二、三塁では近本光司が遊飛に倒れ、チアゴ・ビエイラを引きずり降ろした9回2死満塁の絶好機でも代打・原口文仁が畠世周に三直で仕留められた。

続く2戦目は守備が乱れた。2点を先制した直後の3回、先頭・吉川尚輝の遊撃前へのゴロにチャージした中野拓夢がボールを弾く失策。ここから先発・青柳晃洋は3連打を含む4安打を浴びてノックアウトされた。劣勢ながら中継ぎエースの岩崎優が登板した8回も、三塁手の大山悠輔の失策が絡んで追加点を奪われた。

打線は勝負所で中軸にあと1本が出ず、守備では失点に直結するミスが続出。打線の得点力低下は夏場からチームがやや失速した要因でもあった。負けられない短期決戦でチームが抱える2つのウイークポイントが如実に出た形だ。シーズンで両リーグ最多(86個)を数えた失策数については矢野燿大監督も「それ(失策数)がなければもちろん優勝も可能だった。課題は多いですけど足りない部分を補うこともやっていかないとダメ」と厳しい表情を崩さなかった。
そんな“終戦”からわずか2日後、若手主体の秋季練習が始まった。「実りの秋」とも言われるこの時期について井上一樹ヘッドコーチは、「今日は打っとけ、逆に今日はバット持たんでいい、守備だけっていうのをできるのが秋」と語り、攻守のどちらかに極端な時間を割くプランも明言。浮き彫りになった課題を克服していく方針を示している。

開幕ダッシュに成功した今年の阪神は、一時は2位に7ゲーム差をつけた。しかし、最後はヤクルトにゲーム差なしの勝率5厘差で上にいかれ2位に甘んじた。周囲には「失速」「V逸」「終戦」とネガティブなワードが並び、ここで挙げてきたのもチームの弱点ばかりだ。しかし、希望を見出せた1年だったことも忘れてはいけない。

長年チームを支えてきたベテランが去り、今年からレギュラーの面々は20代中盤から30代前半へと一気に若返った。経験が乏しいなかでも序盤から勝ち星を積み上げ、終わってみればリーグ最多の77勝。失敗や苦い経験を糧にしながら若き集団は前進してきた。

その点について、125試合でスタメンマスクを被った梅野隆太郎もこう振り返る。

「優勝できなかったことはキャッチャーとして責任を感じます。ただ、すべて悪いわけではないですし、若いチームで良いことも悪いこともあった。チームとして143試合目、最後まで優勝争いができた。まだまだこのチームは発展途上だと思う」
ルーキーたちの成長も感じ取れた。驚異のパワーを見せつけ、24本塁打を放った佐藤輝明は1年目からプロの明暗を体感。ドラフト2位の伊藤将司は10勝を挙げ、シーズン終盤からポストシーズンにかけては慣れない中継ぎでも好投するなど、貴重な経験値を得た。

遊撃手の定位置を奪った中野拓夢も、ミスを補って余りある好守の数々で、先輩投手たちを救ってきた。最後は短期決戦で痛恨の失策を犯したが、本人は「ミスから逆転を許してそこの恐さを改めて感じた」と身を持って感じたワンプレーの重みを、来季以降の成長への“特効薬”にする決意だ。

今季114盗塁は12球団トップだった。1、2番で組まれる試合が多かった近本、中野は2人で54盗塁を記録するなど、球界屈指の快足コンビとして定着。代走陣も高い成功率で試合終盤に存在感を示すなど、その機動力は矢野監督の標榜する失敗を恐れない積極的なプレースタイルの“飛び道具”として確立されつつある。
さらに投手陣では、西勇輝の不振を青柳、秋山、伊藤の3人が2桁勝利を挙げてカバー。高卒2年目の及川雅貴も39試合に登板して10ホールドを挙げるなど、緊迫感ある場面での登板で力を養った。

多少の息切れ、傷を負いながらも各々が長く険しい道をなんとか走り切った。16年ぶりのリーグ優勝に向かった最後まで戦い抜いた日々が、選手たちの未来への“投資”に変わり、チーム全体の進化に繋がると信じたい。矢野監督4年目の指揮となる2022年に、その答え合わせが待っている。

取材・文●チャリコ遠藤

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