
マイケル・ジョーダンは2回の引退と復帰を経ているが、1984年〜2003年までNBAに所属していたレジェンドである(その間のブランクは合計約5年)。そもそもジョーダンのルーキーイヤーである1984年と引退年の2003年でもNBAは大きな変化をしているが、ジョーダンのルーキーイヤーから実に40年以上が経過した現代NBAは、当時とは驚くほど状況が異なる。わかりやすいところで言うと年俸。ジョーダンの最高年俸は、ブルズを2回目の3連覇に導いた最後の年の1997-1998シーズンであるが、この時で「約38億円(約3,300万ドル)」だった。
そして、現在2025-26シーズンの最高年俸選手はステフェン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)だが、実に「約90億円(約5,960万ドル)」。ジョーダンの全盛期の倍以上である。
このように、1980年代と現代では比較にならないことも多い。
今回はこれまで起きてきたさまざまな変化と裏側について紹介していこう。
時代の流れ
大前提として、ジョーダンがプレーしていた時代からは約40年近く経過しており、その間にあまりにも大きな変化が世の中では起こった。携帯電話は1人1台と言っても過言でないくらい保有し、ループのような新しい移動手段ができ、ロボットやAIが出現した。何よりもインターネットの普及によって、情報が取りやすい社会になった。
このような話をすると、個人的には1989年に公開されたアメリカの名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』で主人公の2人が2015年の「未来」に来て、その未来で起きていることのほとんどが現実になっていることを思い出すが、フィクションがリアルになるくらい、本当に目まぐるしい変化だったと思う。
これだけの変化があったのだから、NBAの視聴方法も全く異なるものとなった。ジョーダンの時代は「テレビのみ」でしかもBSやCSで放送されることが多く、地上波ではほとんど放送がなかった。あったとしても「NBA特集」などで、日本から試合をフルで見るのは難しい部分があった。また内容も「身体能力の高い超人的なプレー(高いジャンプの派手なダンク、相手を吹き飛ばすパワープレーなど)」が好まれていた。
一方現代は「テレビでもWEBでもなんでも」試合を見られるし「スーパープレーだけではなく、数字(シュート確率やスピード、距離)」など、多様な楽しみ方ができるようになった。
雑に言えばジョーダンの時代は「テレビで、限られた範囲で見る」もしくは「雑誌・新聞」という限定的な情報取得ができたが、現代は「参加感」を感じながら「自分の好きな情報を自由に取れる」ようになった。
多くの人が、それぞれ好きなポイントを見つけて楽しむことができるようになった時代で、ジョーダンの時代で止まっているあなたも驚くようなポイントを「年俸とサラリーキャップ」「グローバル化」「戦術」の3つに絞って紹介する。今回は「年俸とサラリーキャップ」について。
年俸とサラリーキャップ
| シーズン | 最高年俸選手 | 所属チーム | 年俸 |
サラリーキャップ
|
| 1984‑85 | Magic Johnson | Los Angeles Lakers | $2.50M | $3.6M |
| 2025‑26 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $59.60M | $154.6M |
上記の表を見ると一目瞭然だが、ジョーダンのルーキーイヤーでありサラリーキャップが導入された1984-85シーズンから現代の2025-26シーズンに比べると、選手の年俸もサラリーキャップも桁が1つも2つも上がっている。このようにシーズンごとの最高年俸とサラリーキャップを同時に見ていくと、NBAの変化が一番わかりやすい。ゴールデンステイト・ウォリアーズのステフェン・カリーは現役最高年俸であり歴代最高年俸選手である。今年の年俸は日本円で約83億円だが、サラリーキャップは約244億円。ウォリアーズで考えると「カリーにはサラリーキャップの⅓を使う価値がある」という判断がされているということだ。
一方で、マイケル・ジョーダンの全盛期である1996-97と1997-98の2年間は、なんとジョーダン1人でサラリーキャップを「超える」という超異例の自体が起こっていた。1997-98シーズンのジョーダンの年俸は日本円で約37億円だが、サラリーキャップは約32億円。ブルズは「キャップの120%を使っても契約する価値がある」と判断されたこと。当然これはNBAの契約のルール内(※2)ではあったが、たった一人でキャップを「埋める」ではなく「超える」という伝説を作ったのも、ジョーダンの逸話である。
| 1996-97 | ジョーダンの年俸:約32億円 | サラリーキャップ:約26億円 |
| 1997-98 | ジョーダンの年俸:約37億円 | サラリーキャップ:約32億円 |
現代はサラリーキャップが巨大に伸びているため、カリーは歴代最高年俸選手ではあるがサラリーキャップの中に収まっており、一方でジョーダンはキャップに収まらなかったことを考えると「年俸比率」で考えるとジョーダンの存在感は凄まじいものがある。
| 1997-98 | ジョーダンの年俸:約37億円 | サラリーキャップ:約32億円 |
→スーパースターにかけるキャップの割合:123.0%
| 2025‑26 | カリーの年俸:約90億円 | サラリーキャップ:約244億円 |
→スーパースターにかけるキャップの割合:38.5%
さて、以降は年代別に、最高年俸選手・年俸・サラリーキャップを表にしてまとめているが、その時々に起きた事象についても触れながら、NBAがどのように変化していったかを紹介していく。
1984-90/サラリーキャップ制度導入
| シーズン | 最高年俸選手 | 所属チーム | 年俸 |
サラリーキャップ
|
| 1984‑85 | Magic Johnson | Los Angeles Lakers | $2.50M | $3.6M |
| 1985-86 | Magic Johnson | Los Angeles Lakers | $2.50M | $4.2M |
| 1986-87 | Magic Johnson | Los Angeles Lakers | $2.50M | $4.9M |
| 1987‑88 | Patrick Ewing | New York Knicks | $2.75M | $6.2M |
| 1988-89 | Patrick Ewing | New York Knicks | $3.25M | $7.2M |
| 1989-90 | Patrick Ewing | New York Knicks | $3.75M | $9.8M |
そもそもだが、1984年からサラリーキャップという制度は導入されている。ただし、当時は選手の年俸も今に比べると圧倒的に低かったためキャップも低め。当時のNBAの人気はNFLやMLBの足元にも及ばなかった。加えてNBAそのものに対するイメージもよくなかった(麻薬の問題が多かったことが理由)。
そんな中、マイケル・ジョーダンがデビューをしてからというもの、彼の存在はアメリカ中の注目を集めた。同時にレイカーズやセルティックス、ニックスなどの上位争いも非常に話題となったことで一気にNBAの人気が爆発。1989-90シーズンにはテレビ放映権の契約が更新されたことで潤いはじめ、サラリーキャップが約2.6Mも上がった。
1984年から1990年までの変化
| 1984‑85 | Magic Johnson | Los Angeles Lakers | 年俸$2.50M | キャップ$3.6M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:69.4%
| 1989-90 | Patrick Ewing | New York Knicks | 年俸$3.75M | キャップ$9.8M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:38.2%
1991-00/ジョーダン1人でサラリーキャップ超え
| シーズン | 最高年俸選手 | 所属チーム | 年俸 |
サラリーキャップ
|
| 1990‑91 | Patrick Ewing | New York Knicks | $4.25M | $11.9M |
| 1991‑92 | Larry Bird | Boston Celtics | $7.07M | $12.5M |
| 1992-93 | David Robinson | San Antonio Spurs | $5.70M | $14.0M |
| 1993-94 | David Robinson | San Antonio Spurs | $5.70M | $15.1M |
| 1994-95 | Magic Johnson | Los Angeles Lakers | $14.7M | $15.9M |
| 1995-96 | Patrick Ewing | New York Knicks | $18.7M | $23.0M |
| 1996‑97 | Michael Jordan | Chicago Bulls | $30.1M | $24.4M |
| 1997‑98 | Michael Jordan | Chicago Bulls | $33.1M | $26.9M |
| 1998-99 | Patrick Ewing | New York Knicks | $18.5M | $30.0M |
| 1999‑00 | Shaquille O’Neal | Los Angeles Lakers | $17.1M | $34.0M |
90年代後半といえば、ジョーダンが3連覇を2回達成したタイミングである。冒頭に記載しているが、96-97シーズンと97-98シーズンの2年連続でマイケルジョーダンが1人でチームのサラリーキャップを「超える」事件も起きるほど、NBAはジョーダンが話題の中心であり、ジョーダンがリーグを牽引していた。ちなみに97-98シーズンのジョーダンの年俸は約37億円だったが、これは年俸で2位の選手と倍近く差があった。サラリーキャップが約32億円なのだから当然であろう。
この10年はジョーダンが世界的に人気を集めていたこともあり、全米のTV放映権契約料を爆上げし、世界100カ国へ広げたこと、またトレーディングカードやユニフォームなどのグッズも飛ぶように売れて行ったことで、サラリーキャップも選手の年俸も一気に桁が変わっていった。これらはジョーダンが築き上げた伝説である。
1990年から2000年までの10年間の変化
| 1990‑91 | Patrick Ewing | New York Knicks | 年俸$4.25M | キャップ$11.9M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:35.7%
| 1997‑98 | Michael Jordan | Chicago Bulls | 年俸$33.1M | キャップ$26.9M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:123.0%
| 1999‑00 | Shaquille O’Neal | Los Angeles Lakers | 年俸$17.1M | キャップ$34.0M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:50.0%
2001-10/同時多発テロでサラリーキャップが唯一「減少」
| シーズン | 最高年俸選手 | 所属チーム | 年俸 |
サラリーキャップ
|
| 2000‑01 | Kevin Garnett | Minnesota Timberwolves | $19.6M | $35.5M |
| 2001-02 | Kevin Garnett | Minnesota Timberwolves | $22.4M | $42.5M |
| 2002-03 | Kevin Garnett | Minnesota Timberwolves | $25.2M | $40.2M |
| 2003‑04 | Kevin Garnett | Minnesota Timberwolves | $28.0M | $43.8M |
| 2004-05 | Shaquille O’Neal | Miami Heat | $27.7M | $43.8M |
| 2005‑06 | Shaquille O’Neal | Miami Heat | $20.0M | $49.5M |
| 2006-07 | Kevin Garnett | Minnesota Timberwolves | $21.0M | $53.1M |
| 2007-08 | Kevin Garnett | Boston Celtics | $23.70M | $55.6M |
| 2008‑09 | Kevin Garnett | Boston Celtics | $24.75M | $58.7M |
| 2009‑10 | Kobe Bryant | Los Angeles Lakers | $23.03M | $57.7M |
2002-03シーズンをもってジョーダンが引退。一方で2003-04シーズンには、現在も生きる伝説となっているレブロン・ジェームズが高卒でドラフト入りした年である。当然ながらレブロンの注目度は非常に高かったものの、NBAにとってはわかりやすいアイコンがいなくなり「次のNBAを誰が担うのか」という世代交代の年であった。コービー&シャックの存在もあったが、それでも2003年のNBAファイナルは過去最低レベルの視聴率を記録、NBCは放送を降りるなど「低迷期」を迎えていた。
さらに、2001年のアメリカはドットコムバブル崩壊や9.11のアメリカ同時多発テロなどが重なって景気が一気に悪化。スポンサーが広告費を削り、一般市民は外出を控えたためチケットやアリーナの収入も減少。この煽りを受けて、NBAは史上初となる「サラリーキャップを下げる」という判断を行った。しかし、サラリーキャップが下がったのは後にも先にもこの年のみ。複合的な要因から起きてしまった超特例の1年として記録にも記憶にも残っている。
超特例の2002-03を除けば毎年サラリーキャップが上がっているが、これは放映権契約が先に結ばれていたことが大きい。NBA自体の売上は減速はしたが落ちているわけではなく微増を続け、また中国のスーパースターであり「万里の長城」とも呼ばれた226cmのビッグマン:ヤオ・ミン(ヒューストン・ロケッツ)のNBAでの活躍もあり中国でNBAがブームになり、ヨーロッパでもダーク・ノヴィツキー(ダラス・マーベリックス)やパウ・ガソル(メンフィス・グリズリーズ→ロサンゼルス・レイカーズ)など世界での人気が増えた。加えて日本でも田臥勇太がNBA入りしたこともありBSでNBA中継が安定的に行われるなど、NBAの人気が世界中に広がり始めたのもこのタイミングであり、放映権だけでなくマーチャンダイジング領域で特に売り上げが伸びた。
加えて、ケビン・ガーネットが最高年俸になったことも時代の変化を表現している。ジョーダン(スコアリングガード)から、パトリック・ユーイング(ゴリゴリのセンター)、シャキール・オニール(ゴリゴリのセンター)という流れがあったNBA。簡単にいえば「ゴール下を支配することが一番勝利に結びつきやすい」と考えられていた時代から、ガーネットのような211cmのオールラウンダーが一番評価され勝ち星を積み重ねたことで、NBAは「オールラウンダー全盛期」に移っていく。
2000年から2010年までの10年間の変化
| 2000‑01 | Kevin Garnett | Minnesota Timberwolves | 年俸$19.6M | キャップ$35.5M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:55.2%
| 2009‑10 | Kobe Bryant | Los Angeles Lakers | 年俸$23.03M | キャップ$57.7M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:39.8%
2011-20/史上最大のサラリーキャップジャンプ
| シーズン | 最高年俸選手 | 所属チーム | 年俸 |
サラリーキャップ
|
| 2010-11 | Kobe Bryant | Los Angeles Lakers | $24.8M | $58.0M |
| 2011-12 | Kobe Bryant | Los Angeles Lakers | $25.2M | $58.0M |
| 2012‑13 | Kobe Bryant | Los Angeles Lakers | $30.4M | $58.0M |
| 2013-14 | Kobe Bryant | Los Angeles Lakers | $30.4M | $58.6M |
| 2014-15 | Kobe Bryant | Los Angeles Lakers | $23.5M | $63.0M |
| 2015‑16 | Kobe Bryant | Los Angeles Lakers | $25.0M | $70.0M |
| 2016‑17 | LeBron James | Cleveland Cavaliers | $30.96M | $94.1M |
| 2017‑18 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $34.68M | $99.1M |
| 2018‑19 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $37.46M | $108M |
| 2019‑20 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $40.23M | $109.1M |
2011年にNBAは、選手とオーナーの対立によってロックアウトを刊行。シーズンを82試合から66試合に縮小して行われた。これはわかりやすく簡単に伝えると「給与交渉」によるものである。
NBAはNBA全体の収益を各チームに分配する形を取っており、配分された金額は選手とオーナーそれぞれで決まったパーセンテージを分配する形で決められている。具体的にいうと、「選手:57%」「オーナー:43%」という割合だったが、当時はサラリーキャップが高騰しすぎていたこともあって多くのチームが赤字と言われており、オーナー側は「選手の取り分を57%→50%付近にしてほしい」と提案したことが事の発端である。
当然選手は「チームの赤字は経営の問題であり、選手の分配を減らすなんてもってのほかだ」と大反論。しかしオーナー側は「それはわかるが赤字を解消し持続可能な経営をするためにも分配金額の調整は必要だ」と、議論は平行線に。これによって、シーズンの開幕が本来は10月中旬だったがクリスマスまでずれ込んだ。着地としては選手会側が交渉を呑んだため、オーナー側が大きく勝利した交渉ではあった。
このあと、マイアミ・ヒートにレブロンとウェイド、ボッシュの「スリーキングス」が結成されたり、2016年にコービーが引退をしたり、カリー率いるウォリアーズの王朝が始まったりするのだが、このウォリアーズが王朝を築く転機になったのが「史上最大のジャンプ」とも呼ばれる、約24Mドル(約35億円)ものサラリーキャップ上昇だ。
2016年にESPNとTurner(TNT)と9年・240億ドル(約2.6兆円)という超大型TV放映権契約が始まり、NBA前年の契約から約3倍の巨大収益を獲得し、NBAの収益分配も一気に爆増。これによって異常なまでの金額がチームに分配されたことでサラリーキャップも大幅に拡大した。分配金が増えチームの収入も増えたことによって、シンプルに選手契約に使える金額が増えたため、ウォリアーズはケビン・デュラントという超スーパースターと大型契約。現状の戦力を維持したまま獲得できたことで、ウォリアーズは王朝を築き上げることになった(2015年から2019年まで5年連続でFINAL進出・3回優勝)。
このタイミングはサラリーキャップが上がったことによって、「スーパースターチーム」をどう作るか、に焦点が当たっていた。スーパースターを3人抱えるか、2人にして他のメンバーを固めるか、などなど、チームごとに選手構成は非常に個性が出る、ある種の分岐点にもなった。
2010年から2020年までの10年間の変化
| 2010-11 | Kobe Bryant | Los Angeles Lakers | 年俸$24.8M | キャップ$58.0M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:42.7%
| 2019‑20 | Stephen Curry | Golden State Warriors | 年俸$40.23M | キャップ$109.1M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:36.8%
2021-/選手の最高年俸が90億円突破
| シーズン | 最高年俸選手 | 所属チーム | 年俸 |
サラリーキャップ
|
| 2020‑21 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $43.01M | $109.1M |
| 2021‑22 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $45.78M | $112.4M |
| 2022‑23 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $48.07M | $123.6M |
| 2023‑24 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $51.92M | $136.0M |
| 2024‑25 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $55.76M | $140.5M |
| 2025‑26 | Stephen Curry | Golden State Warriors | $59.60M | $154.6M |
2017-18シーズンからカウントして、実に9年連続でステフェン・カリーが最高年俸選手として君臨し続けている。カリーは2025-26シーズンで59.6Mドル(約90億円)までのぼ流。そして翌2018-19シーズンにサラリーキャップがついに100Mドル(約150億円)を突破し、現在まで毎年のように伸び続けている。
今シーズンが始まる前に、NBAの放映権はアマゾン(+NBC+ESPN)と新規放映権契約を「11年・約760億ドル(約11兆4,000億円)」という史上最大規模の契約を結んだことで、結果的にチームへの分配金が上がり、サラリーキャップも増えて行ったというお決まりの流れである。放映権以外にも、NFTやマーチャンダイジングなど収入の柱が増えたことも非常に大きな要因だ。これらの売上が年々上がっていることを予想し、2027-28シーズンにはサラリーキャップが200Mドル(約300億円)を超えるとも予想されている。
これだけサラリーキャップが上がっていることに対して、チームオーナーはNBAに対して苦言を呈しているのも現状の問題ではある。スター選手の獲得が簡単になったことで若手選手の育成計画が難しくなったり、大型契約を結んで怪我をしてしまった場合のリスクであったり、そもそも新規契約に使うお金が高騰しすぎていたり、ラグジュアリータックスの金額も高くなっていたり……と挙げればキリがないほど悩みの種がある。
チームとしては、3年・5年・10年で計画していた経営戦略がサラリーキャップの高騰によって左右されてしまうことも大きく、長期的な資金計画が非常に立てにくいのである。特にお金のないスモールマーケットのチームはギリギリで運営しているところもあるため、限られた予算と高騰するサラリーキャップのバランスを取りながら、どう戦力を補強し戦っていくかを考え実行するのが難しいところでもある。スターを獲得すれば高額のラグジュアリータックスが待っていることも視野に、勝てるチームをどう作るかが非常に難しいということだ。
2020年から2025年までの変化
| 2020‑21 | Stephen Curry | Golden State Warriors | 年俸$43.01M | キャップ$109.1M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:39.4%
| 2025‑26 | Stephen Curry | Golden State Warriors | 年俸$59.60M | キャップ$154.6M |
→スーパースターにかけるキャップの割合:38.5%
今後のNBA
サラリーキャップが上がり簡単にスーパースターが獲得できる時代にも関わらず、2024-25シーズンのファイナルはスモールマーケットチーム同士(インディアナvsオクラホマシティ)で、どちらもラグジュアリータックスを支払っていないチームだった。
他のチームがスターを獲得するもしくはキャップの下限を達するために無理に大型契約を結ぶ中、コツコツ育成をしながら、しっかりと仕事ができるメンバーにバランスよく年俸を払って整え続けたチーム構成がようやく身を結んだ形である。両チームともに「スーパースター」と呼べるのは1人もしくは2人くらいのチームだったが、今後はスーパースターチームではなく「スター1人+役割を全うできる4人」という構成がトレンドになるのかもしれない。
今の時代はジョーダンの時代と違ってデータも十二分に活用できる時代。
サラリーキャップが上がっているが、スーパースターに使う割合が4割以下になっていることを見れば、その選手を軸にどうチームを作るかを重要視しているとも考えて良いだろう。かつてはジョーダン1人でキャップ超え(123%)や、ガーネットに55%支払うという事象もあったほどなのだから。もしあなたがこれからNBAを再び見る場合には、わかりやすくそのチームのスター(中心選手)を「1人」理解しているだけで、きっと楽しめるはずだ。
さて、ジョーダンの時代から変わったことについて、年俸とサラリーキャップをベースに紐解いていったが、これだけでは止まらない。次回は、グローバル化と戦術について。
(※1)https://www.espn.com/espn/wire/_/section/nba/id/3479259
(※2)https://www.cbssports.com/nba/news/the-last-dance-how-nba-rules-prevented-michael-jordans-bulls-from-facing-superteams-in-the-1990s/
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