
野球の甲子園や、バレーボールの春高のように、学生スポーツが大きな盛り上がりを見せる大会が、バスケットボールにもある。
ウインターカップ。
ウインターカップは、毎年12月末に開催される、高校バスケットボールの日本一を決める全国大会。男女各60校が出場し、全国の頂点を目指して戦う。
ベスト16以降は、高校バスケ選手にとって憧れの舞台でもある「東京体育館・メインコート」で試合が行われる。そのため、多くの選手がまずはこのメインコートに立つことを、一つの大きな目標としている。
そして何より、特に3年生の選手にとっては、本当に最後の全国大会。負ければその瞬間に高校バスケからの「引退」が決まる。「もっとこのチームでバスケがしたい」そんな想いが交錯し、毎年のようにさまざまなドラマが生まれ、多くの涙が流れる舞台でもある。極寒の冬の千駄ヶ谷は、今年で言う12月23日から29日にかけて、異常なほどの人で溢れ、街全体が熱を帯びる。
なぜ、ウインターカップはここまで“熱い”のか。
今回は初心者のあなたに向けて、ウインターカップがどのような大会なのか、そして注目すべきポイントを紹介していきたい。
そもそも「ウインターカップ」とは?
「ウインターカップ」とは、2025年で第78回目を数える、高校バスケットボールの全国大会である。高校バスケには、夏のインターハイ、秋の国体、そして冬のウインターカップという3つの主要大会があり、これらは「三大タイトル」とも呼ばれている。その中でもウインターカップは、高校3年生にとって本当に最後の大舞台だ。
進学や就職を控えた3年生たちが、仲間と過ごした3年間のすべてを捧げる最後の大会。だからこそこの大会では、勝敗以上に感情が揺さぶられる試合が数多く生まれる。
少しでも高校バスケの歴史を知っていれば、思わず胸が熱くなり、涙してしまうようなシーンに出会うことも珍しくない。多くのドラマが詰まっているからこそ、バスケファンや関係者だけでなく、メディアからも大きな注目を集めているのだ。
未来のスターの原点
もちろん、全国大会で勝つことに越したことはない。
しかし選手たちにとっては「ウインターカップに出場できた」という経験そのものが、かけがえのない成功体験になる。この冬の数日間で得た経験は、きっと彼ら・彼女らのその後の人生にも、良い影響を与えていくはずだろう。
さらに言えば、ウインターカップに出場する選手たちの中から、将来Bリーグで活躍する選手が現れる可能性は決して低くない。実際、現役Bリーガーの多くが高校時代にウインターカップを経験している。今この瞬間、未来のスター選手の「原点」を目撃できることも、この大会ならではの魅力だ。
今年の注目校・注目選手は?
ウインターカップはチームスポーツでありながら「誰を見るか」を決めるだけで、一気に観戦体験が変わる大会でもある。ここでは、初心者でも追いやすい男女それぞれ1名ずつの注目選手を紹介したい。
【男子注目選手】佐藤凪(京都・東山高校)
京都の東山と言えば、昨年のウインターカップは準決勝で福大大濠高校に敗れて涙した強豪校である。また、現在千葉ジェッツで活躍する瀬川琉久の出身高校でもある。そんな瀬川とともにバックコートでコンビを組んでチームの屋台骨を支えていたのが佐藤であり、今年は彼が中心のチームとして構成されている。
佐藤は1年生から主力を張り、またジョーダンが主催する1on1の大会で優勝するなどで実績を積み重ねてきた。それ以外も含めて挙げれば枚挙に暇がないほどだ。
そんな彼はポイントガードとして、試合の流れを整え勝負所を任される司令塔として存在感を発揮しているが、夏のインターハイまではワンマンチームと言っても過言ではないほど佐藤にボールが集まっていた。バスケットの場合、1人の選手にボールが集まるのはよっぽどのことがない限り「効率的」とは言えない。パスを回して空いている選手が簡単に得点を決めることが最も効率的だからで、5on5の空間で1on1をしていても、最終的には1on2や1on3になってしまって「難しい」シュートになることが多いからだ。
東山の場合は、それをしてはいけないとわかっていた。だから佐藤にボールが集まる日はなかなか歯車が噛み合っていなく、逆にそうでない日は爆発的なオフェンスを見せた。佐藤に得点を取らせるのではなく、彼が中心になってゲームを作る。そして周りもしっかり連動する。その流れがしっかりとコート上の5人で噛み合わせることができれば、瀬川の代で達成できなかったウインターカップ優勝という目標を、佐藤は自ら勝ち取れるかもしれない。
東山がついに藤枝明誠の背中を捉える!
佐藤 凪が吠えた🔥📡バスケットLIVEで生配信中https://t.co/2FPfyz1IAV#ウインターカップ #高校バスケ pic.twitter.com/UfZsYJRQtj
— 高校バスケby日本バスケットボール協会(JBA) (@U18_JBA) December 27, 2024
【女子注目選手】竹内みや(愛知・桜花学園高校)
夏のインターハイを制した女子バスケ界きっての強豪が、冬のリベンジに挑む。昨年のウインターはBEST8に泣いただけに、今年は冬も勝ち切って二冠を達成したいところだ。そして何よりも、この二冠を達成することが昨年末に亡くなってしまった井上眞一先生への最大の恩返しにもなるはず。
そんな強豪・桜花学園のエースガードが竹内である。160cmでサイズはないが、スピードと抜群のパスセンスでチームを牽引する存在だ。また、彼女はチームの元気印でもある。プレー中も笑顔が多く、楽しそうにプレーする姿が印象的。プレー面でも勝負所に強く、決定力の高い得点力に加えてノールックパスなどトリッキーな動きでも注目を集める。
また、竹内は今年9月にU16日本代表としてアジアカップに出場した。アジアカップでもその才能を遺憾無く発揮し、平均19.4得点と6.6アシストを記録し、大会MVPと得点&アシスト王を受賞、そして大会ベスト5にも選出されるなど、日本を飛び出して世界でも活躍できることを証明したばかりだ。強豪の桜花学園が最後にウインターカップを制したのは2021年のこと。もし優勝できれば竹内にとっても初のウインター優勝となるだけに周りの期待は大きいが、きっと周囲の意見を気にせず、2回目の冬を彼女らしく楽しむはずだ。
初めてのウインターカップを誰よりも楽しむ、桜花学園のルーキー・竹内みや👌
桜花学園#12 竹内みや(1年|PG|160cm)#ウインターカップ#高校バスケ pic.twitter.com/df6zsF2jdx
— 高校バスケby日本バスケットボール協会(JBA) (@U18_JBA) December 23, 2024
プロへ羽ばたいたスターの高校時代
田臥勇太(秋田・能代工業)
高校バスケ界で、いまだに破られていない「9冠」という偉業を打ち立てた、宇都宮ブレックス所属の45歳、生けるレジェンド・田臥勇太。田臥が成し遂げた「9冠」とは、簡単に言えば高校1年生から3年生まで、主要全国大会で一度も負けなかったことを意味している。インターハイ、国体、ウインターカップの三大大会を3年連続で制するという前人未到の記録だ。
その後、田臥はアメリカへ渡り、2003-04シーズンには日本人初のNBA選手となった。彼が世界へ挑戦するきっかけの一つとなった舞台が、ウインターカップであったことは間違いないだろう。
ちなみに、田臥が高校3年間で記録したウインターカップの総得点は、1年生時に155得点、2年生時に116得点、3年生時に130得点。まさに“別格”と呼ぶにふさわしい数字である。
田臥 勇太選手擁する能代工業高校は1998年大会で優勝し、史上初の高校9冠を成し遂げました👏
今年はどんなドラマが生まれるのか。#ウインターカップ 2019は明日開幕です!!
大会公式サイトはこちら↓https://t.co/h4C45nBRDO#高校バスケ日本一 pic.twitter.com/Qgw8xuMTod
— 日本バスケットボール協会(JBA) (@JAPANBASKETBALL) December 22, 2019
比江島慎(京都・洛南)
男子では田臥時代の能代工業に続く史上2校目として、ウインターカップ3連覇を達成した京都・洛南高校。その3連覇の中心にいたのが、近年は代名詞ともなったセレブレーションでも知られる、宇都宮ブレックスの比江島慎だ。
高校時代の比江島は、現在のような3ポイントシューターではなかった。主な得点源はゴール下周辺やドライブであり、当時から「比江島ステップ」は健在で、誰も止めることができなかった。
一方で、今では想像できないかもしれないが、当時は「3ポイントシュートがあれば、もっと無双できるのに」と言われるほど、外角シュートの確率は高くなかった。だからこそ、現在2年連続でBリーグの3P王に輝いている事実は、高校時代から彼を知るファンにとって、努力の積み重ねを感じさせるものだろう。
余談だが、比江島が1年生の時は3年生に絶対的エースの湊谷安玲久司朱(元・横浜ビー・コルセアーズ)が在籍し、2年生の時には3年生にエースシューターの辻直人(群馬クレインサンダーズ)がいた。湊谷、辻、比江島の3人は揃って青山学院大学に進学し、2010年、2011年のインカレ2連覇を達成したことでも話題となった。
5番は比江島選手(若っ!)、6番は谷口選手ですねえ(髪型違うだけ)。さてさて本日が男子決勝です。東京体育館通いも今日がラスト!|写真で見る『ウインターカップの変遷』~田臥勇太から洛南、明成の3連覇、そして新たな王者は?vol.2https://t.co/K5SgqNMYoW pic.twitter.com/O2b44sxQ6G
— バスケット・カウント (@basket_count) December 28, 2016
八村塁(宮城・明成)
「バスケはすっごい、すっごい楽しいです」
この言葉は、八村塁が高校3年生のウインターカップで優勝した直後のインタビューで発したものであり、バスケ界では今なお語り継がれる“名言”のひとつだ。
八村が所属していた明成高校は、八村が1年生から3年生まで在学した期間、ウインターカップで負けなしの3連覇を達成。田臥の能代工業、比江島の洛南に続く史上3校目の快挙だった。
今となっては、日本人としてNBAドラフトで指名され、ロサンゼルス・レイカーズでレブロン・ジェームズらと肩を並べてプレーしている八村。彼の代名詞であるミッドレンジジャンパーは、高校時代からすでに高い完成度を誇っていた。ゴール下を支配できるフィジカルに加え、外からも高確率で決め切る。まさにアンストッパブルな存在だった。
彼にとって最後のウインターカップとなった2015年の決勝では、34得点19リバウンドという驚異的なスタッツを記録。試合後のインタビューで、冒頭の言葉を残し、八村はその後、日本を発った。
NBAで生き残るどころか、スターティングメンバーとして活躍し続ける八村塁は、まさに日本バスケットボール界の希望と言える存在だろう。
🏀コラム🏀
真のエースへと成長したウインターカップ…八村塁が「バスケはすっごい、すっごい楽しいです」と言える理由https://t.co/vF32hoALW3
過去大会で輝いた選手をピックアップ。今回は八村塁の活躍を振り返る。#ウインターカップ2023🎥@JAPANBASKETBALLpic.twitter.com/iNw7PINkrH
— バスケットボールキング (@bbking_jp) December 29, 2023
初心者でも楽しめる見どころ
数々のレジェンドのターニングポイントとなってきたウインターカップは、いよいよ12月23日(火)に開幕する。負ければ終わりの一発勝負のトーナメントであるだけに、各校が一戦一戦に懸ける思いは非常に強い。
残り数秒の攻防、ひとつの判断、1本のフリースロー。そうした細かな局面が、試合の流れを大きく左右する。時計が進むにつれて、会場の空気が張り詰めていく――
そんな極限の緊張感を味わえるのも、ウインターカップならではの醍醐味だろう。
先述した京都・東山の佐藤凪や、愛知・桜花学園の竹内みやをはじめ、今大会には数多くの学校、そして注目選手が集結する。
男子では、昨冬の王者・福岡大学附属大濠高校が、今年も間違いなく注目の存在だ。
その大濠を優勝へと導いた日本人ビッグマンの渡邉伶音は、卒業後にアルティーリ千葉へ加入しており、ウインターカップが次のステージへとつながる舞台であることを、改めて感じさせてくれる。
女子では、現在ウインターカップ3連覇中の京都精華学園が必見。もし連覇をさらに伸ばすことになれば、女子高校バスケの歴史においても特筆すべき記録となる。一方で、京都精華は今年の夏のインターハイで準々決勝敗退という結果に終わった。その経験を経て、これまで背負ってきた「勝ち続けなければならない」という重圧から、ある意味で解放された状態とも言える。チャレンジャーとして臨む彼女たちの姿も、今大会の大きな見どころのひとつだ。
未来のスターが輝く瞬間を目撃できる舞台は、間違いなくウインターカップである。まもなく、この先のバスケットボール界を担う原石たちが、コートの上で輝き始める。
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