日本プロスポーツの分岐点|構造が変わり始めた“現在地” 【前編】

「プレミア」

昨今、日本のスポーツ業界において、しばしば耳にする言葉である。
英語の「PREMIER」は「最上位の」「第一の」といった意味を持ち、日本では近年、各プロリーグの名称やカテゴリー名として用いられるようになってきた。

男子プロバスケットボールの「Bリーグ」は、トップカテゴリーを「Bプレミア」へ。女子プロバスケットボールの「Wリーグ」も、同様に最上位カテゴリーの再編を進めている。さらに、アメリカンフットボールの「Xリーグ」でも、「Xプレミア」という名称が用いられる構想が示されている。
「PREMIER」と話は変わるが、構造が変わるという意味で言えば、サッカーのJリーグも、2026年8月からの秋春制完全移行を前に、「Jリーグ100年構想リーグ」と題した特別大会を開催することが決定しているし、バレーボールの「SVリーグ」は「REBORN」という構造改革が行われ、2025年9月には「REBORN II」がリリースされた。

関連記事でも紹介している通り、現在の日本には、昇降格制度を採用するリーグが非常に多い。一方で、アメリカ4大スポーツには、昇降格を用いないリーグしか存在しない。
「プレミア化」によって、Bリーグは事実上、昇降格のないトップカテゴリーを設ける構造へと移行していくが、なぜ今、このような制度改革が進められているのだろうか。
Bリーグに限らず、日本のプロスポーツ全体を見渡したとき、各リーグはどのような課題を抱え、どこへ向かおうとしているのか。前編では、その“現在地”を整理していく。

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リーグ構造を変えようとしているのは、どんなリーグか

どうしても「プレミア」という言葉が先行して注目を集めているが、要するに昨今の日本のプロスポーツリーグは「今までとは違うリーグ構造になる」という意味である。たまたまそれを多くのリーグが「プレミア」という言葉を使っているだけの話であり、それ以外の言葉を使って構造改革を行おうとしているリーグもある。

特徴的なのは、その多くが競技の人気低下をキッカケに改革を起こすということではないこと。むしろ、一定のファンダムや歴史を持ちながらも、「この先も同じ仕組みで続けていけるのか」という問いに直面したリーグが、構造改革へと踏み出している。結果はどうであれ変わろうと一歩を踏み出しているのだ。

ここでは、近年とくに大きな転換点を迎えている4つのリーグを取り上げる。

ここ数年で「構造改革」に踏み切った日本のプロリーグ

Bリーグ(男子プロバスケットボール)

現在進行している「2025-26シーズン」が終了すると、Bリーグは「B1」「B2」「B3」という競技成績による昇降格制度を廃止し、「2026-27シーズン」からはチームの経済状況などを加味したライセンス制度に変わる。このトップカテゴリが「B PREMIER」であり、次点で「B ONE」、「B NEXT」と続く。

トップカテゴリの「B PREMIER」に参入するにはアリーナのキャパシティ、営業利益、平均来場客数など多くの観点で基準があり、それを超えていないとNGとなる。これまでのBリーグも他リーグと同様に「競技成績」による昇降格が当然と定義されてきたが、Bリーグの場合は競技レベルの話だけではなく、リーグという「事業」をどう成立させ続けるかという観点が、より前面に出ている。それが今回の改革のサマリーである。

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Jリーグ(男子サッカー)

「プレミア」という言葉は使っていないが、構造改革の規模で言えば最も大きな変化に踏み切ろうとしているのが「Jリーグ」とも言えるだろう。

これまでは概ね2月〜3月に開幕を迎えて11月〜12月にシーズン終了、12月〜2月はオフシーズンという「春秋制」になっていたが、2026-27シーズンからは、2026年8月に開幕を迎え2027年5月に終了する「秋春制」になる。また、12月〜2月は中断期間になるのだが、この中断期間が一番のミソである。
単なる日程変更ではなく、国際大会との整合、選手契約や移籍市場の活性化など、リーグ運営の前提そのものを変える試みだ。昇降格制度は維持されるものの「これまでと同じ形で続ける」ことを選ばなかったという意味では、日本でも非常に高い人気と長い歴史を誇る人気リーグにとっては、非常に思い切った改革と言える。
ちなみに、2026年1月現在では「オフシーズン」の真っ只中だが、このままいくと2026年8月までの長期間のオフになってしまう。それを無くすために、Jリーグは特別大会として「明治安田生命Jリーグ百年構想リーグ」という半シーズンの大会を実施する。これは2026年2月〜8月までであり、J1は単独、J2・J3は混合で実施される。昇降格はなし。全員でJリーグの100周年を祝うイベントとして開催が決定し、それを経て2026年8月に新たなJリーグとして再び幕を上げることになる。

SVリーグ(バレーボール)

かつてのバスケットボールがそうだったように、バレーボールは元々「Vリーグ」という名称で、その多くが企業チーム(実業団)であり、社員選手・社員スタッフで運営がされてきた。

この結果、競技成績に問わず、親会社の業績次第で取り組み方を変えざるを得なかった。業績黒字が増していけば選手獲得や競技にかけられるお金は増えるし、逆に赤字になってしまえば縮小、最悪の場合は撤退という事態もあったため、リーグ全体の市場規模が広がらない構造になってしまっていた。同時に昇降格はあったが、上のカテゴリに行っても収益が増えないことや落ちても大きな痛手がないことで、上を目指す意味が薄いとも言われていた。

バレーボールは競技のわかりやすさが抜群であるために日本代表戦は非常に人気であるものの、それと同じくらいリーグ戦の人気があったかと言われると即答はできないこともあった。そこで、2023年に「世界最高峰のバレーボールリーグを目指す」という明確な目標を設定し、SVリーグが立ち上がった。このリーグ改革を「V .LEAGUE REBORN」と称し、さらに2024-25シーズンからはこの改革をより推し進めていくために「REBORN II」という新たな構造改革を発表した。

これは簡単に言えば、今Bリーグがやろうとしていることとほぼ同じである。「SVリーグ」をトップカテゴリにし「Vリーグ」を次のカテゴリと位置した。SVリーグに上がるにはライセンスが必要であり、経営体制や財務基盤、アリーナ、興行計画などで基準を満たしたチームが参加できるという内容だ。これによって、「競技成績が良いチーム」よりも事業として「成立しているチーム」を優先するようになった。繰り返しになるが、その思想はBリーグの改革と非常に近い。

Xリーグ(アメリカンフットボール)

世界で最も収益が高いアメリカのアメリカンフットボールリーグ「NFL」。アメリカではバスケのNBAや野球のMLBを差し置いて人気であるが、日本でアメフトの人気はバスケや野球と比較するとそこまで大きいものではない。

日本のアメフトは「Xリーグ」と言うが、実はここには元々NFLで活躍していた選手やドラフトにかかった選手なども活躍している。それだけに競技力は非常に高い。ただ、Xリーグもバレーボール同様に実業団のチーム。アメフトに投資をするオービックや富士通などが圧倒的な強豪であり、他のチームは「それ以外」と言っても過言ではないほど、強豪とそれ以外の競技力の差が大きすぎた。それに加えて日本では馴染みがなく理解されにくいアメリカンフットボールというスポーツにおいては、理解が難しく・接戦が少ないというために試合の緊張感が少なかった。凄い競技なのに伝わらない、という状態だったのである。

これらを改善すべく、Xリーグは「日本最高峰のアメフトのリーグである」ことをわかりやすくするために、トップチームだけを明確に分離することを決めた。これが「X Premier」である。これは今あるトップリーグの”さらに上”を新設するという意味。BリーグはB1・B2・B3という構造を丸ごと変えたわけだが、あくまでアメフトのXリーグは「超強いところだけ切り取って他は変えない」という構造である。

これによって、現状の「X1 Super」というトップカテゴリはいわゆるセカンドディビジョンと化し、トップカテゴリに「X Premier」が入ると考えて良い。これはあくまで「社会人アメリカンフットボール」という前提が変わらないために、競技レベルとプロ化のズレをどう埋めるかがテーマであるために、全ての構造を変えるのではなく「最上位だけ別枠」にしたのである。当然ながら、「X Premier」に入るためには、Xリーグが設けた興行価値、競技水準、育成環境、地域連携の4要素の一定基準を達成する必要がある。要はライセンス制度であるが、ここは他プロスポーツリーグと同様に、まずビジネスとして成立させる必要があるという考え方から設けられている。

なぜ日本のプロスポーツは、構造を変える必要があったのか

日本のプロスポーツは長らく、「日本型」とも言える独特のリーグ運営モデルによって支えられてきた。企業スポーツを基盤とし、昇降格制度によって競争原理と緊張感を生み出す――その仕組みは、一定期間においては機能してきたと言える。

しかし、2020年代に入り、多くのリーグが「このままでは立ち行かない」という共通の問題意識を抱き始めた。競技の面白さやレベルが向上しているにもかかわらず、事業としての成長が追いつかない。構造そのものに限界が見え始めていたのである。

従来の「日本型リーグ」が抱えていた限界

まず整理しておきたいのは、構造を大きく変えずとも成功し続けているリーグが、日本には一つだけ存在するという事実だ。プロ野球の「NPB」である。
NPBは、もはや単なるスポーツリーグではなく、日本社会に深く根付いた文化的インフラだ。昇降格はなく、成り立ちは企業スポーツでありながら、早い段階から地域密着を確立し、時代ごとにスター選手を生み出してきた。試合数の多さによって観戦が日常化し、地域に一球団という構造が「推し」を明確にする。視聴環境や消費行動が変化する中でも成立し続けているのは、こうした前提条件が揃っているからに他ならない。要するに、プロ野球は「例外」なのである。

サッカーのJリーグもまた、一定の成功を収めているリーグだが、その位置付けはやや異なる。現在の人気に満足することなく、将来を見据えた制度改革に踏み切っており、成熟フェーズにありながら次の成長を模索している段階だと言える。

一方で、本稿で取り上げている多くの競技では、競技レベルと市場規模が比例してこなかった。かつては「昇降格制度」がリーグに緊張感をもたらし、勝敗以上のドラマを生むと信じられてきた。しかし、企業スポーツを前提とするリーグにおいては、昇格しても収益が大きく伸びにくく、降格しても事業として致命傷にならないケースが少なくなかった。
その結果、「試合に勝つこと」と「事業として継続すること」が乖離していった。さらに、親会社への依存構造は常に撤退リスクを内包しており、競技外の判断によってチームやリーグが消えていく現実も、これまで繰り返されてきた。

このまま何もしなければ、いずれ競技としての価値そのものが縮小していく――。
そうした危機感が、リーグや競技の垣根を越えて共有され始めたことこそが、日本のプロスポーツが構造改革に踏み切る最大の理由である。

親会社に委ねるのではなく、自分たちで未来を設計する。
自分たちで目標を定め、競技の価値を事業として成立させていく。

その意思決定が、2020年代後半に入り、日本のプロスポーツ界で一斉に表面化してきたのである。

各リーグが『プレミア化』で目指している共通項・違い

観点 Bリーグ(バスケ) Jリーグ(サッカー) SVリーグ(バレーボール) Xリーグ(アメフト)
改革の主目的 事業として成立するクラブだけでトップリーグを構成する 国際基準への適応とリーグ価値の最大化 企業スポーツから脱却し、世界最高峰を目指す 日本最高峰を“わかりやすく”切り出す
最大の課題認識 昇降格では経営が安定せず、投資が進まない 春秋制では国際競争・市場拡大に限界 勝っても市場が広がらず、撤退リスクが高い 強豪とそれ以外の差が大きく、試合価値が伝わらない
プレミア化の手法 昇降格廃止+厳格なライセンス制 秋春制移行(昇降格は維持) トップカテゴリを別枠化+ライセンス制 最上位のみ新設(既存構造は維持)
昇降格の扱い 競技成績のみの昇降格を廃止 維持 形式上ありつつ意味は縮小 間接的(X Premierの外にSuper以下)
重視される評価軸 アリーナ、売上、観客動員、経営体制 国際整合性、選手市場、競技レベル 経営基盤、プロ化、社会連携 興行価値、競技水準、育成、地域連携
ファン・地域との関係 地域密着と観客動員が参入条件 既存基盤をさらに拡張 地域・社会との接続を理念化 ホームタウン・興行型開催を重視
「競技 vs 事業」の整理 事業を前提に競技を成立させる 競技価値の国際最適化 競技力と事業を同時に引き上げる 競技の価値を事業として伝える

一言で言えば、Bリーグは「勝つ以上の価値を見出したい」、Jリーグは「今の成功をさらにジャンプアップさせたい」、SVリーグは「企業スポーツの限界を突破し世界で存在感を放ちたい」、Xリーグは「競技もリーグも、わかりやすく伝えていきたい」ということである。

リーグの「プレミア化」は、単なる名称変更でも、流行への迎合でもない。
競技として成立してきた日本のプロスポーツが、「事業としてどう生き残るか」という問いに向き合い始めた結果である。では、プレミア化によって各リーグは何を実現しようとしているのか。そして、その先にどのような日本のプロスポーツの姿が描かれているのか。
後編では、プレミア化がもたらす“未来の輪郭”について考えていく。

後編:
日本プロスポーツの分岐点|プレミア化がもたらす“未来の輪郭”【後編】

【参考】
Bリーグ:https://www.bleague.jp/new-bleague/ 、https://www.bleague.jp/media_news/detail/id%3D441800
Jリーグ:https://www.jleague.jp/season-transition/ 、https://www.jleague.jp/special/2026specialseason/j1/
SVリーグ:https://www.svleague.jp/special/reborn2/
Xリーグ:https://xleague.jp/news/51568