大坂なおみの心を救ったセラピストの助言。欠けていた最後のピースとして「彼女をチームに加えたい」<SMASH>
一つの野次に心砕かれ、涙を流しコートを去った「BNPパリバ・オープン」から、10日後。大坂なおみは、マイアミ・オープン初戦のコートに立っていた。
現在の世界ランキングは77位。ワイルドカード(主催者推薦)での出場ながら、センターコートに試合が組まれたことが、彼女の知名度と注目の高さを物語る。
対戦相手は世界96位で、アメリカの大学テニスリーグ出身のアストラ・シャルマ。強烈なサービスとフォアハンドが武器ではあるが、まだまだ粗さも目立つ選手で、大坂が持てる力を発揮すれば、さほど難しい相手ではない。
ただ何かの契機で一つほころびが生まれると、そこからダムが決壊するように、突如として崩れる可能性もあるのが、今の大坂だ。はたして、10日前の痛手から立ち直れているのか——? 観客やメディアが、コート上の彼女に注ぐ視線には、そのような関心も含まれていただろう。
そうした疑念を、彼女はプレーで払拭する。力量感あるサービスで1ポイントも落とさず自分のゲームをキープすると、2ゲーム目でいきなりシャルマのサービスをブレーク。相手のセカンドサービスに対しては、リターン位置をグッと上げてプレッシャーをかけ、次々にリターンウィナーを叩き込む。それは大坂が、戦前から描いていたプランだった。
「リターンから攻めるのは、全豪で負けた試合の反省があったから。あの試合ではリターンで弱気になることがあったので、ミスをしても押し込んでいこうと思っていた」
その意思を貫いた大坂は、両セットともに序盤のリードを守り切って、6−3、6−4の手堅い勝利。試合後のオンコートインタビューでは、「ここは私のホームトーナメント。ここの近くで育ったし、いつも来るのが楽しみ」と笑顔で語り、ファンの歓声を呼んだ。
試合後の大坂は、今日のプレー中の心境を聞かれて、「今日はかなり良い」と応じた。
「インディアンウェルズ(BNPパリバOP)で起きたことを振り返った時、実は私はキャリアの中で、野次られたことがないことに気付いた。ブーイングはあったけれど、自分に向けて叫ばれたことはなかったので、訳がわからなくなってしまった」
10日前に自分に起きたことを客観的に語る彼女は、「これは言って良いのかわからないけれど……」と、やや言いよどんだ後に、言葉を続ける。
「インディアンウェルズの後、私はようやく、セラピストと話し始めた。去年のフレンチオープン以来だから、1年ぶりくらいかな。彼女は、私にいろんなことを教えてくれた。自分の進むべき道を示してくれる人が身近にいることは、すごくありがたいことだと思った」
過去に大坂は、セラピスト等に頼ることを、好まないと公言したこともある。そんな彼女の意識を変えてくれたのは、コーチのウィム・フィセッテだった。
「自分の内面のことは、自分1人で解決すべきだと思っていた。でもウィムは、良い言い方で私の考えを変えてくれたの。『君はプロのテニスコーチを雇い、フィットネスの専門家を雇う。“心”は、重要なパーツだ。もし向上させたいなら、プロの助けが必要だろう。それで5%でも良くなるなら、やる価値のあることだ』って」
このセラピストとの今後の取り組みは未定だが、「彼女をチームに加えたいと思っている」と大坂は明言した。そうなれば、これまで“チーム・ナオミ”に欠けていた、最後のパーツがはまりそうだ。
今やシードの付かない大坂は、1回戦の翌日に、シード選手との対戦に向かうことになる。その相手は、元世界1位で現15位のアンジェリーク・ケルバー。
「自分の現在地を知るうえでも、良いテストだと思う」という顔合わせは、まさに、今の大坂を測るリトマス試験紙になりそうだ。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】「全力を尽くす」ことをテーマに掲げて挑んだ大坂なおみの全豪OP厳選ショット!
Follow @ssn_supersports