大不振からの脱却はやはりイギリスの地 真のスマイルを取り戻した渋野日向子が“劇場”を演出【全英プレーバック22年】
一世を風靡した渋野日向子フィーバーの始まりはイギリスだった。2019年大会で衝撃の初出場初優勝を飾った全英は、渋野に不思議な力を与える場。昨年8月、不振のどん底であえいでいた渋野はまたしてもスコットランドの地で光り輝いた。首位と1打差の3位。プレーオフに進めずに惜敗したが、前週までの不調からは想像できないほどの活躍だった。
■初日は“驚き”の首位発進
女性禁制をとっていたため、全英オープンのロースターから外されている名門クラブが、ついに女子のメジャー大会に門戸を開いた。名門・ミュアフィールドは、スコットランドのゴルファーにとって憧れの場所。セントアンドリュース・オールドコースに並ぶほどの威厳を放つコースだ。そんなコースに足を踏み入れた渋野は、表情も明るく大会前の練習でも笑顔が多く見られた。
4月に2度の優勝争いを演じながら、5月以降に調子を落とし、6月末には体調不良もあってメジャー大会で途中棄権。その後は「アムンディ・エビアン選手権」、「トラストゴルフ・スコティッシュ女子オープン」と連続予選落ちで迎えた全英。極度の不振に浮かない表情の連続だった渋野のスマイルが開花した。
実はこの前週のスコットランドである程度吹っ切れていた。大会前のインタビューでも「リンクスと言えば…リラックス(笑)」と、突っ込みどころ満載の珍回答も飛び出すなど、文字通りリラックスムードで臨んだ。
「風がすごく強いし、リンクスならではの地面の硬さ。グリーンのアンジュレーションもあるし、やっぱりバンカーも難しい」とリンクスの中でも最も難しいとされるコースを前に警戒心を深めた。ところが、いざ本戦が始まると、そんな心配は杞憂に終わった。初日は8バーディ・2ボギーの6アンダー。なんと単独首位発進を切った。
「自分が自分じゃないみたいにパッティングが入った。緊張感ある一日でした」。強い風のなか、出だしで長いバーディパットを決めると、その後もショット、パットともに好調。「ほんと『いつぶり?』みたいな。こんなにパターが入るのが久しぶりだったので、ちょっと怖かったです(笑)」とおどけた。
前週のスコティッシュ女子オープンでキャディの助言からパッティングのアドレスを微調整。パットが復調したことによりショットにも好影響を及ぼし、一気に回復してみせた。ところが2日目は耐える1日となってしまう。1バーディ・3ボギーで2つ落とす羽目になるも、なんとか首位と4打差の7位タイで踏ん張り、4日間大会としては4月以来の予選突破を果たした。
「本当にきょうはキレずに耐えたなと思うし、少しは変われたからこそ、この位置にいられるのかな」と自分を褒める。久しぶりの決勝ラウンド、そして大会2勝目も見える位置で週末へと進んだ。
■最終日は因縁の相手とのマッチアップ
爆発的なスコアのあとに後退、そしてムービングデーは再び爆発を果たす。決勝ラウンド初日。渋野がまたしてもリンクスの風を味方につけた。6バーディ・1ボギーで5つ伸ばし、トータル9アンダー。首位とは5打差ながら、2位で最終日に進むことになる。「きょうは風との戦いになると思っていた。出だしからショットの距離を合わせられたので、大丈夫かなと。ただ、ここまでいいスコアで回れるとは思わなかったのでよかった」。見事に風と友達になった。
「これだけ風が吹いているとそのことしか考えられないぶんよかった。昨日のほうが風はなかった。風があったほうが得意なのかなと思っちゃうくらい(笑)。自信をもって最後まで振りきれたのがよかった」。圧巻のラウンドで再びV戦線に浮上。そして最終日は、19年の決勝ラウンド2日間を回ったアシュレー・ブハイ(南アフリカ)との組み合わせで、5打差を追うことになった。
小さな差ではないが、好調のブハイを追うには厳しい状況。それでも5番でイーグルを奪うなど追い上げを見せる。前半を終えて3打差まで詰め寄り、サンデーバックナインに突入した。なんとかパーでしのぎブハイの背中を追うが、14番ではティショットをポットバンカーに入れ、最後は1メートルのボギーパットを外しダブルボギー。ここで5打差、万事休すかと思われたが、続く15番でドラマが生まれる。
ブハイがティショットをバンカーに入れると、まともに打てないライ。グリーンとは逆方向に出すも、深いフェスキューからの3打目以降もトラブル続き。なんとトリプルボギーを叩き、2打差まで詰まった。17番でもバーディ奪取。1打差で最終ホールに入った。望みをつないだ最終ホール。ティショットが右ラフに入ると、これが思いがけず深い。なんとかかき出しグリーン奥に運び、2.5メートルのパーパットを沈めたが、ブハイ、チョン・インジ(韓国)に1打足りずに3位で終戦した。
「率直に、めちゃくちゃ悔しい」と唇をかむ。「イーグル、ダボ、いろいろやった1日(笑)」と笑いで隠すが、目には涙を溜めた。「要所要所でよかったところもあると思う。悔し過ぎるけど、本当に最近の自分のゴルフの内容を考えると、よく頑張ったなと言いたい」。苦戦続きの数カ月を思えば、よく戻ってきたといえる内容と成績だった。
「2019年の全英によって、世界の方、日本の方に知れ渡って、私が作り上げられた大会。場所がどこであれ、楽しむ気持ちを思い出させてくれる場所」。そう言い残し、最後は晴れやかな笑顔でイギリスをあとにした。
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