
全世界200以上の国と地域で、60以上の言語に対応する形で放送されている世界最高峰のプロバスケットボールリーグ「NBA」。日本国内におけるNBAの視聴は、2019年から楽天が提供する動画配信プラットフォーム「NBA Rakuten」が担ってきたが、2024-25シーズンをもって終了した。
2025-26シーズン以降、どこでNBAを観戦できるかが話題になってきたが、結論「Amazon Prime Video」にて視聴できることが確定。11年間のメディア権利契約を締結(総額約1,900億ドル(=約28兆円))したこともメディアで取り上げられた。
Amazonが28兆円も払って、なぜ放映権を取りに行ったのか。また、そもそも”億”や”兆”という巨額を支払ってでもスポンサーするメリットはどのようなものか。今回は、NBAのスポンサーメリットについて紹介する。
2025-26シーズンから変わる視聴方法(放映権)
まず、来季以降のNBAの視聴方法について簡単に紹介したい。
簡単いえばAmazon Prime Video(以下アマプラ)で視聴できるわけだが、どこまで試合を見たいかによって加入すべきプランは大きく異なる。ライトなファンはAmazonプライム会員になるだけで、Amazon側が指定した試合にはなるが視聴ができる。ただ、自分が好きなチームの試合や自由度高く全ての試合を視聴したい場合はリーグパスへの加入が必要だ。
以下、料金と視聴方法を一覧にしてまとめる。
▼視聴可能なチャンネル、それぞれの特徴について
チャンネル | 料金 | 特徴 | 日本語実況 |
NBA on Prime | Prime会員は追加料金なし | Amazonが指定する毎週土曜の注目試合、プレーオフの一部試合など | あり |
NBA docomo | 「ドコモMAX」契約者は追加料金なし。ahamoは月額980円、その他は月額2,480円 | 毎週10〜15試合(日本語実況・解説付き)、オールスター、プレーオフなど | あり |
NBA League Pass(NBA公式)(※) | 月額1,700〜4,190円 | プランによるが基本的には全試合視聴可能 | 一部試合のみ |
▼(※)リーグパスの料金について
プラン | 料金 | 特徴 |
リーグパス | 3,190円(年間19,190円) | 1端末のみ。レギュラーシーズン全試合、プレーオフ全試合を視聴可能。日本語実況あり。 |
リーグパス プレミアム | 4,190円(年間25,190円) | 最大3端末で視聴可能。CMなしでアリーナからの配信、オフライン視聴などの特典あり。 |
チームパス | 2,890円(年間17,390円) | 1端末のみ。特定の1チームの全試合を視聴可能。日本語実況あり |
🏀NBA League Passが
Prime Videoのサブスクリプションに新登場📢Prime Videoの『NBA League Pass』で、
NBA 2025-2026シーズン全試合を楽しもう!Prime Videoの『NBA League Pass』:https://t.co/shU1QQeaoR
※現在視聴可能なコンテンツはございません#プライムビデオでNBA… pic.twitter.com/Gvh73x8ryy— Prime Video Sport JP(プライムビデオスポーツ) (@pvsportjp) September 5, 2025
Amazonが28兆円を払ってまでNBAの放映権を獲得した理由
そもそも現時点で「Amazon Prime Video」において、Amazonプライム会員のみで視聴できるスポーツチャンネルはない。「J SPORTSチャンネル」や「SPOTVチャンネル」などが存在しているが、それぞれプライム会員とは別で、それぞれのチャンネルに対する月額利用料を支払うことで観戦ができる。よって、NBAは「プライム会員だけで視聴できる」、Amazon唯一のサービスになった。この契約はAmazonとしては非常に珍しいケースであり、リリースには出ていなかったが実質”初”とも言えるだろう。
戦略的意図 | 内容 |
プライム会員の獲得と維持 | 昨今のバスケブームに伴い、NBAの世界中の熱狂的なファンを囲い込むことでプライム会員の増加が期待されている |
広告収入の増加 | NBAは世界中のマーケットで人気コンテンツのため、広告価値を高める要素になることが予想。広告主にとっては魅力的なプラットフォームになる |
国際市場におけるブランド強化 | Amazonも200以上の国と地域でサービス提供が行われているが、今後さらに一人当たりのユーザー満足度を高めていくため |
これら多角的な戦略を持って、Amazonは「宅配サービス」だけではなくデジタルメディア市場での競争力を一層強化していく方針である。ちなみに、Amazon経由でNBAリーグパスに加入するとAmazonはリーグパスの利用料の一部が手数料として入る仕組みになっている。実際のパーセンテージは公開されていないが、これによって中長期的にユーザーを囲い込み投資を回収、さらには利益化を目指している。
\⋱ NBA docomo 料金形態・配信試合発表 ⋰/
NBA docomoでは、レイカーズ・サンダー・ウォリアーズ・ブルズなどの人気チームの試合を中心に配信し、その他の試合はお客様の投票によって配信試合を決定させていただきます。
また、サービスの開始を記念して、NBA… pic.twitter.com/dNLr5betg3
— NBA Japan (@NBAJPN) September 8, 2025
リーグスポンサーの条件・メリット
今回の契約によって、AmazonはNBAというリーグのメディアパートナーになったが、前途の通り11年で約28兆円という超大型契約があってこそ、この地位を獲得できた。NBAの場合は放映権料が一番高いが、一方で「10万円から」のような小口スポンサーが存在していないことも事実である。
そもそも、NBAのスポンサー契約において一番低い金額としてしばしば例に挙げられるのが「チーム」の「ジャージパッチスポンサー」であるが、最も小さい金額でも単年で約500万ドル(=約7.5億円)とされているため「億」を用意できなければリーグだけではなく「チーム」にも企業としてスポンサードできない可能性が高い。
以下、アメリカが誇る世界最大級の経済メディア「ウォール・ストリート・ジャーナル」が出している、NBAの一部の主要リーグスポンサーと契約内容(※)について紹介する。
Nike | ユニフォーム・アパレル供給 | 約1億ドル(=約180億円)/年 | 12年(2025 - 2037) |
Amazon Prime Video | NBAゲームの配信 | 約190億ドル(=約2,850億円)/年 | 11年(2025 - 2036) |
ESPN/ABC(Disney) | NBAゲームの放送(米国) | 約260億ドル(=約3,900億円)/年 | 11年(2025 - 2036) |
The NBA said it has signed landmark media-rights deals worth $77 billion with Disney, Amazon and Comcast, turning away a last-minute bid from current rights holder Warner Bros. Discovery https://t.co/iJL1M0K4nh https://t.co/iJL1M0K4nh
— The Wall Street Journal (@WSJ) July 24, 2024
(※)https://www.wsj.com/business/media/nba-unveils-77-billion-tv-and-streaming-deals-with-nbc-espn-and-amazon-0a2b81b9?
これらの企業が「億」を支払ってでもスポンサードする理由は単純で、世界200を超える国と地域で放送されるNBAの試合でロゴや広告が露出され世界中で告知できること、またNBAと契約していると言うブランドイメージの向上、さらには独占コンテンツや共同キャンペーンの実施などが行えるからである。NIKEが「NBA全チームロゴ入りスニーカー」を販売できるのも、リーグスポンサーだからである。
表には記載していないが、アメリカ大手3大キャリア(携帯電話)の「T-Mobile」や、アメリカ国内の個人向け保険でシェアトップクラスの「State Farm」などは、アメリカ国内では認知度が高いが世界のマーケットを取りに行くために世界に名前を売っていきたいところ。そのためまずは世界中の人に「名前を知ってもらう」ことを投資と考えてNBAを活用していると言っても過言ではない。残念ながらこの2社はまだ日本でのサービス展開はないものの、仮に日本参入を決めた時に「あぁNBAのスポンサーの!」となれば、「知らないアメリカの会社」から「信頼できるアメリカの会社」になるというわけだ。
The complete draft board for the Second Round of the 2025 #NBADraft presented by State Farm!
Who's your favorite pick? 🤔 pic.twitter.com/Ld12VfWUUL
— NBA (@NBA) June 27, 2025
NBA DRAFTは「presented by State Farm」である
チームスポンサーの条件・メリット
大前提であるが、リーグはチームなくして成立しない。ファンはチームにつくものであり、ファンの存在があってこそアリーナが満員になり、満員の1人ひとりがアリーナの広告を見て興味を持ったり企業を知ったりする。よって、リーグにスポンサードをしたい企業はある種リーグと同じ目線で「NBAをどう活用してどう広げていくか」を考える存在だが、一方の「チーム」は「自分たちをどう好きになってもらうか」「どうしたら地域のアイコンになれるか」と考え、その活動に対して企業は「一緒に地域を盛り上げましょう」といった具合でスポンサーになることがベースとしての考え方である。よって、リーグに比べるとチームの方がスポンサーにはなりやすい。
まず、各チームのメインスポンサーについて、以下一覧としてまとめて紹介する。
EAST
チーム名 | メインスポンサー | 事業内容・業種 |
ボストン・セルティックス | Vistaprint | オンライン印刷サービス |
ブルックリン・ネッツ | Webull | オンライン証券取引サービス |
フィラデルフィア・セブンティシクサーズ | Crypto.com | 仮想通貨取引所 |
トロント・ラプターズ | Sun Life | 保険・金融サービス |
シカゴ・ブルズ | Motorola | 通信機器・電子機器 |
クリーブランド・キャバリアーズ | Cleveland-Cliffs | 鉄鋼・鉱業 |
デトロイト・ピストンズ | StockX | スニーカー・ストリートウェアのオンラインマーケットプレイス |
ミルウォーキー・バックス | Motorola | 通信機器・電子機器 |
アトランタ・ホークス | Sharecare | ヘルスケア・ウェルネスプラットフォーム |
シャーロット・ホーネッツ | Feastables | スナック食品(YouTuber 「MrBeast」のブランド) |
マイアミ・ヒート | Carnival Cruise Lines | クルーズ船運営 |
オーランド・マジック | Disney | エンターテイメント・メディア |
ニューヨーク・ニックス | Experience Abu Dhabi | 観光振興・公共観光イニシアティブ |
インディアナ・ペイサーズ | Lucas Oil | 自動車関連オイル製品を製造・販売 |
ワシントン・ウィザーズ | Robinhood | オンライン証券取引・金融サービス |
WEST
チーム名 | メインスポンサー | 事業内容・業種 |
ゴールデンステート・ウォリアーズ | Rakuten | Eコマース・テクノロジー |
ロサンゼルス・レイカーズ | Bibigo | 韓国料理・食品 |
フェニックス・サンズ | PayPal | オンライン決済サービス |
サンアントニオ・スパーズ | Ledger | デジタル資産セキュリティ |
ニューオーリンズ・ペリカンズ | Spokenote | 音声メモ・AI技術 |
ポートランド・トレイルブレイザーズ | StockX | スニーカー・ストリートウェアのオンラインマーケットプレイス |
デンバー・ナゲッツ | Western Union | 国際送金サービス |
ミネソタ・ティンバーウルブズ | AURA | ウェアラブルデバイス |
オクラホマシティ・サンダー | Love’s | ガソリンスタンド・小売業 |
ユタ・ジャズ | LVT | 不動産・テクノロジー |
ヒューストン・ロケッツ | Memorial Hermann Health System | メディカル・ヘルスケア機関 |
メンフィス・グリズリーズ | Robinhood | オンライン証券取引・金融サービス |
サクラメント・キングス | Dialpad | クラウド通信・コラボレーションツール |
ダラス・マーベリックス | Chime | フィンテック・オンライン銀行サービス |
ロサンゼルス・クリッパーず | - | - |
ロサンゼルス・クリッパーズは2022年まで「Honey(ECサービス」がメインスポンサーだったが23年に契約終了。新メインスポンサーを探している
Brands scored big with @NBA jersey patches in 2024! 🏀
🥇 @Rakuten
🥈 @BibigoUSA
🥉 @Chime pic.twitter.com/LnATIrl4aE— Blinkfire Analytics (@BlinkfireStats) January 9, 2025
NBAのスケールになると、チームのメインスポンサーは基本的には大企業がほとんどである。オーランド・マジックの「ディズニー」や、ゴールデンステイト・ウォリアーズの「楽天」、フェニックス・サンズの「PayPal」などは、多くの人が知っているであろう。
ただ、これはあくまでメインスポンサーの話。小口スポンサーの話をすると、例えばゴールデンステイト・ウォリアーズはPhotoshopやillustratorを開発している「adobe」と小口スポンサーの契約をしているが、Adobeとは「Peaceful Warriors Summit」として、地元サンフランシスコの小学校と連携し、学生にAdobeツールを使った表現の機会を提供したり、ホームアリーナのチェイス・センター内に掲示されるアートシリーズを地元アーティストと共同制作したり、ウォリアーズのクリエイティブ制作を受けていたりと、「サービス+幾らかの金額」で契約しているケースもある。
The Warriors & @FestusEzeli recently joined elementary school students in the Bay for a Peaceful Warriors Summit.
The program aimed to inspire, empower and equip young people with the tools to thrive in social circumstances through creativity.@Adobe || 🙂 pic.twitter.com/pgcyqNmkQ1
— Golden State Warriors (@warriors) March 17, 2023
チームのスポンサーになることのメリットは、このような地域活動にスター選手を連れて行けること。Adobeの社員さんが学生にAdobeツールを教える機会も素晴らしいが、例えばカリーが子どもたちと一緒にAdobeツールを使って絵を描く機会があるならば、これ以上ない地域貢献になるだろう。帰って子どもが親に「ウォリアーズの◯◯選手と一緒に絵を描いたの!illustratorってアプリを使ったんだけど、楽しかったから使いたい!」と言えば、Adobeとしても最高の着地である。
このように、地域における存在感を出せることや、チーム主催のイベントに参加できることをはじめ、会場ではVIP席から観戦でき、選手との交流イベント、お客さんへの特典提供ができることなど、さまざまなメリットが用意されている。
▼想定できるNBAのチームにおけるスポンサーメリット一覧
広告露出 | ユニフォーム胸ロゴ・アリーナ命名権・放送・SNS |
プロモーション | イベント参加、商品コラボ、キャンペーン展開 |
デジタル | 公式サイト・SNS・動画コンテンツへの露出 |
顧客体験 | VIP席、選手交流、特典提供 |
ブランド価値 | NBAブランドとの連携による信頼性向上 |
長期戦略 | 複数年契約による継続的なマーケティング効果 |
まとめ
リーグスポンサーは億を超える金額を支払える大企業でないと到底NBAと契約することはできないが、チームスポンサーであれば、企画次第で"億"を出さずともスポンサーになれる可能性はある。もちろんチームでもメインスポンサーを狙うなら億は絶対必要である。
今後はチームの地道な地域活動が、どの企業のスポンサードによって行われているのかを注目するのも面白いかもしれない。
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