プレミアリーグに君臨、“欧州新最強クラブ”の軌跡 マンチェスター・シティ発展の歴史と経営戦略
現在欧州において最高峰のリーグとされるのがイングランド・プレミアリーグ。毎年移籍市場において巨額の移籍金が動き、世界屈指の選手や監督が引き抜かれ、リーグとしての規模や競争力は他の追随を許さない。そんなイングランドにおいて、近年台頭し黄金時代を築くのがマンチェスター・シティ。2010年代以降にプレミアリーグを6度制し、今季はリーグ戦3連覇に加え、初の欧州チャンピオンズ・リーグ制覇も視界に捉える。そんなマンチェスター・シティについてクラブ繁栄の歴史、グローバルに展開する経営戦略などから強さを紐解いていきたい。(文・井本佳孝)
2011-12シーズンにプレミア初制覇
写真:ダビド・シルバ(提供:ムツ・カワモリ/アフロ)
同じ街の人気クラブ、マンチェスター・ユナイテッドに比べると中堅クラブに過ぎなかったマンチェスター・シティの流れが変わったのが2000年代の後半。タイやUAEの新オーナーがクラブを買収し、巨額の資金力を獲得。2008年夏には当時のブラジル代表FWロビーニョ、2009年夏にはアルゼンチン代表FWカルロス・テベス、2010年夏にはスペイン代表MFダビド・シルバといった移籍市場においての“目玉商品”を次々に獲得。毎年のように巨額の資金を投じ、チームを強化していく。
そんな強化策が実を結んだのが2011-12年シーズン。この年もアルゼンチン代表FWセルヒオ・アグエロという世界屈指の若手ストライカーを加えたチームは躍進し、最終節でライバルのユナイテッドと同勝ち点ながら、得失点差で上回り悲願のプレミア初制覇。2013-14シーズンにも2度目の優勝を果たし、プレミアリーグでは毎年上位に名を連ね、欧州CLの舞台でも2015-16年シーズンにはベスト4に進出するなどイングランドだけでなく、欧州においてもその名が認知されていく。
マンチェスター・シティの強さを不動ものとしたのが2016-17シーズンで、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘンでポゼッションサッカーを武器に世界的な名将となっていたジョゼップ・グアルディオラを招聘する。選手に加え監督の強化にも成功したチームは2017-18シーズンからリーグ連覇を果たし、2020-21年にはプレミアリーグに加えて欧州CLでも初の決勝進出。2010年代以降では6度のプレミア制覇を果たす黄金期を形成。新たな名門チームへと進化を遂げたのだった。
2019年1月に板倉を獲得
写真:板倉滉(提供:picture alliance/アフロ)
マンチェスター・シティが展開する強化策が「マルチ・オーナーシップ制度」で、近年の欧州サッカー界においてひとつのトレンドとなっている。マンチェスター・シティの株式を所有する持ち株会社シティ・フットボール・グループが2008年に設立され、2013年にはアメリカMLSのニューヨーク・シティが同グループに名を連ねる。2014年1月にはオーストラリアのメルボルン・シティ、同年7月には親会社である日産自動車とグローバルパートナーシップを形成した上で、日本の横浜F・マリノスも加盟。その後、2023年には13クラブ目としてブラジルのバイーアが参入した。
この制度を敷くメリットは各国にチームを所有することで、世界中にスカウトの目を光らせておくことができる点。2019年1月にマンチェスター・シティは川崎フロンターレから板倉滉を獲得し、その後ローン移籍でオランダのフローニンヘン、ドイツのシャルケでプレー。欧州で経験を積み市場価値を高めた板倉は、マンチェスター・シティでプレーすることはできなかったが、加入当初110万ユーロ(約1億6000万円)だった移籍金は、ボルシアMGに完全移籍した2022年夏には500万ユーロ(約7億3000万円)と約5倍に上昇。親クラブでプレーさせることはなかったが、マンチェスター・シティは板倉を獲得したことで約400万ユロ(約5億9000万ユーロ)の利益を得ることになった。
「マルチ・オーナーシップ制度」を利用し世界中にマンチェスター・シティの名を認知させるとともに、それぞれのクラブのスポンサーや選手を共有。さらに、選手の売買で利益を得ることで、移籍市場においては引き続き巨額の資金を投じチームの強化に充てていく。この手法は批判の対象となることもあるが、クラブを10年余りで急速に繁栄させるためにプラスに作用してきたことは間違いなく、フィールド内での結果に加えて、マンチェスター・シティを世界屈指のブランド力を備えるチームへと進化を遂げるために一役買った。
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