若い選手に求めたい「使い捨てられない」ための覚悟。

必要とされる自己分析能力

当然、まだ精神的にも未成熟の10代が故に、ここまで具体的に考えられる選手は多くはないが、高卒プロで成長し、成功をつかんでいった選手たちに共通するのは高校生の時から自己分析能力が高かったことにある。

語彙力や性格など、言葉の量や質には差があるが、それでも自分の長所と課題を把握し、長所を伸ばし、短所を補うためにはどうすべきかを日々の中で考える。さらに周りの人間の言葉にはきちんと耳を傾け、自分に必要なものは素直に受け入れる。

若き日の本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実らはそれに該当した。彼らだけではない、現在J1で主軸を張る選手や10年以上プロのキャリアを続けている選手も、当時から情報収集能力と処理能力が高かった。川崎フロンターレの登里享平は高校時代から自分が無名であること、ドリブルを得意としながらもそれだけではプロの世界では生きていけないことを知っていた。

あまりここで羅列をしてしまうと「結果論だ」と言われかねないので、このくらいにしておこう。

ユース年代を長く取材していて、近年感じるのは「堅実な選手が増えてきた」ということだ。プロで十分通用する実力を有した選手が、実際にオファーがある中であえて大学を選択するケースが目につくようになってきた。

例を挙げるなら室屋成、三笘薫、角田涼太朗などは高校卒業時にJクラブからの正式オファーと、トップ昇格のオファーはあったが、「将来のことを考えると、サッカーと勉強を両立できる大学に行って人間的にも成長をしたい」(角田)と、大学進学を選んだ。

1つポイントになっているのが“学歴社会”という日本の背景かもしれない。もちろん「学歴は関係ない」という風潮もあるが、やはり高卒、大卒の壁は未だに大きい。

前述したように、大学サッカーに進む1つの要素として「将来のこと、サッカーを辞めた後のことを考えて」という言葉があるのは、まさにそれを表している。いつクビを切られるか分からない高卒プロよりも、大学に進んだ方が将来の選択肢は広がる。

親側の立場からしても「いかにプロになれるか」と同等に、「いかにいい大学に行けるか」も重要な要素となる。実際にとあるJユース関係者からは「ユースに昇格させる際に、卒業後にどの大学に行けるのかという実績面を気にする親が多い」と耳にする。

確かにユースに昇格をしたとしても、昇格できる選手はごく少数。個人的にはゼロという年があってもいいと思っている。そうなると上がれなかった選手たちの選択肢の大半が大学となる。

[筑波大学時代の三笘薫]

選手が成長できる道を模索するのが大人の役目

論点はここからJユース視点に変えて書いていきたい。トップ昇格の基準はクラブによってまちまちだが、実力以外にもその時に指揮を執っている監督のフィソロフィーや求める選手像、既存の選手のポジションと年齢バランスに左右される。もちろんそれは高体連の選手にも当てはまるのだが、高体連の場合はあらゆるクラブからのオファーを受けることができる、いわゆる自由競争だ。

だが、Jクラブユースになるとそうはいかない。制度上はユースの選手は高校卒業時に他のJクラブに行くことは問題ない。仮にトップ昇格ができる選手であっても、育成フィーとは別に連帯貢献金を支払えば獲得することはできる。

だが、実際にそれをしたクラブ、選手はいない。トップ昇格が叶わなかった選手であっても、仮にJ1クラブが同じJ1クラブの下部組織の選手で、トップ昇格を見送られた選手を獲得するケースはほぼない。現在、水戸で活躍をする山根永遠は広島ユースからC大阪に加入したが、当時C大阪U-23がJ3で活動していたこともあり、そこに加わる形だった。

これはなぜか。単純にプライドの問題もある。すなわち「自分たちの下部組織が機能していない」ということを世に示すことになる。逆に言えば、下のカテゴリーのクラブであればその体裁は保たれることから、実際にJ1のクラブユースからJ2のチームに加入する選手は一定数いる。

これを見ると「体裁だけで選手の選択の自由を奪うのか」という声が出てきても当然だし、個人的にはJユースの選手も選択できるような流れがもっと出てきてもいいと考える。プライド関係なく、その選手の将来を本気で考え、成長できる道を模索するのは大人の役目のような気にしてならない。

大学に送り出して、4年後に成長した選手を獲得する流れの方がクラブにとってプラスだし、実際にこのケースは近年非常に多いが、その一方で必ずしも大学経由で同じクラブに戻らないといけないというわけではない。横浜Fマリノスユースから明治大に進学をした常本佳吾は横浜FMからもオファーがあったが鹿島アントラーズを選んだ。選手にとっての人生のターニングポイントにどう関わるかも、その先の選択に重要な影響を与えるかもしれない。

高卒プロに対するアプローチは様々ある。だが、その一方でこれまで述べたように内在的な問題もある。

高卒でプロ入りした選手が短い年でクビを切られることは是か非か−。

仮にそれが起こったとしても、大学に進学をしたり、一般企業で働きながらサッカーが続けられ、もう一度プロの可能性を模索できるJFLのチームや地域リーグのチームの存在がある。そのチームに行って再起を誓ったり、社会人として自立できる術はある。

要はそのような道があるということを示す大人が必要で、進路の自己決定時にそれをビジョンの中に入れてチャレンジすることも重要だ。元Jリーガーという肩書をただの特殊な肩書きにするのか、その肩書を生かしつつ周りの信頼を集めるような人材になるのか。それは入り口と出口で周りの意見に耳を傾けつつ、きちんと自己分析し、自己決定ができるかどうかが重要になる。

■プロフィール
安藤隆人(あんどう・たかひと)

1978年2月9日生まれ。岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに転身。大学1年から全国各地に足を伸ばし、育成年代の取材活動をスタート。本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、柴崎岳、南野拓実などを中学、高校時代から密着取材してきた。国内だけでなく、海外サッカーにも精力的に取材をし、これまで40カ国を訪問している。2013年~2014年には『週刊少年ジャンプ』で1年間連載を持った。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)など。

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