アメリカが勝てなかった世界の強豪国【NBA講座vol.13】

マイケル・ジョーダンが活躍した1990年代と言えば、まさにアメリカの”ドリームチーム”がフィーバーしていた時であろう。1989年にFIBAがNBA選手の全ての国際大会出場を認めたことで、1992年のバルセロナ五輪以降、バスケットボールという競技はほぼアメリカに金メダルを献上するも同然になってしまった。

しかし、世界最強のNBA選手を要するアメリカでも、オリンピックという大事な場面で敗れた試合がある。今回は、そんな試合をピックアップしてアメリカ以外の強い国を紹介したいと思う。

NBA解禁後のオリンピックの結果まとめ

早速だが以下の一覧を見てほしい。結論からいうと、1992年のバルセロナ五輪でNBA選手の出場が許可されて以来、アメリカが金メダルを逃したのは2004年のアテネオリンピックの1度だけ。他は全て金メダルを獲得している。

開催年・開催地 結果 決勝の相手 スコア 概要
1992 バルセロナ クロアチア 117–85 Dream Team(ジョーダン、マジックなど)圧勝
1996 アトランタ ユーゴスラビア 95–69 Dream Team II、地元開催
2000 シドニー フランス 85–75 ビンス・カーターの「人越えダンク」など話題に
2004 アテネ アルゼンチン(金) 81–89 若手中心で準決勝敗退(vs. アルゼンチン
2008 北京 スペイン 118–107 "Redeem Team"(コービー、レブロンら)で復活
2012 ロンドン スペイン 107–100 デュラント大活躍
2016 リオ セルビア 96–66 試合中は危うさもあったが最終的に圧勝
2020(2021) 東京 フランス 87–82 予選でフランスに敗れるも決勝でリベンジ(デュラント中心)
2024 パリ フランス 98–87 終盤にカリーが大爆発

この一覧を見るとアテネの1回だけ負けたように見えるが、実は東京五輪の予選でフランスに敗れるなど波乱もあった。確かに金メダルを逃したのはアテネの1回だけであるが、そもそも全ての試合が余裕で勝ったわけではない。年々世界のレベルも上がっているのだ。
今回は敗れた試合も紹介しつつ「負けそうだった」試合についても見ていこう。

2004年:アテネオリンピック / vsアルゼンチン 81 - 89

まず、2004年のNBAの状況について洗いたい。まずこの年はデトロイト・ピストンズがロサンゼルス・レイカーズを相手に4勝1敗で優勝した年である。優勝したピストンズのヘッドコーチであるラリー・ブラウンが代表のヘッドコーチを務めることになったが、ピストンズはあくまで総合力で勝ったチームであり、代表クラスの選手は1人もいなかった。

そして一方で、スーパースターたちについては様々な理由をつけて代表を休むことを明言していた。レイカーズの支配的センターのシャキール・オニールは「休みたい」と言って代表に参加せず、コービーはシーズン中に起こしてしまったスキャンダルで法廷問題で活動を断念。世代No.1のオールラウンダーと言われたケビン・ガーネットも「俺は代表はもう引退する」と公言していたなど、様々な理由で代表活動に参加していなかった。誤解を恐れずに言えば「自分たちが出なくても金メダルを取れるだろう」というエゴもあった。

当時ルーキーだったレブロン・ジェームズを筆頭に、2003年にドラフト入りしたばかりのカーメロ・アンソニーやドウェイン・ウェイドなど、20歳前後のメンバーが主力となって戦うしかなく、代表経験も国際試合経験も乏しいメンバーでどう戦っていくか、ラリー・ブラウンの手腕にかかっているような状態だった。メンバーでいうと小さな巨人:アレン・アイバーソンやティム・ダンカンくらいしか、NBAを代表するスーパースターはおらず、他は中堅メンバーだった。

蓋を開けてみれば、グループ予選のプエルトリコでは73-92という歴史的大敗をし、準決勝のアルゼンチンではサンアントニオ・スパーズでブレイクしかけていたユーロステップの生みの親であるマヌ・ジノビリが覚醒した。マヌの貢献で、81-89でアメリカは準決勝敗退。なんとか3位決定戦のリトアニア戦では104-96で勝利したものの、帰国後の反応は厳しく「最もアメリカを失望させた代表チーム」としてレッテルを貼られた。

一方、ジノビリを中心としたアルゼンチンの代表選手は一気に株を上げた。ジノビリはそのあと、スパーズの王朝を築く上で欠かせない存在になったし、先ほどの通りユーロステップをアメリカに持ってきた張本人として、見たことのないステップにアメリカ人は全く対応できなかった。他にも、ルイス・スコラ、アンドレス・ノシオーニ、カルロス・デルフィーノなど、この時にアルゼンチン代表で金メダルを取ってNBA入りした選手は何人もいた。それほどのインパクトだったことは間違いない。

ちなみにこの次の北京2008五輪でアメリカ代表は金メダルを獲得するが、2004年の銅メダルという大失敗を繰り返さないよう、今回は3年間かけて代表チームをしっかりと育てた。「金メダルを取り戻す」「再び最強を証明する」という思いをこめて「Redeem Team(名誉挽回チーム)」と呼ばれたこのメンバーは、1992年の「Dream Team」を彷彿とさせるような強さを誇った。

2020年:東京オリンピック / vsフランス 79 - 89

2008年の「Redeem Team」以来、アメリカ代表がオリンピックで手を抜くことは全くなくなった。そもそも世界全体のバスケットの競技レベルも上がってきており、2012年も2016年も決勝はスペインだったが一桁差で接戦をものにして金メダルを取ったため、手を抜いて勝てるような相手はいなかった。
もちろん怪我などのコンディションで出場できない選手もいたが、なるべく最強の布陣を作るようにしていたアメリカだったが、NBAの国際化が進む中でついに2020年の東京五輪で再び敗戦を喫してしまう。

結果的にこの年は金メダルを獲得するが、2004年の時と同様に若手主体のメンバー構成になってしまった。理由は新型コロナウイルスの影響が大きい。また、怪我の影響で出られなかった選手も多かった。
若いスターを中心に構成されたメンバーだったが故に、フランスのベテランが揃った巧みな試合運びを崩すことができなかった。フランスのディフェンスの強度も非常に高く、何度もターンオーバーをしてしまったことも敗戦の理由として挙げられる。結果的に79点しか取れなかったアメリカは、79-89でフランスに予選で敗れた。

一方のフランスは、ベテランのニック・バトゥームやフランク・ニリキーナ、ルディ・ゴベアなどNBAでも活躍している選手に加え、代表入りしたメンバーとのコミュニケーションがとても素晴らしかった。結果的に決勝で再びアメリカと対戦するも敗れてしまい(87 - 82)銀メダルに終わってしまうが、彼らが残した爪痕は非常に大きなものであった。また一方で、3位決定戦はオーストラリアvsスロベニアだったが、スロベニアには現在ロサンゼルス・レイカーズに所属しているルカ・ドンチッチが代表に入っており、ドンチッチがスロベニアを導いていた。彼は当時21歳。これからとんでもない存在になることを予感させるプレーを見せたが、結果的にはオーストラリアが銅メダルを獲得。このオーストラリアからも、NBA選手が大量に輩出されるキッカケとなった。

【番外編】負けそうだった試合

NBA選手が解禁されたからというもの、2004年の準決勝敗退はメダルに直結したため未だに大きな「負け」という印象が世間的に残っているが、2020年は予選で敗れたものの金メダルは獲得したことでそこまで印象には残っていない。

この2020年のように「印象には残っていないがアメリカが苦しんだ試合」をいくつか紹介して締めくくろうと思う。世界のレベルは、どんどん上がっているのだ。

2008年北京五輪決勝:アメリカvsスペイン

最終スコアは118-107でアメリカの優勝で終わったが、この試合は残り2分ほどまで全くわからない展開だった。4点差以内のシーソーゲームであり、アメリカはスペインのガソル兄弟(2人とも220cm近いビッグマン)のツインタワーを全く止められなかった。また、当時ブレイクしていたファン・カルロス・ナバーロの活躍もあり、完璧な連携と個人能力の高さで最後までアメリカを苦しめた。

ただ、残り3:10のタイミングで、アメリカはコービーがスリーポイントを決めると同時にファウルをもらって4点プレーを完成。この後もドウェイン・ウェイドがスリーポイントを決め、レブロンが要所でしっかりとリバウンドを取るなどして粘るスペインを振り切った。

2016年リオ五輪予選:アメリカvsセルビア

最終スコアは94-91。最後、ボクダン・ボクダノビッチが放ったスリーポイントがもし入っていれば延長戦に突入するようなシチュエーションだった。特にこの試合は第1Qでアメリカが大爆発して27-15と、いつも通りの圧勝プランかと思われたが、セルビアが本格的に反撃開始。第4Qには逆転のチャンスも巡ってきたがなかなか機会を活かすことはできなかった。最終的になんとかアメリカが逃げ切った勝利にはなったが、アメリカをあと一歩まで追い詰めたことは間違いない。

ちなみにこの時のセルビアには、現在NBAのデンバー・ナゲッツで大活躍中のニコラ・ヨキッチが所属していた。ヨキッチはこの頃から非常に支配的なセンターとしての片鱗を見せており、この大会をキッカケにNBAでも活躍し始めたと言っても過言ではない。
また一方で、アメリカ代表としては再び気を引き締めるような試合になった。この頃にはもう「TEAM USAは無敵ではない」というイメージがつくようになっていたが、これはアメリカ代表がどうとかではなく、純粋に世界のバスケットのレベルが上がっていることを表現している。それでも、直近のパリ五輪でもアメリカが金メダルを取ったことから、もうしばらくアメリカの王朝は続くかもしれない。