
写真左:渡嘉敷来夢 提供・写真:西村尚己/アフロスポーツ / 写真右:町田瑠唯 提供・写真:YUTAKA/アフロスポーツ
バスケットボールというプロスポーツは、卓球やバドミントンのように男女MIXで競技が行われることがない。男子は男子、女子は女子という区分けにてそれぞれリーグが存在する。男子は昨今Bリーグの盛り上がりにて存在感を放っているが、女子はわかりやすいところで言えば東京五輪で銀メダルを獲得したという大きな功績がある。金メダルをかけた決勝でアメリカに敗れてしまったものの、日本のバスケ界にとって非常に大きなインパクトとなった。この実績を買われたトム・ホーバス氏は、東京五輪の後に男子日本代表のヘッドコーチにアサインされるなど代表の人事にも影響を及ぼした。また、東京五輪を機にWNBAに選手を輩出することにもなった。
今回の記事では、日本の女子バスケにスポットを当てて紹介していく。日本の女子バスケのプロといえば「Wリーグ(ダブリューリーグ)」があるが、男子同様にWリーグにも歴史がある。その変遷を含め見ていこう。
そもそもWリーグとは?どんなチームがある?
▼大前提となる情報まとめ
リーグ名 | 大樹生命Wリーグ |
カンファレンス | W PREMIER(8チーム)/ W FUTURE(7チーム)の2部制 |
シーズン | レギュラーシーズンは10月〜翌3月中旬頃まで。以降、4月までチャンピオンシップ |
カップ戦 | ユナイテッドカップ(プレシーズンのようなもの)、オールスター、天皇杯 |
まずWリーグとは、2024-2025シーズンから「大樹生命保険株式会社」がタイトルパートナーとして決定したため「大樹生命Wリーグ」になった。大樹生命は「女性が長期的なビジョンを持ってキャリア形成をし、個性と能力が十分に発揮できる職場環境整備を目的とした女性活躍推進に献身的に取り組む」という企業理念があり、Wリーグのビジョンと重なったことから手を取り合ったという。大樹生命自体は2022年からWリーグのスポンサーの一社ではあったが、2024-25シーズンからタイトルパートナーへと格上げを果たす結果となった。
また時を同じくして、Wリーグは長年企業チーム主体の1部制だったものを2部制に変更。「W PREMIER」と「W FUTURE」という2つに分けたが、簡単に言えば「PREMIER」がBリーグでいう「B1」で「FUTURE」が「B2」と捉えて問題ない。2部制への変更はBリーグのB.革新に似た考え方で、競技レベルに加えて経営基盤の両面でどちらに配置するかが判断されている。競技レベルの均衡、各チームの経営の安定、育成環境の整備を目的に2部制は導入されているが、昇格・降格はある。2024-25シーズンにて、長年トップチームとして活躍をしてきた日立ハイテク クーガーズが、2025-26シーズンをW FUTUREに降格したことは今もなお記憶に新しい。
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次章で歴史について語っていくが、基本的にWリーグは大企業が母体となっているチームがほとんどであるものの、W PREMIERの選手においてはそのほとんどがプロ契約である。余談だが「フルタイムプロ契約」と称されることもしばしばある。
Wリーグのレギュラーシーズンは10月から3月。その間に天皇杯やオールスターなどのカップ戦がある。チャンピオンシップが3月下旬から4月にかけて行われ、そこで頂点を決めるというフォーマットだ。ここで、改めて2025-26シーズンのWリーグに所属するチームについて一覧で紹介する。
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W PREMIER
創設年(参入年) | チーム名 | 親会社・運営法人名 |
1985(1997) | 富士通レッドウェーブ | 富士通株式会社 |
1975(1997) | デンソー アイリス | デンソー株式会社 |
1980(1997) | シャンソン化粧品シャンソンVマジック | シャンソン化粧品株式会社 |
1969(1997) | ENEOSサンフラワーズ | ENEOS株式会社(旧JOMO) |
1963(1997) | トヨタ自動車アンテロープス | トヨタ自動車株式会社 |
1966(1997) | トヨタ紡織サンシャインラビッツ | トヨタ紡織株式会社 |
1981(1997) | アイシン ウイングス | アイシン株式会社 |
1971(2000) | 東京羽田ヴィッキーズ | 東京羽田ヴィッキーズ株式会社 |
W FUTURE
創設年(参入年) | チーム名 | 親会社・運営法人名 |
1988(1997) | 日立ハイテク クーガーズ | 日立ハイテクノロジーズ株式会社 |
1978(1997) | 三菱電機 コアラーズ | 三菱電機株式会社 |
1968(2007) | 山梨クィーンビーズ | 山梨クィーンビーズ株式会社 |
2000(2000) | 新潟アルビレックスBBラビッツ | 新潟アルビレックス株式会社 |
2012(2021) | プレステージ・インターナショナル アランマーレ | プレステージインターナショナル株式会社 |
2010(2022) | 姫路イーグレッツ | 姫路イーグレッツ株式会社 |
1955(2025) | SMBC TOKYO SOLUA | 三井住友銀行 |
日本女子バスケの歴史は?
簡単に女子バスケの歴史をサマリーしよう。この表を見ながら話を進めたい。
年 | 出来事 |
1950年〜 | 男子同様に、戦後の復興として企業の部活動として競技スタート |
1997年〜 | Wリーグがスタート。初年度は実業団9チームが参加 |
2010年〜 | 企業社員兼選手の形態から完全プロ契約へ。そして2021年東京五輪で銀メダル獲得 |
2024年〜 | 2部制「W PREMIER/W FUTURE」導入。大樹生命がタイトルパートナーに決定 |
競技がスタートした経緯はほぼ男子と同じのためここでは割愛するが、この戦後復興期から現在までチームとして継続しているのは、日立、富士通、デンソー、シャンソン、エネオスなど。企業チーム主体のリーグであるため、現在も当然ながら企業チームがほとんどである。一方でクラブチームもある。Bリーグにも所属している新潟アルビレックスや山梨クィーンビーズ、姫路イーグレッツなどがそうだ。Wリーグはこの企業チームとクラブチームで創設年が大きく異なり、企業チームのほとんどは1950〜60年頃の古くからある。クラブチームは2000年になってからできたところがほとんどだ。
これも男子同様であるが、Wリーグは当然プロリーグとしてスタートしたものの実態は実業団チームしかなかったため「プロ」としての地域貢献活動やプロ意識のようなものは弱く、あくまで企業チームとして成立していたという。
とはいえ女子は男子と違い一念発起して別のプロリーグが新たに立ち上がることはなかったため、着実に右肩上がりに伸びていった。当初は企業社員兼選手のデュアルキャリアが基本であったが、徐々にプロ契約の選手が増えていき、現在はほとんどの選手がプロ契約となっていった。そのためか、日本のバスケでは歴史に残る偉業として、東京五輪の銀メダル獲得を達成することができた。
🏀#バスケットボール 女子日本代表 🏀
🥈🇯🇵銀メダル獲得🇯🇵🥈日本バスケ史上初のメダル獲得!!
日本一丸となって戦う全員バスケで世界を驚かせた#AkatsukiFive!
本当にお疲れ様でした!試合結果
アメリカ🇺🇸 90-75 🇯🇵日本#Tokyo2020 pic.twitter.com/4gTlSbc1P4— バスケットボール日本代表 (@JAPAN_JBA) August 8, 2021
2016年に男子のBリーグが発足して以来、良くも悪くも世間は男子バスケにフォーカスしていたが、この銀メダル獲得によって風向きが変わり、メディア露出や来場者数も一気に増えた。東京五輪の盛り上がりを受け、また長年の「企業スポーツ」からの脱却を目的に、ついに2024-25シーズンからトップレベルの競技力向上と地域・育成型クラブの両立を目指して2部制を導入することとなった。同時に、より女子バスケのプロとしての価値を上げるべくBリーグと連携して日本バスケを盛り上げるための活動をする計画が練られている段階だ。
ただし、まだまだ男子に比べると入場者数は多くないし決して年俸も高くない。Wリーグはあくまで「プロ契約の社員」でもあるため年俸は公表されていないが、過去の情報を見ている限りではトップ選手は1,000万円を超えている場合もある。また多くは数百万円ほどの年収であると推察される。ちなみに女子バスケの最高峰であるWNBAでも平均年俸は1,500万円前後というデータがある。
年俸の話をするとどうしても見劣りしてしまうが、Wリーグの場合は企業チームだからこそのメリットが多い。「フルタイムのプロ契約」であるが故に、企業の福利厚生も使える。具体的に言えば、チームは産休・育休制度を認めており積極的に競技復帰できるようなサポートプログラムを構築している。チームによってサポートが異なる場合もあるが、産休中にも契約延長を決めたり給与保証をしたりと、選手ファーストを貫いている。このように、企業チームという形を継続しているからこそできるメリットも非常に多く、女性アスリートが長く活躍できるようにリーグも日々成長を続けている。
優勝回数 | チーム名 |
17回 | ENEOSサンフラワーズ |
3回 | シャンソン化粧品 シャンソンVマジック |
3回 | 富士通レッドウェーブ(2023,2024シーズンで2連覇中) |
2回 | トヨタ自動車アンテロープ |
女子バスケの最高峰「WNBA」に行った選手はいる?
先ほど少し話をしたが、女子バスケの最高峰である「WNBA」で活躍した選手もいる。Bリーグでは「NBAチームと契約した!」というだけで大きなニュースになるが、女子はすでに何人も排出をしている。以下、WNBAにいった選手のまとめである。
年 | 選手名 | 所属チーム | 参加経路/開幕後 |
1997 | 萩原美樹子 | シアトル・ストーム | ドラフト/ロスター入り |
1999 | 高田真希 | フェニックス・マーキュリー | キャンプ参加/ロスター外 |
2000 | 吉田亜沙美 | ワシントン・ミスティクス | キャンプ参加/ロスター外 |
2008 | 大神雄子 | フェニックス・マーキュリー | トライアウト/開幕ロスター入り |
2015 | 渡嘉敷来夢 | シアトル・ストーム | ドラフト/ロスター入り |
2022 | 町田瑠唯 | ワシントン・ミスティクス | トライアウト/ロスター入り |
2025 | 山本麻衣 | ダラス・ウィングス | キャンプ参加/ロスター外 |
高田、吉田、山本の3人は公式戦出場がないため、公式戦出場選手としては以下4名である。
年 | 名前 | 所属チーム | |
1人目 | 1997年 | 萩原美樹子 | シアトル・ストーム |
2人目 | 2008年 | 大神雄子 | フェニックス・マーキュリー |
3人目 | 2015年 | 渡嘉敷来夢 | シアトル・ストーム |
4人目 | 2022年 | 町田瑠唯 | ワシントン・ミスティクス |
渡嘉敷来夢 提供・写真:西村尚己/アフロスポーツ
町田瑠唯 提供・写真:西村尚己/アフロスポーツ
1997年はWNBAが創設された年であり、その初年度にドラフト指名を受け萩原はシアトル・ストームに加入した。ちなみに現在は東京羽田ヴィッキーズのヘッドコーチである。選手時代、アメリカに行く前は現在の日立ハイテククーガーズでエースとして活躍していた。ちなみに、男子は田臥勇太が2004年にNBA入りしているため、その7年前に女子はすでにWNBAという狭き門を開いていたこととなる。
萩原以降、高田、吉田、また2025年3月に挑戦した山本を含む3名はキャンプには参加するものの契約には至らず。2人目のWNBA選手は、日本人として初めて開幕ロースターにも登録された大神雄子。大神はトライアウトからフェニックス入団が決まったため、自ら実力を証明して契約を勝ち取った数少ないタイプである。強気な姿勢と得点能力の高さを武器にアメリカでも活躍をしたが2008年の1シーズンを過ごしたのちに解雇。2009年には再びトライアウトに参加するものの、怪我の影響でWNBAが開幕する前に帰国することとなった。2018年まで現役生活を送り、現在はトヨタ自動車アンテロープスにてヘッドコーチとして活躍している。
3人目のWNBA選手は渡嘉敷。189cmという恵まれた体格の持ち主の走れるビッグマンは学生時代から他を圧倒してきたため、世界の目に留まるのはなんら不思議なことではなかった。渡嘉敷はシアトル・ストームの中でも中心選手として活躍したものの、Wリーグや代表活動を優先するために帰国した。
最後に町田について。163cmのポイントガードである町田は、2021年の東京五輪で日本を銀メダルに導いた立役者である。東京五輪の準決勝・フランス戦では18アシストというオリンピック新記録を樹立し大会全体で75アシストを記録したことで、大会のアシスト王にも輝いた。そんな実績をWNBAが見逃すはずもない。国際大会で163cmのガードが活躍できたのだから、WNBAでも活躍できると見込んだのだ。そして、オリンピック終了後にワシントン・ミスティックスと契約を結び日本人4人目のWNBA選手になったのだ。ただ、町田も渡嘉敷同様に国内リーグや代表活動を優先する目的で1年で帰国することとなる。
日本人女子選手ではまだ、2年以上WNBAに在籍した選手は現時点でいない。ただ、銀メダルを取った時点で世界から日本バスケが注目されていることは間違いない。次回の女子バスケに係る記事は、日本の女子バスケの現在地について。
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