23年越しの夢 大学卒業後すぐに卓球で起業した男が“綺麗に切れるラバーカッター”を生み出すまで

卓球人なら誰しも、ラバーを綺麗に切れずに悩んだ経験があるだろう。

「失敗なく、美しく切れる道具を作りたい」。

そんな思いから誕生したのが、QLOP合同会社代表・小田卓志さんが開発した「QLOPラバーカッター」だ。

幼少期から卓球に親しみ、社会人としてIT企業を経営する一方で、卓球をもっと楽しく、もっと身近にしたいと願い続けてきた小田さん。仲間の声や長年の構想、そして技術者との出会いが重なり、23年越しのプロジェクトが形になった。

今回は小田さんに、開発の背景から製品のこだわり、ユーザーの反響、そして卓球への熱い思いまでを伺った。

開発の背景と卓球への想い

写真:QLOP合同会社代表・小田卓志さん/撮影:ラリーズ編集部
写真:QLOP合同会社代表・小田卓志さん/撮影:ラリーズ編集部

まずは卓球の経歴をお伺いしてもいいでしょうか?
小田卓志さん:卓球は父の影響で幼少期から始めました。名前の「卓」も卓球の卓からです。

学生時代は部活で仲間と白球を追いかけてきました。大学に進学した後も自分でサークルを立ち上げるほど、卓球はずっと自分の軸にありました。

社会人になってからはIT企業を経営し、システムやウェブサービスの開発を続けていますが、「卓球をもっと楽しく、もっと身近にする道具を作りたい」という思いは常に持っていました。

ラバーカッターを開発しようと思ったきっかけをお聞かせください。
小田卓志さん:仲間のラバー貼りを手伝っているときに、「綺麗に切れない」「ラケットを傷つけてしまった」という声をよく耳にしていました。その悩みは私自身も経験がありましたし、「これを解決できる道具があれば」と思ったのがきっかけです。

長年の構想がありましたが、今から23年前、私が運営していた卓球コミュニティサイト「たっきゅん」で知り合った技術者の吉田さんとの出会いが大きな転機でしたね。その縁を通じて、ようやく製品化が実現しました。

写真:できあがったラバーカッター/撮影:ラリーズ編集部
写真:できあがったQLOPラバーカッター/撮影:ラリーズ編集部

苦労とやりがい

開発にあたって最も苦労した点はどこでしょうか?
小田卓志さん:カッターに使用する刃の選定です。硬度や厚み、角度を変えながら何度も試作し、安全性と切れ味をどう両立させるかに苦心しました。

裏ソフト、表ソフト、粒高、アンチ…さらにスポンジの硬さや厚みの違いもあって、すべてに対応するのはとても難しかったです。

写真:完成品のラバーカッター/撮影:ラリーズ編集部
写真:完成品のQLOPラバーカッター/撮影:ラリーズ編集部

小田卓志さん:子どもや初心者でも安全に使えるように、刃の露出や角度の工夫にも多くの時間をかけました。
開発過程で印象に残っていることはありますか?
小田卓志さん:試作品を使ってもらうと、うまく切れる人もいれば切れない人もいました。その理由を一つひとつ検証して改良を重ね、「これなら多くの人が綺麗にラバーを切れる」という形に近づいていきました。

「気持ちいい!」「こんな簡単なら自分でできる」という声をいただいたときは、本当に励みになりました。開発者としてだけでなく、一人の卓球愛好家として心から嬉しい瞬間でしたね。

QLOPラバーカッターの特徴

写真:QLOPをラケットの側面にぴったりと当ててスライドさせながら切っていく/撮影:ラリーズ編集部
写真:QLOPをラケットの側面にぴったりと当ててスライドさせながら切っていく/撮影:ラリーズ編集部

QLOPラバーカッターのこだわりポイントを教えてください。
小田卓志さん:最大のこだわりは「綺麗に切れる」ことです。

日本製の高品質な刃を採用し、角度や位置を安定させるガイドを設計しました。ラケットを削らないよう細部まで工夫し、手の大きさや年齢を問わず扱いやすい形状を追求しています。

従来のハサミやカッターとはどう違うのでしょうか?
小田卓志さん:従来の家庭用のハサミでは切り口がガタガタになってしまい、特にグリップのカーブ部分が難しいという課題がありました。カッターを使う場合も専用の台が必要で、準備が大変でした。

その点、QLOPラバーカッターはラケットの側面に沿わせて一周するだけで切れるため、ガタつきが少なく仕上がりが美しいのが特徴です。ハサミの手軽さと専用カッターの精密さを両立させた製品になりました。

写真:グリップ付近はかなり切るのが難しい/撮影:ラリーズ編集部
写真:グリップ付近はかなり切るのが難しいがQLOPはそこを解決/撮影:ラリーズ編集部

実際に使った方の反応はいかがでしたか?
小田卓志さん:「これまで一番難しかったサイバーシェイプでも綺麗に切れた」「切るときに力がいらない」「仕上がりがプロ並みに整った」などの声をいただいています。

「ラバーを切るのが楽しくなった」「無駄にラバーを切りたくなる(笑)」という声もありましたね(笑)。

特に、自分でラバーを切るのが苦手だった方が「初めて綺麗に切れた」と喜んでくださったのは忘れられません。

写真:QLOPを説明する小田卓志さん/撮影:ラリーズ編集部
写真:QLOPを説明する小田卓志さん/撮影:ラリーズ編集部

制作にあたってクラウドファンディングも実施されたとのことでしたが、結果はいかがでしたか?
小田卓志さん:最終的に500名以上の方からご支援いただき、達成率も当初の見込みを大きく超えました。国内だけでなく、SNSを通じて海外からも「こういう道具を待っていた」という声が届きました。

日本向け販売にも関わらず、海外から転送サービスを使ってまで購入してくださる方もいて、世界的に需要があることを改めて実感しました。

今後の展望と卓球への想い

今後はどのような展開を考えていますか?
小田卓志さん:まずは国内で確かな実績を積み、製品の信頼性を確立していきたいです。そのうえで、世界展開を視野に入れています。

また、まだ一部対応の難しいラバーもありますので、「どんなラバーも誰でも綺麗に切れる」というところを目指して、改良を続けていきたいと思います。

さらに、ラバーやラケットの使用データを活用して、ユーザーに合った用具選びやトレーニングを提案するサービスに発展させたいですね。

アプリとの連携やデータ分析を通じて、卓球を「もっと科学的に」「もっと楽しく」する仕組みを作っていきたいと考えています。

小田さんにとって卓球とはどんな存在でしょうか?
小田卓志さん:卓球は自分にとって「常に考え続ける習慣」を与えてくれた存在です。学生時代から、周りより1秒でも多く卓球のことを考えれば強くなれると思っていました。その習慣はビジネスにも通じています。

卓球は単なるスポーツではなく、人生を形づくる大きな軸。家族や仲間とのつながりを深め、仕事や生き方にも影響を与えてくれた存在です。

最後に読者へのメッセージをお願いします。
小田卓志さん:卓球は年齢や性別を問わず誰でも楽しめるスポーツです。その入り口を広げ、ラバーを貼る楽しみを体験してもらいたいQLOPラバーカッターは、自分のラケットを自分の手で仕上げる喜びを感じるきっかけになるはずです。

卓球をもっと自由に、もっと身近に。その感覚をぜひ味わってみてください。

取材・文:山下大志(ラリーズ編集長)