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普及発展の先に描く“観る競技”への昇華。フットサル・岩本昌樹×ビーチサッカー・笛木威治対談

今回はフットサルとビーチサッカーという、サッカーから派生した異なるスポーツに携わる2人を迎えて対談を行った。

岩本昌樹選手(写真:右)はフットサル創成期から競技の発展に尽力し、40歳となった現在でもFリーグ・バルドラール浦安の主力としてプレー。スクール活動やイベント出演など、多岐にわたって活躍している。

笛木威治氏(写真:左)は現在、千葉県美浜区幕張を本拠地として活動しているビーチサッカーチーム・Vamos a la Casa(バモス・ア・ラ・カーサ)のGM。ビーチサッカーの普及活動を通して、プロリーグの創設を試みている。

互いに協力してイベントの企画運営を行うなど、公私共に親交が深い2人。日本のフットサル界とビーチサッカー界を支える両雄が、競技の成り立ちや今後の課題について語った。

SNSを経由して出会った2人

-**まず、お二人がどのようにして出会ったのか教えてください。**

笛木**:**僕がビーチサッカーを普及させていこうと考えたときに、そもそもリーグってどうやってできあがっていくんだろう?と思いまして。それでFリーグのことを調べていて、昔から活躍している年齢の高い選手を探していったら、もっさん(岩本昌樹選手)を見つけたんです。たまたまFacebookで友達になっていたのでメッセージを送ってみたら、実際に会って話すことになりました。かい摘まんで話すと、もっさんは「まずは独立リーグでもいいから開いちゃいなよ。そしたら後からきっとJFAが歩み寄ってくれるから」と言っていたんですよ。フットサルも、最初はJFA管轄ではない独立リーグからスタートしたそうです。

岩本**:**フットサルをエンターテインメント性のある「観るスポーツ」にしたいという趣旨で、関東のトップチームが集まって、スーパーリーグを自分たちで立ち上げました。まだ僕が20代だった時の話ですね。それ以前は関東リーグがあったものの、お客さんを呼ぶような仕掛けや広告的な部分はなかったんです。

スーパーリーグは完全なアマチュアリーグだったので、好きなだけでは続けていけないところもあって、なんとかプロリーグを作ろうと必死でした。ゼロからイチをつくっていたという意味では、今のビーチサッカーと一緒だと思います。当時はサッカーをやっている人はフットサルを知っているけど、それ以外の人には知られていなかったんです。

笛木**:**フットサルのいいところは、箱(競技施設)があるところだよね。僕らには箱がないから、人口を増やすのが本当に難しい。だけど、ビーチサッカーはやったら本当に楽しいんです。ビーチサッカーをやると今までの自分のサッカー人生をすべて否定されますけどね。「こんなヘタじゃない!」「自分はもっとうまい!」って。それくらい不安定なところでボールを扱っているんですよ。今は民間のフットサル場って本当に増えたよね。いつ頃からかな?

岩本**:**Fリーグは来年10周年を迎えるけど、リーグができるもっと前からでき始めていたと思う。

笛木:ちなみに、Fリーグ初年度からプレーしている人って、今はどれくらいいるの?

岩本**:**意外といるよ。俺みたいな40歳オーバーはほとんどいないけど(笑)

-**今年2月、フットサル日本代表はAFCフットサル選手権のプレーオフで敗れ、W杯出場を逃しました。岩本さんが日本代表候補に選出された2000年当時は、W杯に出場しようという取り組みはありましたか?**

岩本**:**ありましたね。その頃はW杯に出たこともなかったですし、世間にフットサルが知られていなかったのであまりクローズアップされることはなかったですけど。今回のアジア選手権のように代表戦がテレビでも放映されれば、いままでフットサルを見たことがない人を取り込むチャンスが広がりますね。

笛木**:**代表の成績は、その競技の注目度に必ず直結するんですよね。なでしこジャパンを見ればそれは分かると思います。そういった意味では、ビーチサッカーは過去にW杯でベスト4に進出したことがあるんです。でも、フットボールで男子がW杯ベスト4なんて、ビーチサッカーだけですよね。しかも日本には練習環境が少ないのに。私はビーチサッカーが日本人に合っていると思うんですよ。相撲に代表されるような足腰の強さもありますし、マラソンのような自分を追い込む競技も得意ですし。ビーチサッカーは乳酸地獄ですから・・・(笑)

そういえば、ビーチサッカーではラモス瑠偉さんが監督をやっていたけど、フットサルも木村和司さんがやっていたよね。

岩本**:**そうそう。俺が初めて代表合宿に呼ばれたときは、マリーニョが監督の時だったけど。まだフットサルを初めて1年半くらいの時だったかな。それまではサッカーのトレーニングの一環としてフットサルをやっていたんだけど、合宿でそこに情熱を持っている人たちとプレーして、いろいろな刺激を受けたね。それからサッカーをやめて、フットサルでやっていこうって思った。

笛木:フットサルって、初速勝負みたいなところがあるじゃない。もっさんは初速がすごいんだよね。いまだにチームの体力テストでも1位でしょ?

岩本**:**最近は測ってないけど、ちょっと前は短距離走、ジャンプ力、※Yo-Yoテスト、アジリティ(敏捷性)の4種類のテストがあるんだけど、全部1位。38歳くらいの時は、前の年より短距離走が速くなってたからね(笑)

Yo-Yoテスト・・・20mの往復走を、インターバルを挟んで走る持久力測定テスト。

笛木**:**もっさんは絶対ビーチサッカーに向いてるんだよね。ビーチでは体重があると砂に埋もれていってしまうので、スピードという面では、軽いほうがいいんですよ。茂怜羅オズ(ビーチサッカー日本代表)もそうだけど、カモシカみたいに細い脚の人が多くて、サッカーのディフェンダーのような、がっちりしてる人は少ないんです。だから、もっさんは向いてると思うんだ。これ、ビーチサッカーに口説いてるだけなんだけど(笑)でも、まだスピードも上がってるし、フットサルでいけるからね。スポーツ選手は40歳で現役は無理だとか決めちゃダメだと思うんだよ。この人なんて今がピークかもしれないし。

岩本**:**自由に交代ができるからね、フットサルは。

笛木:ビーチサッカーもそう。それも含めてビーチサッカーはフットサルに近いんでしょ、ってよく言われるけど、そこは絶対サッカーのほうが近いんだよね。やってることはサッカーと同じで、フットサルとは別物。だから、サッカー出身の人はいるけど、フットサル出身の人はいない。カントナ(元フランス代表)とかロマーリオ(元ブラジル代表)とか、最近はレコバ(元ウルグアイ代表)もビーチサッカーを始めたよね。日本でも、高校で一生懸命サッカーをしたけど大学では生き残れなかった人の選択肢に、ビーチサッカーやフットサルが入ってくると面白いと思う。

岩本**:**周りに高校サッカーの全国常連校とか、Jリーグのユースチームの指導者が結構いるんだけど、この時期になると連絡が来るんだよね。「フットサルやりたいやつがいるんだけど」って。その人をバルドラール浦安セグンド(サテライトチーム)の練習に参加させてあげたりはしてる。

笛木**:**フットボールをやめちゃうのが一番もったいないからね。もしかしたらフットサルとかビーチサッカーにいったら、成功するかもしれないし。サッカー、フットサル、ビーチサッカーの3つでプレーしたのは比嘉リカルドさんだけかな?カズさんはフットサルもやっていたけど、ビーチサッカーにも来ないかな(笑)

岩本昌樹

笛木威治

長く続けていくことの難しさ

-**岩本さんはミスター・バルドラールとして、バルドラール浦安でプレーし続けていますが、移籍を考えたことはありますか。**

岩本**:**移籍って、環境も変わって刺激にもなるだろうし、実際にした選手の話を聞いたりすると漠然とどんな感じなんだろうって思ったりすることはあります。
フットサル界では移籍が結構多いですけど、実際するかという話になったら、別問題ですね。ミスターってついちゃってますからね(笑)

笛木**:**もっさんにはもうファンがたくさんついてるけど、今のフットサル界は人を呼べる選手が少ない気がする。昔はもっと存在感のある選手が多かった気がするんだけど・・・。

岩本**:**なんでだろうね。それは結構まわりのフットサルファンの人からも言われるんだよ。でも、昔からやってる選手は関東リーグとかスーパーリーグとか、フットサルをどう盛り上げるかを考えながらやってきて、そこに共感してファンの方が応援してくれたんじゃないかなって今は思う。昔からのファンはそうやってプレー以外の部分も見てくれている分、すごく親身になってくれていて、応援の仕方も少し違う気がする。

笛木**:**ビーチサッカーはまさに今、もっさんたちが築きあげてきたようなことをやっている段階だね。だからこそもっさんの意見には共感できるし、応援しちゃうんだよね。

岩本**:**Fリーグができてから入ってきた選手は、フットサルをどう盛り上げようとかはあんまり考えなくていいと思っている人もいると思うんだよね。そこはチームとかメディアがやってくれるじゃん、みたいな。僕らは選手とチームが一緒になってメディアを連れてきたり、スポンサーを募ったりと、プレー以外の部分で考えなきゃいけないことがたくさんあった。今の選手はいい意味でも悪い意味でも与えられた環境に入ってきているわけだから、仕方ないとは思うんだけど。

笛木**:**昔からのファンがいて、フットサルの普及にも携われる選手だからこそ、もっさんは簡単にフットサルをやめちゃいけないよ。やり続けなきゃ。

岩本:長く続けていくことの難しさはあるけどね。Fリーグはプロ契約を結んでいる選手が少ないから、生活面を考えてもずっと続けられる選手は限られてくるし。サッカーもそうだけど、35歳をすぎると人間性の部分もすごく大事になってくると思う。日本では若手を積極的に使う風潮が強いから、30すぎでやめちゃう人は多いのは残念だけど。俺の8つ下くらいの人が『もう無理です』とか言ってると、「何でだよ、あと8年できんじゃん!」ってすごく思う(笑)

笛木**:**30すぎになると、父親としても生活のことを考え始めるからね。どこまで続けられるかっていうのは、ファンや企業とのつながりもキーワードになってくるんじゃないかな。

岩本**:**俺は今スクールをやっていたり、スポンサーについてくれる企業がいたりするから続けられているところはある。でも正直に言うと、スクールがなければ午前中に追い込んで昼に休んで、夜に練習行ってというサイクルができる分、今よりも身体を鍛えて、パフォーマンスを上げられるんじゃないかって思うところもあって。すごく疲れていたら練習までの時間を休むこともできるし、そこはもどかしいというか・・・。そしたらいくつまでプレーできるんだろうって思うことはあるけど、現実的にそうはいかないから。

環境が整えば競技力は間違いなく上がるし、生活を考えてフットサルをやめる人は少なくなる。現役中に金銭的なストレスがなくプレーに集中できたり、セカンドキャリアへの不安などが解消されるように、個人で環境を整えたりチームがサポートしてあげたりすることは、フットサル界全体の課題ですね。

笛木**:**そういう話を聞いてると、ビーチサッカーはゼロからというよりマイナスからのスタートだね。まずは地面を掘って環境を作らないと(笑)

岩本**:**フットサルもビーチサッカーも、すごく可能性のあるスポーツだとは思うけどな。特にフットサルは競技人口が多いし。ビーチサッカーも見ていて面白いってみんな思うだろうし、広められる何かがあればね。

笛木**:**本当にそのとおり。同じ人にずっと見てもらえるのはいいことなんだけど、新しい人たちを呼びたいね。『ビーチサッカーってこんなに面白いんだ』『私もやってみたい』と思ってもらえるようにしたい。選手もプレーだけに集中してればいいんじゃなくて、もっと普及活動にも携わらないと。

岩本**:**フットサルも、Fリーグが立ち上がった時は結構注目されてたんだよね。2年目、3年目も注目度は高かったけど、だんだん下がってきてる。2年目の時に俺らと名古屋オーシャンズの首位対決があったんだけど、代々木第一体育館にお客さんが7,000人入って。同じ会場でいま(※)セントラル開催をやっても、2,000~3,000人くらいじゃん。5,000人どこ行ったんですかね(笑)関東リーグでも、首位対決の時は2,000人以上入ってたからね。しかも大雪でめちゃめちゃふぶいてて、足もとの悪い中で。

*※*セントラル開催・・・Fリーグに参加するすべてのチームが同じ会場に集まって、その節の全ゲームを集中開催するイベント。

笛木**:**ビーチサッカーは、ヨーロッパではスイスが強いんだよね。海がない国なのに。もちろん、ビーチ沿いではないところにスタジアムがあって、会社帰りに酒飲みながら楽しめる環境ができあがっている。正直、ビーチサッカーは海よりスタジアムでやったほうがいい。海だと風があるし、人もなかなか来ないし。今はチームとかリーグがうんぬんというよりも、まずは環境を整えたい。あとは一過性のブームだったら誰でも作れると思うから、長く続けたからこそ辿りつく景色が見たいね。フットサルにおけるもっさんの活動ををお手本にしてるんだから、こけないでよ(笑)

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