ボクシング

「PPVで試合観戦」への賛否両論 コンテンツ有料化は茨の道か、新たな金脈か

9月25日にさいたまスーパーアリーナにて行われる格闘技イベント「超RIZIN(スーパーライジン)」および、「湘南美容クリニック presents RIZIN.38」(RIZIN.38)。朝倉未来とボクシング元世界5階級制覇王者のフロイド・メイウェザーによるエキシビジョンマッチでも注目を集めるこの大会は「ABEMA(アベマ)」のPPVにて全試合・全世界に完全生中継されることが決まっている。そこで、近年スポーツコンテンツを楽しむ手段として注目を集めるPPVについて、これまでの歴史やこれからの可能性について探っていきたい。(文・井本佳孝)

スポーツ界初のPPV導入は伝説の一戦

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(Photo by simpson33)

PPVとは「ペイ・パー・ビュー」の略称で、有料コンテンツに料金を支払って視聴するシステムだ。視聴者側にとっては月額固定料金で見放題の定額制に対して、見たいものがなければ料金がかからないというメリットがある。ボクシング、プロレスなどの格闘技に加え、コンサートや映画などの放送で用いられてきたこのシステムはアメリカで1951年に電話線を利用したものとして開発された。その後、1972年にケーブル、1990年代に入り衛星放送を利用したシステムもPPVとして利用できるようになってきた。
初めてスポーツ中継でPPVが本格導入されたのは1975年のこと。「スリラー・イン・マニラ」と呼ばれたプロボクシングWBA・WBC世界統一ヘビー級タイトルマッチ、モハメド・アリ対ジョー・フレージャーの一戦で、ボクシング史上最高の試合と評される激闘だった。その後、ボクシング、UFCなどの総合格闘技、WWEなどのプロレス中継において、PPVでのシステムを用いた中継が徐々に広まっていったという経緯がある。
1イベントにおけるPPVの最多販売記録は2015年に行われたボクシング世界ウェルター級王座統一戦、メイウェザー対マニー・パッキャオの試合で、440万件もの購入数で売り上げは4億ドル(当時の為替レートで約480億円)に達したという。近年のスポーツ界においてはボクサーが高額所得者として名を連ねるようになったが、その後押しをしているのがPPVによる収益で、魅力的なカードが組まれより多くのファイトマネーが見込めるようになることで、選手としてのステータスを高めることに繋がっている。

日本でも可能性見せるPPVと現状の課題

日本においては2021年12月14日に行われたボクシングのWBAスーパー&IBF世界バンタム級タイトルマッチ、井上尚弥対アラン・ディパエンの試合を「ひかりTV」と「ABEMA」が国内の世界戦では初となるPPVで生配信した。これまではジム側とテレビ局がタッグを組み、地上波放送を実現させてきた歴史があったが、日本ボクシング界のスター選手である井上の選手としての価値向上によるファイトマネーの高騰、新型コロナウイルスによる入場者の制限なども相まって、PPVによるビッグマッチの配信が実現した背景がある。
また、今年の6月19日には東京ドームで格闘技イベント「THE MATCH2022」が開催され、那須川天心対武尊のメインカードは“世紀の一戦”として注目を集めた。この中継は当初フジテレビでの2時間生中継が予定されていたが、放映中止が発表された。「ABEMA」が生放送としては独占でPPV配信し、購入者は50万人以上に渡ったと言われている。ここ最近の格闘技を中心とした日本スポーツ界におけるPPV配信が一定の成果を挙げだしていることで、その他のスポーツを含めて、この手法が一般的に浸透していく可能性は出てきたと言えるだろう。
一方で、日本の文化として地上波でのスポーツ観戦がまだ残っていることも否定できない。「THE MATCH2022」のフジテレビの生放送中止は各方面に波紋を呼び、野球やサッカーなどに比べると格闘技人気が現状高くない日本において、一般の層に浸透させる広がる可能性がある地上波中継がなくなっていくことを危ぶむ声も聞かれている。また、PPVによる配信は井上、那須川、武尊といった一般層にも認知度のあるスター選手の存在によってマッチメイクが実現し、ビジネスとして成立している面がある。今後コンスタントに利益を上げていくためには、格闘技自体の市場価値を高め、継続的に視聴者が楽しめるカードを組むための取り組みが必要になるだろう。


(次ページ「今後スポーツ界で主流となるのか」へ続く)

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