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原大悟の「ドラ息子力」。偉大過ぎる父・原博実を利用した先に、何を見るのか?

原博実の息子から、原大悟へ

自分の強みや“色”を意識して、出せるようになってきたのは最近です。一つは、僕のプレーヤー時代の経験を生かしたDF視点を盛り込むこと。ゴール前でのチャンスから2,3手前のプレーに着目して、シュート以外の見どころも伝えています。それがわかると、サッカーはもっと面白くなると思いますから。もう一つはキャラクター性の部分ですが、「あいつとスポーツ見たい」と思われる実況でありたい。「あいつを連れていったら面白そうだよな」という存在でいたいですね。

昔、西岡さんに、実況の仕事は“実況”、“インフォメーション”、“解説との会話”の3つだと教えてもらったことがあります。僕はクレバーなタイプではないので、インフォメーションでは勝負できません。だから、そのほかの部分で、見る人の気持ちを高められる実況でありたいです。初めてスタジアムに来たら、隣でめちゃくちゃ楽しんでるやつがいたからつられて盛り上がっちゃった、というような存在が理想ですね。

そのために、常にサッカー初心者の視点を意識するようにしています。ちょうど今、FC東京の応援番組のナレーションを担当しているんですが、その番組ではサッカーを全く知らない女の子二人が出演しているんです。番組内では、「フリーキックって何?」という基本的な質問も飛び出します。そんなときにはただルールを回答するだけや、難しい戦術を教えるのではなく「過去にはGKが蹴ったこともあるんだよ」なんて思わず笑ってしまうような豆知識を盛り込むようにしています。彼女たちと同じようなサッカー初心者にも楽しんでもらい、気軽にスタジアムに足を運んでほしいですね。

“原博実の息子”であったことは、結果的に幸運でした。僕が西岡さんと初めて出会ったとき、「“原博実の息子”という肩書は、10年、20年武器になる」と言われたんです。正直そのときは半信半疑でしたが、今ならわかります。初対面の仕事相手でも、サッカー界では誰もが父のことを知っていて、僕を気にかけてくれました。放送のこと、実況のこともまるで分っていなかった僕が、初仕事から4年でこうしてサッカーの仕事で生計を立てていられるのは、この世界での父の存在感のおかげだと素直に感謝しています。

しかし、今後は実況という職業自体が情報社会の壁にぶつかっていくことも予感しています。僕よりも若い世代、つまりこれからのサッカー人気を支える世代の情報感度は僕たち実況界の人間が思っている以上に高いです。今まで試合中に話していた選手の基本情報などはすぐにスマホで検索できてしまう。同じようなやり方を今後も続けていくなら、この仕事は未来から消えてしまうでしょう。

僕は今、サッカー好きな学生とフットサルをしたり、SNSで交流したりしながら、彼らの感覚を探っています。プレーヤーとして高みに上り詰めることができなかった僕だからこそ、彼らと同じ視点で見えるものがあると思うんです。何かに秀でた“才能”は僕にはなかったのかもしれない。でもこの世界で次世代との懸け橋になれたとき、“原博実の息子”ではなく一個人“原大悟”としての価値が生まれる。その使命感が、今の僕を動かしています。

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