シニア世代からの卓球入門 第1回:卓球のおもしろさと連載のねらい

卓球,長渕晃二

(1)   シニアにとってなぜ卓球が良いのか

戦後に子ども時代を過ごした高齢者は多くいます。「卓球をやったことはありますか?」と尋ねると「学校とかでやったねえ」と答える人は多く、当時は気軽にできる身近なスポーツだったことがわかります。

中には「空襲があった頃は体育館でしか体育できなかったから、卓球はよくやったよ」という人や、「昔の日本は強くて世界チャンピオンもいたよねえ」など、昔話に花が咲くことも。

卓球が高齢者にとって参加しやすいスポーツである理由はたいへん多くあります。

・少人数でできる。(マシンやVRは1人でも可能)

・あまり場所を取らない。

・あまり費用がかからない。

・天候に左右されない。

・ケガが少ない。

・少ない動きでもできる。

・各自に応じたラケット・ラバーがある。

・年齢性別を問わずできる。

・高齢者にもやりやすいラージボール卓球がある。

・バレーやホッケーに近い卓球バレーや卓球ホッケーもある(通常は座って行う)。

・リハビリや介護予防に取り入れられることがある。

・速いスピードで、考えながらの眼・耳・全身の運動なので、脳血流が1.5倍になる。

高齢者人口の増加もあいまって、各地の公共施設や卓球場、あるいは医療機関・福祉施設で、高齢者の卓球は広がりを見せています。

ところが、高齢者の卓球を指導する人の中には、高齢者のさまざまな特性を知らずに、若い人に教えるようなフットワークやフォームなどを指導してしまうことがあります。

ご高齢の指導者であっても、高齢者の特性や疾患を踏まえていないことがあります。

一方で、高齢者本人も自分の状況をつかみきれていないことがあります。特に、今後どのように体力が衰えていくかを想像できない人は多いでしょう。

指導者も高齢者も、高齢者による卓球のやり方や知識を知り、無理なくケガなく、長く楽しめる卓球を通じ、「健康づくり、生きがいづくり、まちづくり」が広がると良いと思います。

そして、さらにはもし要介護になっても、卓球を通じたリハビリ(卓球療法)につながっていくと良いでしょう。

(2)   私自身のこれまでの関わり

自分の卓球を振り返ってみると、不思議なことに高齢者の卓球に関わるための体験が多くありました。

中学時代は指導者不在の卓球部でしたので、「指導者がいない中での卓球の問題点」は実体験できました。

高校では山登りをしていましたが、脊椎分離症となり、その後もずっと腰痛持ちで杖を持っていたため、「高齢者の腰の具合」などが想像できます。

短大教員となった33歳の時に、卓球部には経験ある顧問がいなかったために、18年間ぶりに卓球に関わりましたが、「ブランクがあると戻るまでにどれほどたいへんか」が実感できました。

その後、地元の公共施設で高齢者が中心の卓球サークルを作り、さらに卓球台のあるデイサービスの開設に携わりました。(埼玉県飯能市)

その頃はまだ卓球療法という言葉や実践をあまり知らず、高齢者の卓球のノウハウも少ししか知りませんでした。

リハビリ系の専門学校教員となった38歳の時に、再び卓球の顧問をし、しかしレギュラーの学生たちの方がうまかったため、男女の指導者に来てもらい、そこでようやく基本的なことがわかってきました。

自分の腰痛に適したハンドソウラケット(握りやすく、リーチが長い)に変え、異質系のラバー(相手の力を利用しやすい)も使うようになりました。

顧問だった3年間は専門学校全国大会に出場させることができ、一方で学生を障害児や要介護かたの卓球に連れていったりもしました。

その後は再び卓球台のあるデイサービスづくりをし(東村山)、大分や岐阜の卓球療法の見学を行い、とある本の一部分にて卓球療法の執筆・紹介も試みました。

また、当時小学生の次男がクラブチーム(TTC平屋)に入り、私も子どもたちの練習相手をしたので、間近に一流の指導者の指導方法を学ぶことができました。

最近では、高齢者、パーキンソン病、精神疾患、要介護の方と卓球をし、多くの皆さまがより楽しく卓球できるようお手伝いさせていただいています。

また、各地の医療・福祉職や卓球関係者と「NPO法人日本卓球療法協会」を設立し、身体面・精神面のリハビリが必要な方や、予防のための卓球を追究しています。

これらの経験から、このような連載の必要性を感じ、書き下ろししてみたわけです。

(3)   本稿の対象・目的・内容

この連載は、「これから卓球したい、あるいはすでにやっている初心者の高齢者」、「卓球を教えている指導者やボランティア」にご覧いただきたく執筆したものです。

技術面は、一般の入門書やDVD、YouTubeもみていただくと良いと思いますが、本稿ではそういったところでは触れられていないことに絞ってまとめてみました。

つまり、本稿だけを読んで卓球がうまくなるというものではなく、一般の入門書・動画を補うものと考えていただければと思います。

本稿は比較的お元気な高齢者を対象としたものですので、リハビリが必要な方の卓球については、卓球療法についての文献をご覧いただければと思います。

なお、今後の連載の内容としては…、

「第2回 本人と周りの環境をつかむ」でメンバーの状況(課題・希望・能力・環境)のつかみ方(アセスメントの進め方)のコツや視点を紹介します。

「第3回 卓球好きになるために」では、多くの高齢者に卓球の魅力を知っていただく方法を提起しています。

「第4回 高齢者が苦手なことと改善のコツ」では、本人がなかなか自覚できていないことや、指導者が見落としがちな点について述べてみました。

「第5回 人と場を探す~卓球でまちづくり~」では、卓球できる機会、場、団体を広げ、卓球を楽しむ人たちを増やしていく方法を示しました。

初めから順番に読みすすめる構成ではなく、どこからでも読めるようにしていますので、必要な部分につきましてご参考になればと思います。

筆者プロフィール:長渕晃二(ながぶちこうじ)

長渕晃二,卓球

NPO法人日本卓球療法協会理事長。NPO法人日本ピンポンパーキンソン理事。明治学院大学大学院修了(社会福祉学修士)。短大・専門学校での教員・卓球顧問や福祉施設での卓球経験あり。現在有料老人ホーム、デイサービス、介護予防サロン、メンタルクリニックで卓球療法を行う。著書は『コミュニティワーカー実践物語』(筒井書房)、『卓球療法士テキスト』『卓球療法入門』(サイドウェイズ)ほか。