グレーゾーンでお手上げ!? NBAスポンサー契約の実態 -ビジネスとして見るNBA vol.8 -

NBAをはじめ多くのスポーツリーグにはスポンサー契約の階層がいくつかある。
主には3つ。「リーグスポンサー」「チームスポンサー」「個人スポンサー」だ。それぞれに立場がある中で、例えばポカリスエット(大塚製薬)とアクエリアス(コカ・コーラ)が同時に同じリーグのスポンサーになることはない。「スポーツドリンク」というカテゴリーでバッティングすることのないように「競合排除」のルールが盛り込まれているのだ。

企業はスポンサーをすることで露出を増やし、選手に使ってもらうなどで売上を伸ばし、ブランディングを高めたいと考えているが、実際のところどこまで実現性のあるものなのか。幾つかの事例と共に紹介していこう。

前回記事:
“億”がないとスポンサーになれない?NBAのスポンサーメリット -ビジネスとして見るNBA vol.7-

それぞれのスポンサー契約について

まず前提の整理として、NBAにおけるスポンサーの階層を一覧にして紹介しよう。

階層 内容
リーグスポンサー NBA全体と契約。公式パートナーとしてリーグイベントや全チームに露出 Gatorade(飲料)、State Farm(保険)、Tissot(時計)
チームスポンサー 特定チームと契約。ホームアリーナ、ユニフォーム一部、広告看板などに露出 Lakers × Verizon、Bucks × Harley-Davidson
個人スポンサー 選手個人と契約。シューズ、ウェア、飲料、ゲーム機など多岐にわたる レブロン・ジェームズ × Nike、クレイ・トンプソン × BodyArmor

スポンサーのプランについては前回記事(https://ssn.supersports.com/basketball/the_business_of_nba_vol7/)でも一部紹介をしているが、リーグ・チーム・個人でプランも金額も全て異なる。上記には右列に「例」を参考までに置いているが、例えば「Nike」はレブロン・ジェームズとシューズの契約をしており「LeBronシリーズ」を世界中に発売していると同時に、リーグとは全チームのユニフォーム制作に関する契約をしている。このように、それぞれの立場で関わり方が異なってくる。

今に始まった話ではないが、このような整理の中でNBAでは幾つかの問題が同時に発生している。例えばNBAのユニフォームは上記の通り「Nike製」のもので作られるため、とある「A選手」が「自分はadidasが好きだから、adidasのユニフォームじゃないと着用しない」と言っても拒否権はない。当然、勝手にユニフォームを作ることはできない。

しかしながら、若干バッティングをしている事実もある。NBAで一番有名なのは「ゲータレード問題」であるが、次章ではこの問題について紹介していこう。

ゲータレード問題のリアル

まず、NBAの公式飲料スポンサーが「ゲータレード(ペプシ)」である。オレンジ色のパッケージのオレンジ色のスポーツドリンクだ。これによって、基本的にNBAの試合、試合後の記者会見などではゲータレードを飲まなくてはならない。試合中はベンチに置いてあるし、記者会見では机の上に必ず置いてある。

このゲータレードがNBAではしばしばスポンサーアクティベーションまわりでの問題になっている。結論から伝えると、選手がゲータレードを「飲まない」のだ。そして、選手は個人スポンサーとして飲料メーカーと契約していることも最近は増えつつある。
前段の「個人スポンサー」部分で、クレイ・トンプソンが「BodyArmor」と契約していると記載したが、この「BodyArmor」はコカ・コーラ社のスポーツドリンク。ゲータレードと120%バッティングしているが「どうしてもゲータレードは好きじゃない」という選手も少なくない。NBA側は「好みの問題は仕方ない」と考え一部条件付きではあるが飲用・契約を許可していることも事実だ。「adidasが好き」とは訳が違うコンディションにも関連する問題のため、NBAが首を縦に振らざるを得ないのも納得だ。

「さっぱりした味で美味しい。試合中もこれが良い」「自分は水で良い」「ゲータレード最高!」など好みがあるのは当然の話だが、一方でそうなるとゲータレード側のスポンサーメリットが全くない。「選手が飲まないんだったらNBAに協賛する意味ない」と思われても仕方ない。そして選手は個人契約を当たり前のように優先するため強制しきれない。そして、記者会見中に机の上に置かれているゲータレードのボトルを取り除いた選手が多数現れ、加えて自分をスポンサーしてくれている飲料メーカーのボトルをテーブルに置いた選手まで現れた。

この状況を踏まえてリーグとチームは露出調整(ゲータレード以外のブランドはラベルを剥がす/ゲータレードのボトルに入れて中身を入れ替える)などで対応する方針を固めた。あくまで「ゲータレードの露出が一番ある」という状態を作ったのだ。
とはいえ、NBAというリーグの広告塔は絶対的に選手であり、選手なくして露出することはあり得ない。そのため、あくまで一番上のレイヤーは選手であり、次にリーグやチームがあるという構造にどうしてもなってしまっている。何ともいえないグレーゾーンであり、NBAとしても「都度調整する」といった考えを持ちながらも、基本的には選手優先にしつつも、その上で露出上の調整を行うことで満足度を下げないように工夫を凝らしている。

他にもある!? スポンサー競合事例

スポンサーのバッティング問題は決して今に始まったことではない。他の事例として、以下の4つを紹介したい。

Beats by Dre vs BOSE(オーディオ)

リーグスポンサー NBAは一時期 Bose を「公式ヘッドホンスポンサー」として契約
個人スポンサー レブロン・ジェームズ、ドレイモンド・グリーンなど多数の選手が Beats by Dre と契約
衝突 選手が試合会場入りの際に Beats を着けて登場 → NBAがBose契約を理由に制限をかけた(カメラ前ではNGなど)
結果 選手は Beats を宣伝したいが、リーグ規約では Bose が優先されるため「ロゴ隠し」や私服でのみ着用(2018年にBOSEと契約解除し正式にBeatsになった)

Nike vs そのほかのシューズブランド(シューズ)

リーグスポンサー NBAの公式ユニフォームは Nike(以前はAdidas)
個人スポンサー ステフィン・カリー(Under Armour)、カワイ・レナード(New Balance)、ジェイミー・バトラー(Li-Ning など)
衝突 Nike製ユニフォーム着用は必須だが、シューズは個人契約で自由 → Nikeがリーグ全体の露出を握る一方で、足元はライバル社が目立つ
結果 「直接禁止」ではないが、リーグスポンサーにとってはブランド一貫性を崩す要素として懸念された時期もあった

Gillette vs Wahl Clippers(グルーミング)

リーグスポンサー NBAは一時期 Gillette と契約していた。選手の身だしなみ全般を整えるための商品提供に関する契約
個人スポンサー 選手が別のグルーミングブランドと契約して宣伝するケースが出てしまった
結果 明確な「大炎上」は少ないが、イベントでの露出NGなど調整が入った

Sprite(Mountain Dew) vs Pepsi(Gatorade)(スポーツ飲料)

リーグスポンサー NBAは長く Coca-Cola(Sprite 含む)と契約していたが、2015年から PepsiCo に切り替え
個人スポンサー レブロン・ジェームズは Sprite の長年の広告塔
衝突 リーグスポンサーが PepsiCo に変わったことで、Sprite(コカコーラ)はリーグの場では露出できなくなった
結果 レブロンは Sprite広告は続行していたが、NBAのイベントや公式媒体では Pepsi 系が前面に出ることになった

 

NBAは「リーグスポンサー優先」のルールを持っており、アリーナや公式イベントでは競合ブランド露出を制限する。一方で、個人スポンサー契約は選手の大きな収入源なので完全に排除はできず、結果的に「試合中はリーグスポンサー」「オフコートでは個人スポンサー」という棲み分けが多いのも事実としてお伝えしておこう。

 

最後に

少し別の話になるが、トレイ・ヤング(アトランタ・ホークス)が2024年9月にアディダスとの契約を終え、同年11月にジョーダンブランドの一員になった。ちょうど1年前の出来事であるが、この2ヶ月の間、トレイは「契約前」にも関わらずジョーダンのシューズを着用していたことが非常に話題となった。「正式発表前に匂わせ!?」「次はジョーダンなの!?」「adidasは本当に契約終了になってしまったのね……」などなど。

一方で、ヤングの動きは決して違反ではない。契約移行期間に柔軟性を持たせることが非常に多いNBAは、現時点の契約が完全に切れる前に、次のブランドと契約済みであるならテストやプロモーションの一環として新ブランドのシューズを履くことが許可されていることが多い。裏側の事情を知らないと驚いてしまう内容ではあるが、一見グレーゾーンに見えてクリアな場合もある。