アイスホッケー選手に必要な素質とは【第2回】

“氷上の格闘技”と称されるアイスホッケー。

激しい身体接触がありつつ、高速で動きながらパックを奪い合うチームスポーツ・アイスホッケーには、他競技にはない能力も要求されるような気がする。

男子プロチーム・東北フリーブレイズの取締役兼監督であり、2024-2025シーズンの日本代表コーチも務めた若林クリスさんに「アイスホッケー選手に必要な素質は何か」を聞いてみた。(全3回の第2回)

写真:若林クリス/提供:東北フリーブレイズ


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アイスホッケー選手に必要な「判断力」

── アイスホッケーは、スケートはもちろん、ラクロス、アメフト、ときには格闘技のような一面もある気がします。アイスホッケー選手にとって大事な資質はなんでしょうか。

クリス:私は、判断力だと思います。

アイスホッケーは、ものすごくスピーディーな球技のチームスポーツです。

スケート靴を履いているぶん動くスピードが速い選手たちがあの速いパックを追う競技なので、瞬時に状況判断できないと難しいスポーツだと思います。

写真:アイスホッケーは選手の動きも速い/提供:東北フリーブレイズ

── 確かに、カメラで追えないくらいバックは速いですよね。

クリス:そのうえ、ぶつかり合いもあります。

ネットで仕切られたスポーツと違い、不安や危険な要素がたくさんあるなかで、それでもハイスピードな判断が必要になってきます。

私たちの体感は、F1ドライバーくらいの感覚でプレーしています。

アイスホッケー選手には「勇気」が必要

── 確かに。であればなおさら、アイスホッケー選手は判断力と同じくらい、身体的な強度も必要なんじゃないですか。

クリス:はい。強さ、スピード、パワー、身体的に求められるものも大きいですが、でも大切なのは「勇気」です。

── 勇気ですか。

クリス:例えば、日本代表で言えば、国内リーグのぶつかり合いの強度が7だとすると、世界選手権に行くと10なんです。屈強な外国人選手相手との接触プレーを避けては通れません。

国内リーグではすごく上手なのに、国際的な舞台ではちょっとした怖さもあって、自分のプレーができなくなる日本人選手も実際にいます。

── 確かに、スケート靴を履いたあの速さでぶつかるのは、トップ選手でも怖さもありますよね...。ちなみに、パックをスティックで扱う“器用さ”はどれくらい必要なんでしょうか。

クリス:逆にそれはそこまで求めていなくて、パックを捌いて繋げる選手が多いほうが理想ですが、選手の得意不得意もあるので。

もちろん一定のレベルは必要ですが、しっかり守る役割、前にパックを出し、走って相手にプレッシャーをかけて身体を当てる役割など、チームにはいろんな役割があります。

写真:5人のプレーヤーにはいろんな役割がある/提供:東北フリーブレイズ

インターバルで回復する力

── 持久力はどうなんでしょう。

クリス:必要ですが、アイスホッケーに必要な持久力にはちょっと特徴があります。

試合は、正味20分を3回繰り返すんですが、プレーヤーは20人ユニフォームを着られます。

基本的に、フォワード3人、ディフェンス2人の5人1組が4セットに分かれ、1,2,3,4と回していきます。戦術はいろいろありますが、選手には、1分弱出て2,3分休んでまた1分弱出て、というインターバル走のような体力が求められます。

陸上で例えると、見た目の身体はマラソン選手よりも、400mや800mの選手の筋肉のつき方が理想ですね。

写真:試合の様子/提供:東北フリーブレイズ

── なるほど。ずっと続けられるというより、休んですぐ回復する力が必要なんですね。チームのみなさんは普段から一緒にトレーニングや練習をしてるんですか。

クリス:はい、シーズン中はみんな八戸に住み、一緒に練習しています。シーズンオフには独身の選手は実家に帰ったりもしますが、家族と一緒に生活している選手はそのまま八戸で暮らしていますね。

個々のフィジカルの強さはもちろんですが、アイスホッケーは攻守の切り替えも非常に速く、戦術もとても多いので、その判断力とチームとしての連携にも、時間を割いて練習していますね。

写真:喜び合う選手たち/提供:東北フリーブレイズ

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