同じようで全然違う!?プロバスケリーグを動かす人と組織 - 世界プロバスケリーグ比較 vol.6.5 -

そもそも”リーグ”という存在は、誰がどのように意思決定をして、どのように動かしているのだろうかーー。
今回は、これまでのNBA(アメリカ)、Bリーグ(日本)、NBL(オーストラリア)、ユーロリーグ(欧州)の世界4大プロバスケリーグの中でもある種のスピンオフとして、各リーグのコミッショナーやリーグ運営機関について深掘りしていこう。

バスケットボールという競技そのものを動かす意思決定の構造を知ることで、リーグの個性の根源もきっと理解できるはず。リーグ母体が違うからこそ見えてくる内容もあるため、コミッショナーのプロフィールと共に紹介していこう。

前回記事:
選手が”動く”リーグはなぜ強いのか?プロバスケ選手の人材循環と育成構造 - 世界プロバスケリーグ比較 vol.6 -

それぞれの運営母体について

まず、それぞれのリーグがどのように構成されているのか、簡単に一覧でまとめる。これを見れば、誰がハンドリングをしているのかが一目瞭然である。当然ながら「どの動かし方が良い」という議論をしたいわけではない。次章から、それぞれの”メリデメ”まで紹介してければと思う。

リーグ 主体 構造 意思決定の速さ 特徴
NBA(アメリカ) コミッショナー+理事会 トップダウン(CEO型) グローバル展開が速い
Bリーグ(日本) チェアマン+理事会 合議制(ハイブリッド型) 地域との合意を重視
NBL(オーストラリア) オーナー企業 民間経営型 マーケット最優先
ユーロリーグ(欧州) クラブ連合 連邦制 各クラブの独立性が強い

簡単にまとめると、以下の通りである。

NBA(アメリカ) アダム・シルバー氏が最高経営責任者としてコミッショナーの立場。シルバー氏と理事会で物事が決定する
Bリーグ(日本) 一般社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(=Bリーグ)の理事会が最高意思決定機関。島田慎二チェアマンは実務執行を担う立ち位置
NBL(オーストラリア) ラリー・ケステルマン氏が代表を務める「LK Group」傘下の民間企業である「NBL Pty Ltd」が運営し最終決定権を持つ
ユーロリーグ(欧州) 欧州の強豪クラブが出資・運営する「ECA(Euroleague Commercial Assets)」が実質の統括団体。各クラブが株主として発言権を持つ

NBA:アダム・シルバー氏

NBA(National Basketball Association, Inc)は、厳密にいうと「非公開の協同組合型法人」で、いわゆるジョイントベンチャーに近い存在。完全な財団ではなく、NBAに属する30チームのオーナーたちが共同で出資・運営している組織だ。ちなみに、このチームオーナー30名が参加しているのが「理事会」である。この理事会のトップに立っているのが「アダム・シルバー氏」だが、アダム・シルバー氏は理事会から任命されているリーグのCEOのためチームオーナーではない。裏側の話をすると、アダム・シルバー氏はNBAに所属しNBAから給与をもらっているため、実質的にはオーナーたちに雇われている立場とも言えるが、たとえるなら理事会は国会であり、アダム・シルバー氏は首相というわけだ。そしてNBAの場合は、CEO(現在のアダム・シルバー氏)が、理事会の承認が必要ではあるものの、リーグ全体をある程度個人の権限で動かす力を持っている。

ちなみに、形式上は上記の「アダム・シルバー氏」と30チームのオーナーによって構成される「理事会」によって、NBAに関する議案の最終決定が行われるが、日々の政策や施策を実際に動かしているのはリーグ事務局(NBAというリーグで働く人たち)であり、彼ら・彼女らも議案を出している。そのため、基本的に議案は「リーグスタッフ」が稟議を上げ、それを実施するか・しないかをアダム・シルバー氏と理事会が決定するという流れである。
当然ながら理事会ではチームオーナーも発言権を持っているため、まずチーム内で「今度理事会がある。リーグに言いたいことはあるか?」とチーム内で話がされたりメインスポンサーからの意見を集約したのち、チームの希望をオーナーが理事会で提案することもある。
また、NBAにも「選手会」という選手の労働組合が存在しているが、選手に直接関わる内容だけは、理事会で勝手に決定することはできない。理事会で上がった内容を選手会にフィードバックし、OKが出たら承認される流れである。いわゆる労使関係だけは選手会が絶対的な影響力を持つわけだが、ここが他リーグと決定的に違うところでもある。


NBAのコアなファンの間で「銀さん」という愛称で親しまれるアダム・シルバー氏

メリット

構造が非常にわかりやすく、一貫性のあるトップダウン。アダム・シルバー氏と理事会がリーグの方向性を明確にし迅速に実行できる。NBA最大の特徴でもあるが、アダム・シルバー氏が自由裁量で決定権を持っていることで、理事会の承認後にすぐ動けることも成長スピードを早めている。この仕組みが現在のメディア戦略や国際展開、またルール変更などを簡単にしていると言っても過言ではない。海外展開の際もしっかりとトンマナが整っているのは、最終的に充実したNBAのリーグスタッフの手厚いサポートによるものでもあろう。

デメリット

どうしても30チームの間で摩擦は起きる。大きなフランチャイズの金持ち球団もあれば、スモールマーケットの経営ギリギリ球団もある中で、収益分配やスタンスの違いでオーナー同士の摩擦は凄まじいものがある。また、近年はSNSという時代の流れによって、幸か不幸かスター選手の発言力が増大している。若干2大権力構図になってしまっているのは現状デメリットとも言える。

アダム・シルバー氏の功績

2014年からCEOに就任したアダム・シルバー氏。そもそも1984年から2014年までは「デイヴィッド・スターン」という、元弁護士の伝説的なリーダーがNBAを牽引していた。スターン氏は近代NBAの国際化やテレビ放映権の拡大、全チームが健全な経営をできるようにNBA全体の収益構造の基盤を作った素晴らしいリーダーだった。
アダム・シルバー氏は、デイヴィッド・スターン時代に副コミッショナーを務めていたいわゆる側近であり、2014年のスターン氏の引退と共に内部昇格でCEOに立った人間である。
よって、スターンが創り上げた基盤を生かし、グローバル&デジタル化に対応するために新たな挑戦を続けている存在でもあるのだ。特にシルバー氏は、新型コロナウイルスの機関中に「バブル」という無観客隔離型リーグを構築してシーズンを再開させたことが話題になった。放映権やスポンサー収入を守りつつ、選手やスタッフの安全を確保できたことが、一定の評価をえている。加えて、アジア圏を中心とした中継拡大やSNS・ストリーミング配信の拡充を決定し、NBAが最先端リーグであることを継続的に実現し続けている存在とも言える。

Bリーグ:島田慎二氏

Bリーグ(一般社団法人)はあくまで独立した法人格であり、理事会を最高意思決定機関として置いている。これとは別にJBA(日本バスケットボール協会)がある。簡単に言えば、あくまでJBAはBリーグの意思決定に関係しておらず、わかりやすいところで日本代表選手の選出などで連携しているだけである。あくまでリーグの決定事項はBリーグが決定しているため、BリーグはBリーグをどうするかを考え、JBAは日本代表をどうするか、など日本のバスケットボール全体を見る存在というわけだ。

この流れでいえば、BリーグもNBA同様に各チームの代表が参加する理事会と島田慎二チェアマンが最高意思決定権を持っている。ただBリーグの場合は、理事会が合議制で運営されているため、NBAのアダム・シルバー氏のように「1人の個人がリーグ全体を自由に動かせる」という権力を誰も持っていない。また、理事会は基本的にはチームの代表が出席しているが、理事会の前にチームオーナーが地域や企業、行政の意向を吸い上げてから理事会に持ち込むことが多いため、割と民主的な進行が求められることが多い。


「島田のマイク」という名称でポッドキャストやYouTubeで自ら発信

メリット

各チームがそれぞれのバックグラウンドを持って理事会で議論しチェアマンが最終的に調整・承認する構造のため非常に民主的で各クラブの納得感や地域連携が非常に強い。NBAのようにトップダウンではないため、しっかりと自分たちの理想を提案すればなるべく叶えようとする動きは見せてくれるため、協力を得られやすいこともメリットである。

デメリット

どうしても最終決定までに時間がかかってしまうこと。当然だが、施策を1つとっても全チームがYESと首を縦に振ることはそこまで多くない。反対意見が出ても不思議ではない。チームによって状況は違うのだ。特に近年Bリーグは新アリーナ構想によってアリーナを全国各地に建設しているが、アリーナ建設を反対する自治体も当然ある。意見が対立すれば、それを説得することや折衷案を作ることなどでどんどんスピード感は鈍化してしまう。民主的であるからこそのデメリットとも言えるだろう。

島田慎二氏の功績

話の腰を折るようだが、島田チェアマンは民主的に進めつつも行動力が高く発信力のある人物としても有名である。チェアマンのSNSを見ればわかる通り、全員の合意を待つ前に、また調整が入った瞬間に、とにかく行動し発信している姿が見て取れる。
そもそも2014年頃、日本のプロバスケリーグは分裂状態で、FIBAから国際大会への出場停止を言い渡されていた。その頃の日本のバスケ界をひとつにまとめたのは大川正明氏である。大川氏は当時のNBLとbjリーグの統合タスクフォースのリーダーとしてプロジェクトの旗振り役を見事に務めあげ現在の「Bリーグ」を作った人物であるが、Bリーグ発足と同時に大川氏が現在の島田チェアマンを初代理事会理事として推薦したことから始まる。

島田チェアマンは当時、統合後のリーグ運営を支えるハブ的な存在として大きな役割を果たす。そもそも分裂状態で仲が悪かった2つのリーグの間を取り持つだけでも相当な体力が必要だが、両リーグ間の混乱を最小化し信頼関係を構築するために働きかけ、また千葉ジェッツの社長の経験を武器に「地域密着」を掲げたリーグ運営を行い、また事務局と理事会の権限関係を明確化するなど、仕組みの整備を徹底的に行った。今こうして日本のバスケットが盛り上がりを見せ、NBAへの道のりやNBLとの連携などグローバル進出も着々と築き上げていることも鑑みれば、島田チェアマンの功績は非常に大きいと言えるだろう。

NBL:ラリー・ケステルマン氏

そもそもNBLだけは、他のリーグと成り立ちの根本がまるで違う。
簡単に言えばNBLは「民間企業がM&Aで買い取って再生した”ビジネスリーグ”」である。1979年からスタートした歴史あるリーグであるものの、2000年代には観客数は減り、財政難に陥ってクラブ破綻が続出したことにより、2014年にはリーグ全体が崩壊寸前にあった。そんなタイミングで「ラリー・ケステルマン」という、不動産・通信・テクノロジー業界で成功した実業家がリーグ運営権を買収する。そして自身の持ち株会社「LK Group」傘下の「NBL Pty Ltd」として再出発させたことが物語の始まりである。

つまり、リーグ自体が1人のオーナー起業によって所有されている状態である。今までのNBAやBリーグのように「チームが一枚岩になって理事会が存在する」ではなく、ある意味ではリーグがチームを”フランチャイズ”して貸与する形に近いとも言えてしまう。ここまで説明しただけで理解した方もきっと多いと思うが、当然ながらリーグの最終決定権はケステルマンが保有する「NBL Pty Ltd」にある。当然各チームも意見を出す会議はあるものの、NBAやBリーグの理事会のようなものではなく、あくまで意見は出せるが決定権はリーグ本部にあるため、リーグが決めたことは絶対である。見方を変えればベンチャー企業のようにリーグを運営しているため、判断がとにかく早く、戦略も非常にわかりやすいものが多い。


NBLをも成功に導こうとまい進する敏腕ビジネスマンのラリー・ケステルマン氏

メリット

スピード感は圧倒的。NBAを始め他のリーグの比ではない。どこよりも早く決定できるため、社長決裁が通ればすぐに実施できるスピード感がある。NBLが積極的に行っている「Next Star制度」など、ビジネス的に目を引く施策は即断即実行し現在も継続しているし、海外市場から有能な選手を引っ張ることや日本や中国などへの展開も積極的に行っている。ケステルマンの方針によって、「NBAへの登竜門」といったブランドの構築も着々と進んでいる。

デメリット

裏を返せば誰でも理解できると思うが、あまりに属人的な運営をしているため、ケステルマンがもし退任してしまった場合、資金や将来的なビジョンが一気に白紙になってしまう。万が一、明日亡くなってしまったら……と考えると、NBL関係者はきっと恐怖に陥るはずだ。それほどの影響力を彼は持っている。
一方で、チームの発言権が非常に弱く、リーグ運営に反対しても従うしかないのが現状でもある。独自の判断でスピード感はあるが、Bリーグのような民主制は一切ないため、思いに賛同できないチームは離れていってしまうかもしれない。

ラリー・ケステルマンの功績

そもそもなぜケステルマンはNBLを買収したのか。ケステルマンは元々スポーツビジネスに非常に関心が強く、彼自身も幼少期にはバスケットボールをプレーしていた経験がある。そして通信や不動産などいわゆる「地域密着」のビジネスで成功したことで、スポーツを資本として成長させる方法に興味を持ったことがキッカケ。投資対象としてさまざまなスポーツリーグを研究し「低迷リーグを再建して価値をあげる」という投資+経営チャレンジができる場面を求めていた。そんな時にNBL崩壊のニュースが彼の元に舞い込んできたため「これはチャンス!」と捉えてNBL再建という「ビジネス」に挑むことを決めた。

アメリカのスポーツニュースで有名なチャンネルの「ESPN(※1)」を筆頭に、オーストラリアの現地メディアは彼の取り組みをすぐに取り上げた。オーストラリアの投資・ビジネス情報を紹介している「Australian financial Review(※2)」によれば、NBLの過半数株(51%)をケステルマンは取得したが、その時の投資額は約700万AUD(約7億7,000万円)で、直後にリーグ再建のためにさらに約1億AUD(約110億円)を投資したという情報が出ている。
ここから、国際的なマーケティング戦略や放映権の改善、クラブ・アリーナ運営の強化、コスト管理、ファンベースの拡大など、これまで研究してきたあらゆるスポーツリーグの取り組みを実践し、かつ「NBAの登竜門」という唯一無二のブランディングを行いリーグを盛り上げた。同誌によれば、先行投資は回収フェーズに入っており、リーグも成長軌道に乗ってきたと、ケステルマン本人もコメントを出している。ビジネスマンとしての才覚がここまでNBLというリーグを大きくしているが、回収が終わる前にきっと次なる一手を打ってくるはず。どんな内容か非常に楽しみである。

ユーロリーグ:ECA

ひとつの国ではなく、ヨーロッパの強豪クラブが出資・運営する「ECA(Euroleague Commercial Assets)」が実質の統括団体であり、チームによる合議制で最終決定が行われている。各クラブが株主として発言権を持っており、一応CEOは存在しているものの、基本的にはECAが会議で決定していることがほとんどである。リーグ事務局は調整役にまわることが多く、基本的には各チームが決定事項を実行している形だ。
あくまでCEOに権限が集中していないために、組織全体が一枚岩となってリーグを動かしているのが現状。「組織で動くリーグ」ともしばしば称される。


さまざまな国と地域で開催されているユーロリーグ

メリット

チームの主体性が半端ではない。「自分たちがこのリーグをよくする!」という意気込みが非常に強く抜群のオーナーシップがある。伝統やブランドが守られているのは、彼らの存在なしに語れない。また近年はNBAとの距離を近め、デジタル化やファンエンゲージメントを強化し、これまで以上の熱狂を創り上げている。ただでさえヨーロッパのファンの応援は熱狂的であるのに、それに輪をかけて盛り上がりを見せつつあるのは、興行を行うチームの主体性があればこそ。

デメリット

大陸横断型のリーグでチームの主体性が強いからこそ、リーグとしての統一感は欠けやすい。また、リーグ全体での新たな取り組みは特に進みにくく、強豪国のクラブの発言権が鍵を握っているため、意見を通すためには、まずチームの成績を向上させていく必要がある。実力主義と言ってしまえばそれまでだが、リーグとしてのブランディングを考えると、どこかのタイミングで足並みを揃える必要があるかもしれない。

各チームオーナーが功労者

Real Madrid、FC Barcelona、CSKA Moscow、Panathinaikosなどのクラブ代表が、リーグ改革や大会フォーマットの決定で重要な役割を果たしてきた。「ユーロリーグはチームが主役」というモデルを定着させ、また制度設計、収益分配モデルの形成などにも関与し、チームとリーグ全体の両立を図ったことでも有名である。各メディアでも「誰が」ではなく「チームが手を取り合って創り上げた」という表現がしばしばされているため、NBAやBリーグ、NBLとは異質で対象的であるとも言えるだろう。

(※1)https://www.espn.com.au/nbl/story/_/id/43971795/nbl-tasmania-jackjumpers-new-owner-altor-capital
(※2)https://www.afr.com/companies/sport/larry-kestelman-didnt-buy-a-club-he-bought-the-whole-nbl-20151006-gk2l8k
(※3)https://www.euroleaguebasketball.net/news/decisions-of-the-eca-general-assembly-july-2024/