大阪×フットボール。地域に根付いた専門店「岸和田スポーツ」の生存戦略[PR]
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全国展開をする大型スポーツ専門店と、特定の地域に根付いた専門店。一見してライバル関係にある両者が、手を取り合ってビジネスを加速させる事例が生まれます。
関西で店舗展開をするスポーツ小売りの岸和田スポーツが運営するサッカー&フットサル専門店「Kemari87 KISHISPO」が、2022年11月8日にオープンするスーパースポーツゼビオ ららぽーと堺店(以下「ゼビオ」)とコラボレーションOPENをします。このゼビオ店舗内にサッカー売場は設けられず、実質的に「Kemari87」がゼビオに来店するサッカープレーヤーの受け口となります。
地域に密着しサッカー&フットサルを中心とする専門性で展開するスポーツ小売店と、全国展開で培ったオールスポーツの専門性でスポーツ小売りが展開する新たな世界に注目が集まります。
今回、ゼビオとコラボするに至った岸和田スポーツに焦点を当てます。大阪という地域に根付いて店舗を展開してきた同社は、どのようにして価値創出をしてきたのでしょうか。今回のコラボレーションの背景も含め、岸和田スポーツの三代目社長・阪下岳氏にそのストーリーを伺いました。
サッカースパイクのEC販売の先駆け
ーまず、阪下さんの経歴を伺ってもよろしいでしょうか?
私はもともとバスケをしていたのですが、途中で挫折をしてから遊びで社会人サッカーを始めました。大学ではイベントサークルでサッカー中心にアクティブに過ごして、卒業後は家業である岸和田スポーツに入社しました。祖父が立ち上げ、私が三代目になります。当時はまだ総合スポーツ店でサッカー専門店がなかったのですが、新しく始めた店舗の店長を入社11ヶ月くらいで任された際、サッカー専門店にしたんです。これがスタートですね。同時期にECサイトも立ち上げました。
ーそこから全体として専門店へシフトしていき、Kemari87 KISHISPOができたと。
サッカーは僕自身が最も興味あるスポーツでしたし、お客さんも明るかった。深い仕事をしたいという思いもありました。総合店を営む中で、興味のないものをお客さんに偉そうに話すのは良くないな……と感じていたこともあったんです。加えて、サッカー専門店が大阪にあまりなかったのも大きかったですね。
ちなみに “Kemari”という名前は、2002年にネットショップを開設した際に名付けたものです。海外向けにも展開したいと考えていたので、日本らしさがある “Kemari” を使おうと。ただ、同じ名前のサイトが多かったので、僕の誕生日である8月7日から取って “87” を後ろに付けました。
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ーECの話がありましたが、2002年にネット販売をするというのは、かなり早いと思います。
当時は雑誌に広告を出して商品の販売に繋げている店舗さんが多かったのですが、かなり費用もかかったんです。実際に私たちも掲載しましたが、「掲載費を回収するにはなんぼ売らなあかんねん!」と思うほどで。しかも、効率も悪かった。電話で住所を聞いて代引きの手続きをするのですが、住所を聞き間違えて何度もやりとりが発生するのはザラでした。
一方、人数をかけずかつ低予算でできるのがECでした。電気屋さんで1万円くらいのECサイトを構築できるソフトを買って、自分で商品の写真を撮って値段を打ち込んで登録をしました。すると、意外と早く成果が出て1日1~2万円くらいは売れるようになってきたんです。「これはいけるかも」と思いました。そこからECについて色々と勉強して、大型モールができたらそこに入ったり、と。今でもそうですが、こういった仕組みを勉強するのは楽しかったですね。
ーちなみにどういった流入経路があったのでしょうか? スパイク名の検索から入ってくるのでしょうか。
そうです。『アディダス スパイク』といった感じで検索したら、ヒットする専門店のサイトが全国で3つぐらいしかなかったんです。2003年の頭ごろの話ですね。ただ、2005年から一気に増えた印象があります。
ECは売れる。でも店舗にこだわる理由
ー現在はECが優勢なのでしょうか。
そうですね。それは業界全体にも言えることです。とくにグローバルブランドのアディダス、ナイキの2つがそこに力を入れているので。2015年あたりからガラッと変わった印象があります。
私は2002年日韓W杯のときに入社したのですが、当時はインターネットが走り出した時代で、ECの比率はまだ低かったんです。ただ、未来を見据えて先行者利益を取ろうと思ったのではなく、来店するお客様に喜んでもらえるように在庫をたくさん用意して、それらの売り逃しを避けるためにECを利用していました。もちろんECで購入いただくお客様も大事ですが、あくまでも来店いただくお客様第一で考えていました。
ー実店舗へのこだわりは強いんですね。
ネットではありものしか売れません。在庫が無いものに対してメール問い合わせをできるようにしたり、取り寄せて欲しいボタンを設置したりしたのですが、そこでお客様の生の声は聞けません。買う理由、選ばれた理由、買わない理由、買いそびれた商品が何なのか。実際に触ってみて合わなかった商品や、触られもせず、見向きもされず“賞味期限”が切れてしまった商品もその要因がネット上ではわからない。また、お客様が所属するチームや普段使用している環境などは、店舗にいないと入ってこない情報です。スポーツ小売りにおいて、実店舗は重要です。
ー大阪に根付いているイメージがありますが、そこへのこだわりについてはいかがでしょうか。
まず、私自身が大阪で生まれ育ったというのが大きいですね。もともと「大型小売店があれば専門店はいらないだろうな」と思っていたのですが、いざ自分が大型店を回る中で、満足できる顧客体験ができなかったんです。特に私は足のサイズが28.5cmと大きく、靴選びに苦労する経験は他の方より多かった。それも大きかったのかなと。
自分が回った大型店では専門性のない店員さんの説明や、“売りたい”という思いが先行しているコミュニケーションが多かったんです。その経験から、「しっかりとお客様に寄り添う専門店が必要だ」と感じました。昔から大阪で営んできた背景もありますが、この地域でサッカーをするお客様に深く関わり、地域に寄り添って展開したいという思いが強いです。
–顧客体験の話で言うと、競技用の用具は実際に手にとって、アドバイスを受けながら決めるほうが良いですよね。ただ、ECが先行している今、その重要性をわかっていないお客様もいそうです。
サッカースパイクは普通の靴と選び方が異なっていて、子どもに買う用具の知識を持っていない親が「大きめを買っておけば良いかな」と思うことが多いんですよね。1万5千円以上する高価な商品でそういった間違いを犯してしまう。
昔、某有名選手の履いているシューズだからという理由で子どもにスパイクを買う親御さんがいました。その選び方に疑問符が浮かんだのですが、しかも、大きめのシューズを買ってしまって土のグラウンドでサッカーをさせて、挙げ句「つま先が破れたから交換してほしい」と言われたんです。悲しくなりましたね。
–選手を広告塔に出す弊害もありますね。
多くのメーカーが「◯◯選手が履いている」という打ち出し方をしていたのが2000年ごろまでですね。そこから、高校サッカー選手権での着用率や日本人の足にどれだけ合っているかの説明を入れるなど、支持率や機能性を打ち出すようになりました。日本人の足に合うということで、国内メーカーのミズノさんやアシックスさんが売れるようになりましたね。自分の足にあったモノを選ぶ、という流れになったのは業界として良いことだと思います。
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