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抱えていた“疑念”を払拭したダニエル太郎。マリーに惜敗するも「本当に近いところにいると思う」<SMASH>

あと一歩のところでマリーに敗れたダニエルだが、要所で攻めの選択をした結果だ。「自分に誇りを持って前に進んでいく」と語る。(C)Getty Images
1月の全豪オープンテニスでは圧巻のストレート勝利を収め、わずか2週間後の再戦では、リベンジを期する相手の攻撃と気迫に圧倒された。

「メルボルン(全豪)で勝ったのは、まぐれだったのかな……」

敗戦後に心をよぎったその疑念に答えを示す機会は、幸運にもというべきか、引き寄せるかのように訪れた。“第5のグランドスラム”と称される、BNPパリバ・オープンの1回戦。予選を突破したダニエル太郎がメインドローで飛び込んだのは、アンディ・マリーと当たる枠だった。

「彼にはメルボルンで勝って、ドーハで負けた。自分が勝つチャンスを見い出せるか、今日の試合はテストでもあった」

自分の実力と現在地を測るうえでの、試験的な意義をも投影した試合。その一戦にダニエルは、明確なビジョンを持って挑んでいた。

「僕がボールを動かす方でないと、勝つチャンスはないなというのはわかっていた。最初から、自分からポジションを上げて押していこうと思っていた」

それは直近の対戦で、「気持ちで引いてしまった」との反省があったからこその判断。勝利と敗戦の両方を経験して気付いた、かけがえのない未来への布石だった。
ダニエルのプラン完遂への決意は、試合開始直後のコートにめいっぱい描かれる。ベースラインから下がらず、深く、なおかつ広角に打ち分けラリーを支配するのは、ダニエルの方。それも遮二無二攻めるのではなく、理詰めの配球で押し込み、時にしれっとネット際にドロップショットを沈める。

「メルボルンの時よりも、もっと良いプレーで完全に相手を上回れた」と自画自賛のパフォーマンスで、ダニエルが第1セットを6−1で先取した。

だが第2セットでは、マリーが「適応して、僕を崩しにきた」と感じたとダニエルは言う。

先んじて攻めるようになったマリーは、短いボールも使いながら、ダニエルのリズムと打点を狂わせていく。ダニエルのミスが増えたこともあり、第2セットはマリーの手に。それぞれのワンサイドゲームだった過去2戦のダイジェストのような展開で、セットを分け合った両者。そして今季3度目の対戦は、第3セットへと突入した。

雌雄を決するファイナルセットで、先に打ち合いを支配したのは、ダニエルだ。攻め込みボレーを決めたかと思えば、逆に相手を前に誘い出し、パッシングショットを叩き込みもする。第1ゲームをブレークし、その後に追いつかれるも流れダニエルにあるまま、ゲームカウント4−4の局面を迎えた。
このゲームでサービスを打つ時、マリーは観客の動きが気になり、セカンドサービスでトスをやり直す。

マリーの心の乱れを察したダニエルは、「今が攻め時。特に追い風だから、リスクを取って攻めよう」と自分に言い聞かせた。前に踏み込み、やや甘いセカンドサービスを、高い打点で捉えストレートに叩き込む。鮮やかなリターンウイナーを決められたマリーは、直後のラリー戦でもミス。ダニエルに、マッチポイントにも近いブレークチャンスが訪れた。

ここでもマリーがファーストサービスをミスした時、ダニエルの脳裏に、2ポイント前のリターンウイナーのイメージがよぎったという。その場面と同様に、「ブレークポイントの時にも、またフォアに回り込もうと思った」と後に彼は振り返った。だがマリーのサービスは、今度はフォアサイドに放たれる。

「それでタイミングずれちゃったので。ただ普通だったら、あのボールは入れにいけたと思う。あそこで決めたいという思いがあったから、身体が引いて、フレームに当たっちゃったところもある」

結果的にこのチャンスを逃したダニエルは、やや気落ちしたと認める。

続くゲームでは、最初のポイントでスマッシュをミスし、焦りに拍車が掛かった。最後も、フォアがややフレームショット気味になり、このゲームを……つまりは、試合そのものを取りのがす。
もし、あのブレークポイントで、リターンを確実に入れにいってたら——?

そんな仮定を、考えもしただろう。それでも彼は、「そういうのも駆け引きだと思うので」と、穏やかに笑った。

試合後のダニエルは、「今はまだ負けたばかりなので、悔しい」と率直な思いを吐き出す。ただ、戦前に抱いていた、「メルボルンで勝ったのは、まぐれだったのかな」の疑念は、払拭できたのではないか?

その問いに彼は、「絶対にそうだと思います」と即答した。
「良い試合で勝てて、良い試合で負けてもいる。マリーと3か月で3回もやっているのは、自分をその地位に持っていけたから。こういう試合に、これからもっと勝っていけるようにしたいけれど、でも本当に近いところにいると思うので……」

そこまで言うと、彼は少し言葉を切り、自身を肯定するように続けた。

「うん。自分に誇りを持って、前に進んでいきます」。

【BNPパリバ・オープン男子シングルス1回戦】
ダニエル太郎● 6−1、2−6、4−6 〇アンディ・マリー

現地取材・文●内田暁

【PHOTO】全豪OPで快進撃を演じたダニエル太郎の厳選フォトギャラリー

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