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スタジアムを、市民の居場所に。Vファーレン長崎・スタジアムシティ構想【前編】

2023年~2024年に、明治安田生命Jリーグに所属するVファーレン長崎のサッカー専用スタジアムが誕生する。

注目は、スタジアムだけではない。スタジアムビューを楽しめるホテルが隣接するほか、アリーナ、商業施設、オフィス、駐車場などの様々な施設も併設される予定だ。これが「長崎スタジアムシティプロジェクト」である。

プロジェクトを進めるのは、2019年6月1日にジャパネットグループが設立した新会社「株式会社リージョナルクリエーション長崎」。同グループ創業の地である長崎の魅力を、スポーツ・地域創生の観点からアプローチし、長崎の人々に“今を生きる楽しさ”を届けている。

戦略・企画から現場運用までの全てを民間の一気通貫で行なう、おそらく日本初の取り組みによるプロジェクト構想。その背景にある思いや苦悩とは。前編では、主にスタジアムシティの企画や設計といったハード面に携わる株式会社リージョナルクリエーション長崎 スタジアムシティ戦略部の折目さんに、スタジアムシティ建設の裏側について迫った。

長崎の地に“今を生きる楽しさ”を

ーまず、スタジアムシティ建設に至ったきっかけを教えてください。

今回のプロジェクトで最も大切にしている事業コンセプトは、“「今を生きる楽しさ」を!”というというジャパネットグループの企業理念を、創業の地である長崎の町に落とし込んで形として残す、ということです。

そこで、「今の長崎にとって“今を生きる楽しさ”って具体的に何なのだろう」と考えたんです。今の長崎が抱える課題と照らし合わせたときに、サッカー専用スタジアムを中心とした観光体系を作ることが良いという結論に達しました。

サッカーというコンテンツそのものをより高いクオリティで提供することに加え、バスケットボールの試合や各種コンサートが開催できるアリーナ、商業施設などの多彩な体験が一ヶ所でできるスタジアムシティこそが、長崎を生きる楽しさを提供できるのでは、と。

ー“長崎が抱える課題”とは、何だったのでしょうか?

福岡をはじめとした県外への人口流出です。

実は、長崎県の人口減少率は、47都道府県の地方自治体の中で2年連続1位です。要因として考えられることは主に2つあります。一つ目は、若者世代が大学を機に県外に出ていってしまうこと。もう1つは県内で若者世代をターゲットにしたエンターテインメント施設が少ない、という点です。

後者に焦点を当てて、スポーツを始めとしたエンターテインメントをきちんと提供し、人口流出を抑えることが私たちができることなのかなと。長崎の若者が県内で遊ぶきっかけ、かつ県外から長崎に入ってくるきっかけを作り、長崎の人口減少を食い止めたいという思いを持っています。

長崎スタジアムシティ

ースタジアムシティ事業において、戦略部とまちづくり部が分かれていますが、役割の違いを教えていただけますか?

私が担当しているスタジアムシティ戦略部は東京にあって、スタジアムシティの具体的な事業を企画して、建築設計として落とし込むことがメイン業務です。隔週くらいで外部アドバイザーの方々も交え会議も行っています。

一方、スタジアムシティ自体の場所は長崎であり、使用する人も基本的に長崎に住む方たちです。それを踏まえると、現場で求められていることは2つあります。一つは、長崎の気運を高めていくこと。もう一つは、スタジアムシティの認知度を上げて、ファンを増やしていくことです。完成した時には、地元の方々が前のめりで「自分たちの場所なんだ」と言ってくれるくらいの意識を作り上げる役割を担うのが、まちづくり部です。

今はこうして東京と長崎に分かれていて、日々情報共有を行なってプロジェクトを進めています。戦略を踏まえてどうやって地元の方々にお伝えしていくのか、また逆に地元の方々から得た情報をどのようにプロジェクトに落とし込んでいくのか、という役割が明確に分かれています。

スタジアムを、“市民の居場所”に

ー今回のスタジアムシティ建設に当たって、参考にしている事例はあるのでしょうか?

2017年8月6日にオープンした、シンガポールの複合型施設「Tampines Hub」を視察しました。

参考になったのは、イベントが行なわれていない日にも、スタジアムが市民の皆様の居場所になっているということです。スタジアム周辺に図書館や市役所、映画館などの様々な行政施設と商業施設があって、サッカーに関係なく自然と人が集まる“福利厚生の複合施設”になっていました。

Jリーグでは、年間20試合程度しかホームゲームはありません。サッカーだけでみると、1年を通じてスタジアムは使用していない日の方が多いんです。サッカーの試合以外の345日をどう活用するのかが大切になってきます。

ーサッカースタジアムでありながら、サッカーを“核”にしていないんですね。

そうなんです。しかも、サッカーの試合は無料で観戦できるらしくて。もはやサッカー自体をコンテンツにしていないんです。市民サービスを充実させることで勝手に人が来る仕組みを作って、その中で「たまにサッカーやっているよね」くらいの感覚です。

ー今回のシティスタジアムでは、核となるコンテンツはどういったものになるのでしょうか?

スタジアムに隣接する予定のアリーナです。アリーナでバスケットボールの試合をやったり、コンサートなどのイベントを誘致したりして、まずはスタジアムシティに足を運んでもらう動機を作ります。試合やコンサートにいらっしゃったついでに、商業施設を使ってもらえれば、と。V・ファーレンのホームゲームの20試合、バスケットボールの試合、各種コンサートを中心として、一定の集客はできるかなと。

Tampines Hubの写真

It was an exhilarating night as the Geylang International FC went against the Young Lions FC in an intense match at Town Square this evening. Loud cheers of enthusiasm were audible with every goal scored, and the teams ended the game with Geylang International 3-0 Young Lions. pic.twitter.com/Lr5gFLTyhB

— Our Tampines Hub (@OurTampinesHub) March 11, 2020

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