“田舎のチーム”が限られた予算の中で実行する型破りなアイデア - ビジネスとして見るNBA vol.10 -

「何をすればお客様は喜んでもらえるのか?」
「イベントは、尖った企画でなくても良いのだろうか?」

スポーツに限らず、ファンを巻き込むような仕事をしている全ての方は、このように何を・どうしたら面白いと感じてもらえるか、喜んでもらえるかを常日頃から考え情報収集しているだろう。限られた予算の中で、何を実行しどんなトライ&エラーをするのか。

プロバスケの世界においても、全く同じようなことが日常的に起こっている。
今回は、NBA(アメリカ)、Bリーグ(日本)、NBL(オーストラリア)、ユーロリーグ(欧州)の4大リーグで、特にスモールマーケットのチームからユニークな取り組みをピックアップして紹介していきたい。思わず笑ってしまうような企画を実施しているリーグもあるため、ぜひ肩肘張らずに読んでもらえたら嬉しい。

前回記事:
大都市の巨大ビジネスと、スモールマーケット成功チームの共通点とは? -ビジネスとして見るNBA vol.9 -

大前提

前回の記事では、各リーグの首都圏のチームがどのくらいの規模で儲かっているか、またその中でも頑張っている田舎のチームはどのような取り組みをしているのかを、ざっくりと紹介していった。
今回はもう少し突っ込んで、競技以外の内容で実際の企画を踏まえて紹介していく。もしあなたが何かイベント企画者だったりスポーツに関わる方であれば、もしかするとヒントになるかもしれない。

【NBA】(プレッシャー大)選手のアシスト数が、食糧支援につながる

バンク・オブ・アメリカの本社やトライアド・トラスト系の金融機関がある「東海岸のウォール街」とも呼ばれるノースカロライナ州のシャーロット。モータースポーツや音楽(ジャズやブルース)、そしてスポーツも盛んな多面的な街である。

そんな多彩な街のプロバスケチームが「シャーロット・ホーネッツ」である。
チームのエースは、オーストラリアのNBLからNBA入りを果たしスーパースターとして現在も活躍しているラメロ・ボールだ。
経緯はわからないが、ホーネッツのスポンサーである「The Fresh Market(アメリカのスーパー)」は、2022年に「ラメロ・ボールのアシスト数に応じて、地域に食糧支援を行う」という社会貢献キャンペーン(キャンペーン名:Assist to Assist)を実施(※1)した。ラメロ本人からすると、とんでもないプレッシャーである。自分がアシストを決めないと、食糧支援が行われないのだから。

安心して欲しいが、ラメロはスーパースターでNBAのアシストランキングでも常に上位に食い込むような選手である。よって、アシストが少ない時はあっても「0」の時はそうそう無い。ラメロのプレッシャーはさておき、ラメロの活躍が地域貢献に直結することが非常にわかりやすいことで、自然と多くのファンがラメロを応援するようになっていったことも事実である。
最終的な数字は発表されていないが、2022-23シーズンのラメロは「380アシスト」を記録した。この取り組みでは「1アシスト当たりミールキット40食分が支援される」という取り組みだったため、単純計算で「約15,000食」が支援されたと予想できる。

正直、選手の成績で食糧支援量を決めるのはナンセンスと私自身も思ってしまったが、思い切ったアイデアで町全体を巻き込むことに成功し、斬新なアイデアだったからこそ地域にも大きなインパクトを与えられたのでは無いかと思う。同時に、これはスモールマーケットだからこそできる内容であり、スポンサーの柔軟性と受け皿の大きさがなければきっと実現しなかったはず。地域に密着した、さまざまなカルチャーを受け入れてきたシャーロットという街の文化も、この取り組みには現ているのかもしれない。

シャーロット・ホーネッツのラメロ・ボール。 提供:AP/アフロ

【Bリーグ】地元の特産品で一緒に応援!ネギばんばん/納豆ヘッド

NFLにグリーンベイ・パッカーズというチームがある。グリーンベイはアメリカ中西部のウィスコンシン州にある街であり、酪農や農業が非常に盛んなところ。特にチーズの生産量が全米トップクラスである。
パッカーズは、グリーンベイという街を知ってもらいたい、地域の特産品を知って欲しいという一心で「チーズヘッド」という応援グッズを開発。現在は大人気商品として、パッカーズのファンが非常に多く持っている。そして会場で被っている。

チーズヘッドと同じような発想で、Bリーグの茨城ロボッツは「納豆ヘッド」を開発している。当時ロボッツの代表だった山谷拓志氏(現・静岡ブルーレヴズ代表(ラグビー))は元々アメフトの選手であり、メディア(※2)を通してパッカーズの「チーズヘッドのようなものができないか」と画策していたことを明かしている。
ロボッツは茨城県の中でも水戸市を拠点にしていることから、地域の特産品と言えばやはり「納豆」であろう。全国的にも水戸は納豆のイメージがあるはずだ。だからこそ、商品化もおそらくスムーズに進んだのではないだろうか。商品化に際しては「粘り強く諦めない」「粘れ」「ネバネバディフェンス」などとファンに親しまれるようなフレーズと共に商品に願いを込めた。

Bリーグにはもうひとつ、地域の特産品を使った応援グッズがある。越谷アルファーズが開発した「ネギばんばん」である。こちらは水戸の納豆とは打って変わって、そこまで越谷の特産品がネギであることを知っている人はそう多くないだろう。そもそも越谷と言えば日本でも最大スケールを誇る「越谷レイクタウン」が全国的な知名度を誇るものの、特産品はパッと思いつかない。隣町の草加市は「草加せんべい」が有名であるが、実は「越谷ネギ」は埼玉県でも「深谷ネギ」に次ぐ特産品でもある。このように「実は知られていない地域の特産品を広めたい」という思いから実現に至った。
しかし、ネギをメガホンにしたことで「ネギを叩いて応援する」という状態になってしまうが、これはJA全農や農家の方々にも相談し(※3)合意を得たそう。結果的にネギばんばんは大収穫が続いているんだとか。
納豆ヘッドにしてもネギばんばんにしても、地域に応援してもらう、自分たちが地域を盛り上げるという思いがあってこそ実現していることは間違いない。

【NBL】手作りのハート

オーストラリアのタスマニア州(島)には、島で唯一のプロバスケットボールチーム「Tasmania JackJumpers(タスマニア ジャックジャンパーズ)」は、島のアイデンティティになっている。彼らはプロバスケチーム・プロバスケ選手として、地域社会、子ども、先住民族との関係を非常にバランスよく整えひとつの島をまとめあげたという功績がある。このように、地域の方々が「試合を見る」だけではなく、”近所の人”という感覚で「関わる」レベルまで成長していることが大きい。
結果的に、選手や関係者がオンラインでの誹謗中傷を受けた際、地域の市民団体が“1,000個の手作りフェルトのハート”を作ってチームへ送るという心温まる(かつ非常に地域的)な事案がメディアでも報じられた(※4)。

これはチーム側が「受け取った」という事案であるが、そもそも一般の方からチームにこのようなプレゼントが贈られることはそうそうない。それだけ地域に根付いて活動している証であると言えるだろう。単なるCSR活動やスポンサー施策ではなく、自然発生的に街の人がアクションを起こしていることからも、スモールマーケットならではの距離の近さを感じられる事案である。

【ユーロリーグ】”審判”を一般人が体験

イスラエルのスタートアップ企業である「MindFly」が、ユーロリーグの準決勝・決勝で審判と選手に軽量のボディカムを装着した(※5)。このカメラから見える世界をファンはスタジアムの外でもテレビでも見ることができるようになった。
「試合以外」のタイミングでオンコートにいるような体験ができるVRシステムはあるが、「試合中」にコート上で審判の目線で映像を見ることができるという体験は、リスクがともなうだけに遠慮しがちな企画であるが、思い切った企画と言えるだろう。

ユーロはこのように、観客を「座って見る人」ではなく「一緒に体験する人」とシフトさせている傾向が強い。この取り組みは一見、応用ができないと考えてしまうかもしれないが、ある種ライブ配信にせずとも、こういった動画撮影を駆使したプロモーションビデオなどを作ってみるのは有りだと思う。
実際にこの取り組みも、言ってしまえば「カメラをつけるだけ」の話でもあるため、ユーロリーグの中ではマーケットの大小に関わらず実施ができると考えられている。この取り組みは来場客はもちろんだが配信やテレビを見ている人の満足度をあげること、もしかすると会場へ誘引することかもしれない。しかしながら間違いなく言えることとして、配信を見ている人がこの体験によって感動し口コミが広がれば、ユーロリーグのストリーミング再生の数字も、ますます潤っていくだろう。

(※1)https://theshelbyreport.com/2022/10/19/the-fresh-market-ball-partner-for-assiststoassist-campaign/
(※2)https://mito.keizai.biz/headline/1314/
(※3)https://spojoba.com/articles/pr/1122
(※4)https://www.heraldsun.com.au/news/tasmania/1000-hearts-and-sarah-de-jonges-heartwarming-gesture-for-jackjumpers-amid-online-abuse/news-story/f83cde9c27091fe5964b738d66ad838e
(※5)https://mediacentre.euroleague.net/mediacentre/en/press_releases/single/18005/no