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経営者、審判、コンサルタント。それぞれの立場で語るスタジアム・アリーナ

11月9日。東京都渋谷区で『スタジアム・アリーナを起点に描く日本のスポーツビジネス』と題するセミナーイベントが行われた。

今回のイベントは、パーソルキャリア株式会社が運営する日本最大級のITイベント情報サイトおよびイベント&コミュニティスペース『TECH PLAY(テック プレイ)』が主催したものだ。

TECH PLAY(テック プレイ)

近年“スタジアム・アリーナ改革”に関する議論が活発化している中で、クラブ経営者、スタジアム・アリーナの専門コンサルタント、そしてサッカーの審判員というパネラーを招聘し、それぞれの立場から忌憚のない意見をぶつけ合った。今回は、白熱したパネルディスカッションの内容を一部抜粋してお届けする。

☆登壇者

石井 宏司 氏(ファシリテーター:SPOLABo 執行役員)

上林 功 氏 スポーツファシリティ研究所 代表****

當麻(家本)政明 氏 サッカー国際審判員

藤本 光正 氏 Bリーグ栃木ブレックス 取締役副社長

橋本 大輔 氏 栃木SC 代表取締役社長

ウェンブリースタジアムでは自分の吹いた笛が聞こえなかった

-上林さんはスタジアム・アリーナの専門コンサルタントということですが、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

上林:私はもともと設計事務所に勤めている建築士でした。ある日『君は胸板が厚いから』と言われたことがきっかけでスポーツ施設を任されました。それから12年間、ひたすらスタジアム、アリーナ、サッカースタジアム、陸上競技場、アイススケート場などスポーツに関するあらゆる設計をやらせていただきました。

建築業界というのは極めて分業が進んでいます。例えば、病院を設計するときに『医療コンサルティング』という人がプロジェクトの一員に加わります。よくお医者さんの事情を伺いながら、病院としてどのような機能を構築すべきか助言する専門家がいるのです。同じような形で『劇場コンサル』というのも存在しています。

ところが、いわゆるスタジアムとかアリーナのコンサルって存在しないんです。海外に目を向ければそういったことを生業にしている人がいる。それなら僕が日本で最初に、と。今は設計事務所で培った経験を活かしてスポーツ施設、特にスタジアム・アリーナの専門コンサルという形でご相談を受けている状態です。

-當間さんにお伺いしたいのですが、審判という立場で数多くのスタジアムのピッチに立ってこられたと思います。特に印象に残っているスタジアムはありますか?

當間:僕は2010年にウェンブリースタジアムでイングランド代表対メキシコ代表の試合(2010年5月24日に行われたサッカーの国際親善試合)で笛を吹いたことがあります。屋根付きのスタジアムとして世界一の大きさを誇る上、座席が真っ赤。その威圧感たるや他のスタジアムとは全然違いました。

自分が吹いた笛が聞こえなかった、という経験をしたのはその時が最初で最後です。例えるなら音が“重み”として落ちてくるという感覚です。

ウェンブリースタジアムではホームチームが強いという話を聞いたことがあるのですが、それも頷ける気がします。僕たち審判も人間なので、公平に公正にと思っています。しかし、やっぱりサポーターの“圧”に影響されてしまうところがあるんです。もちろん意図してやっているわけではないですけど、心のどこかで恐怖心とか威圧感にジャッジを左右されるということは、無いとは言い切れません。

-なるほど。では国内ではどのスタジアムが印象に残っていますか?

當間:ユアテックスタジアム仙台(通称:ユアスタ)です。なぜかと言うと、もちろん僕がベガルタ(仙台)のサポーターだからという訳ではなくて(笑)サポーターがすごく熱狂的なんです。さっきウェンブリースタジアムの話をしましたけど、このスタジアムは収容人数が2万人くらいなのに、それでも屋根に反響して声が落ちてくるんです。

僕が今まで行ったことがない国内のスタジアムは北九州のミクニワールドスタジアムくらいで、ほとんどのスタジアムでは試合をした経験があります。このユアスタだけが声が落ちてくるという風に感じます。そういった意味で、僕がレフェリーをしていて一番心地よく感じるスタジアムです。

上林:ユアスタは屋根裏の形状自体が音を集める形になっているのではないかなと思います。実は劇場などの設計をする時でも、天井の形、スタジアムでいうところの屋根の形というのはかなり重要な要素を占めているんです。例えば覆われる形になっている天井は音を集めやすいといったことがあるんです。おそらくユアスタもサポーターの声が跳ね返ってくるような構図になっているのではないかと思います。詳しいところは図面を見てみないとわからないですが(笑)

重要なのは理念。スペックだけを追わないことがスタジアム設計の肝。

TECH PLAY主催のセミナー

-良いスタジアム、そうでないスタジアムには共通点があるのでしょうか。

上林:大手の設計事務所やゼネコンさんなどにとって、実はスポーツ施設ってちょっと前までは新人の仕事だったんです。なぜなら、スポーツ施設ってものすごくスペックがはっきりしているんです。コートが何メートル×何メートルとルールブックに書いてありますし、スタンドの高さなんかもある程度は法令で決まっている。それから更衣室やトイレがおよそ何個欲しい、ということまで非常にハッキリしています。

ですが、そのようにスペックだけを追った、ビジョンや理念のないスタジアム・アリーナというのはダメなスタジアムになりがちだと思っています。むしろ『観客が一体感を感じるスタジアムにしてほしい』とか『もっと選手が興奮してたまらないようなスタジアムにしてほしい』というような要望をもとに、“それってどう作ればいいんだろう”と、設計者に考えさせなければ本当に良いスタジアムというのはできないんじゃないかなと思います。

そういう意味では、クラブチームだったりプロチームがそういう要望を設計者にガンガン言ってほしいんですよね。

-他にスタジアムを設計する上でポイントとなる点はありますか?

上林:以前一緒にお仕事をした方に伺ったのですが、ものすごく熱意のある市長さんとか知事さんがいることは確かに大事。ですが、意外と良いスタジアム・アリーナを作るのに直結しないんだそうです。むしろ、熱意のある職員がいるかどうかというのが最も重要だとおっしゃっていました。

僕自身それをすごく感じたのが、マツダスタジアムの設計を担当させていただいた時です。広島市の新球場建設部というのが新たに立ち上がったんですが、そこに集まった方が広島市役所の中で選び抜かれた生粋のカープファンでした(笑)

スタジアムを建設する上で最後に選手に見ていただく機会があるんです。

マツダスタジアムの時は、同行していただく予定ではなかった広島市の職員の方が現場に来ていたんですよ。なんで来ているのかなと思っていたんですが、カープの選手が来たら「どうもどうも。担当している◯◯です。」みたいなやりとりをしていて(笑)
そんな光景から職員の方のカープが好きだという気持ちが伝わって来ましたね。

そのぐらいの生粋のカープファンが集まっていたおかげで、本当に仕事がスムーズでした。良いスタジアム・アリーナを作るためには、スポーツを自治体に根ざすために自分で動こうとされている方が集結する必要があるのではないかなと思っています。

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