「社会で通用する人間を育てたい」札幌大学卓球部・藤倉監督と荻原コーチが語る指導の真意とこれから

北海道の地で、全国を目指す若者たちを支える札幌大学卓球部。

近年は選手数も増え、男女あわせて48名という全国有数の大所帯へと成長を遂げている。指導を担うのは、藤倉健太監督と、2023年から女子を担当する荻原直子コーチだ。

今回は、指導への思いから、チームマネジメント、そして札幌大学卓球部ならではの魅力について話を聞いた。

「草の根出身」の監督が語る、学生ファーストの指導方針

――藤倉監督の卓球歴と、札幌大学との関わりについて教えてください。
藤倉健太さん:学生時代は国公立大学でプレーしていて、いわゆる草の根プレイヤーでした。

2007年にご縁があって札幌大学に職員として就職し、最初はOBチームに所属しながら選手として活動していました。

本格的に指導に関わるようになったのは2017年。

女子部が休部状態だったのを復活させるタイミングで、「学生のために」という思いで指導者の道に進みました。

――当初はどのように指導されていたのでしょうか?
藤倉健太さん:最初は「大学生だから細かく言われたくないだろう」と思って見守るスタイルでした。

でも、あるとき上級生から「もっと指導してほしい」と言われて気づかされたんです。

「熱量は求められているんだ」と。

それ以降はワンポイントでの声かけや動画を使ったアドバイスなど、積極的に関わるようになりました。

写真:学生に指導をする藤倉監督/撮影:ラリーズ編集部
写真:学生に指導をする藤倉監督/撮影:ラリーズ編集部

――監督としてはどういうスタンスを意識されていますか?
藤倉健太さん:うちは学生ファーストが基本です。学生も一人の大人として、フラットな関係性を意識しています。

戦術や技術よりも、人間性に重きを置いて話すことが多いです。

卓球はあくまで手段。社会で通用する人になってもらうことをゴールにしています。

――チーム運営の特徴を教えてください。
藤倉健太さん:男女あわせて48人が一堂に会して練習しているのはうちの大きな特徴です。

体育館のキャパや台数の確保もあってこそですが、レベル関係なく全員で切磋琢磨する文化を大事にしています。

個々の目標は違っても、皆が自分のベストを尽くして「やりきった」と思える環境をつくりたいですね。

写真:練習風景 札幌大学では男女が一緒に練習をする/撮影:ラリーズ編集部
写真:練習風景 札幌大学では男女が一緒に練習をする/撮影:ラリーズ編集部

指導未経験からの挑戦──荻原コーチが大切にする3つの信念

続いては、選手としてインターハイ3位や日本リーグでプレーした実績を持つ、荻原コーチに話を聞いた。

写真:ベンチに入った札幌大学・藤倉監督と荻原直子(北海道アスティーダ)/撮影:ラリーズ編集部
写真:選手として全日本選手権にも出場した荻原直子コーチ ベンチには札幌大学・藤倉監督が入った/撮影:ラリーズ編集部

――荻原さんが札幌大学で指導を始めたきっかけを教えてください。
荻原直子さん:いとこのお子さんが札幌大学卓球部に所属していたご縁で、「女子のコーチを探している」と藤倉監督に声をかけていただきました。

指導は未経験で不安もありましたが、「一緒に勉強したい」という思いでお受けしました。

写真:札幌大学女子卓球部/撮影:ラリーズ編集部
写真:札幌大学女子卓球部/撮影:ラリーズ編集部

――指導で大切にしていることはどういう点ですか?
荻原直子さん:3つあります。

1つ目は「ここに来て良かった」と思ってもらえるようにすること。

2つ目は、限られた時間の中での時間管理。目の前のことに全力で取り組む力は、社会に出てからも役立つと思います。

3つ目は、自分を育ててくれた北海道への恩返し。札幌大学の学生たちに少しでも還元できるよう努めています。

――女子チームの雰囲気はどんな感じでしょうか?
荻原直子さん:一言で言うと「明るくてかわいいチーム」です(笑)。ビジュアルも性格も素直な子が多く、こちらが元気をもらっています。

まっすぐに頑張る選手ばかりなので、練習でも試合でも力になりたいという気持ちで関わっています。

写真:練習中の1コマ/撮影:ラリーズ編集部
写真:女子部の練習中の1コマ/撮影:ラリーズ編集部

――技術指導の面ではどう意識していますか?
荻原直子さん:練習中に気づいたらすぐに声をかけるようにしています。

以前は遠慮もありましたが、試合で負けて泣いている姿を見て、「普段からもっと伝えなきゃ」と反省して。それ以来、細かく伝えるようになりました。

北海道から全国へ──環境に左右されない育成スタイル

――北海道という地域で戦う難しさや魅力はありますか?
藤倉健太さん:やはり道外の試合に出づらいのがネックですが、その分、道内での連携は非常に密です。

高校とも良い関係を築いていて、練習試合なども活発に行っています。

「チーム北海道」として切磋琢磨していける文化があるのは強みです。

――荻原コーチは。場所のハンデを感じることはありますか?
荻原直子さん:自分もずっと北海道でプレーしてきましたが、結果は出せました。

卓球は場所に左右されないスポーツです。

頑張ればどこでも戦えます。むしろ「北海道でも頑張れる」ということを体現したいですね。

写真:名古屋幸希/撮影:ラリーズ編集部
写真:男子のエース名古屋幸希(札幌大学)/撮影:ラリーズ編集部

――今後に向けた取り組みは何かありますか?
藤倉健太さん:今年から2つ新たな試みを始めています。

1つは就活支援。外部企業と連携して、卓球部専用のキャリア支援プログラムをスタートさせました。

もう1つは海外留学。上海の強豪大学との交流で、1週間の短期卓球留学を企画中です。

どちらも「卓球だけじゃない幸せ」をつかむための仕組みです。

「卓球が強い」だけじゃない、“応援されるチーム”を目指して

写真:練習風景/撮影:ラリーズ編集部
写真:練習風景/撮影:ラリーズ編集部

――札幌大学卓球部の理想像はどういうものでしょうか?
藤倉健太さん:僕が目指すのは「強い」よりも「応援される」チーム。

大会で「札幌大学の選手、礼儀正しいね」「人間性が素晴らしいね」と言ってもらえるのが一番うれしいです。

一過性の成績ではなく、人として評価される選手を育てたいと思っています。

――最後に、高校生や保護者へメッセージをお願いします。
藤倉健太さん:卓球が好きで、何か達成したいことがある人に来てほしい。

卓球以外でも勉強、留学、アルバイトと幅広い選択肢があります。社会で通用する人間に育てる自信はあります。

荻原直子さん:明るく前向きなチームです。大学生活でやりたいことがまだ定まっていない人でも、ここで見つけられると思います。

スポーツで得た経験は、将来きっと役に立ちますよ。

取材・文:山下大志(ラリーズ編集長)