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フットサルを通して“最適化”したヴィッセル神戸。元Fリーグ監督・谷本俊介コーチが携わり「バーモントカップ準優勝」した意味と価値

V神戸のベンチに座った元Fリーグ監督・谷本俊介

ヴィッセル神戸U-12が、準優勝に輝いた。8月5日〜7日に行われたJFA バーモントカップ 第32回全日本U-12フットサル選手権大会で、2009年大会以来13年ぶりの優勝を争ったのだ。

この大会は、「小学生のフットサル日本一を決める大会」だが、全国に勝ち進むチームの半数以上が“サッカー系チーム”である。Jリーグ育成組織も当然、頂点に立ってきた。ただしV神戸は2009年大会以外で4強入りしたことはなかった。ではなぜ、彼らは今大会で強さを示せたのか。

答えは、ベンチにあった。フットサルファンには馴染み深い人物、立川・府中アスレティックFC(現:立川アスレティックFC)の元監督・谷本俊介氏がコーチとして座っていたのだ。

谷本氏は、Fリーグのなかでも“異色の経歴”の持ち主だ。クラブスタッフとして働きながら、突如、白羽の矢が立って監督に抜擢されると、2013-2014シーズンから2018-2019シーズンまで6年間もトップチームで指揮を執った。元選手でもなく、フットサル経験ゼロの指導者が通算200試合以上もFリーグで戦い、100勝以上を収めたその才覚に疑いはなかった。

2016年には、日本代表チームのコーチとして帯同した経験もある。監督退任後もクラブのテクニカルダイレクターを務めるなど、理論派指導者の地位を確立していた。そんな最中に谷本氏は、一つの決断を下したのだ。それは「フットサル界から離れること」だった。

フットサルからサッカーへ。谷本氏は2021年4月、ヴィッセル神戸アカデミー部・最適化グループへと転身を遂げた。現在の肩書きは「ヘッド・オブ・最適化」。本稿で詳細な記述は割愛するが、「最適化」とは、2019年にV神戸が始めたクラブの“バルサ化”から始まった取り組みがベースとなっている。FCバルセロナの育成部門で長く統括責任者に就いていた人物を招聘し、アンドレス・イニエスタも獲得。クラブはアジアナンバーワンを目指して舵を切った。

その過程で生み出されたのが「最適化グループ」であり、アカデミー全体のメソッドの管轄や現場の練習・試合の分析、コーチングスタッフや選手へのアプローチなど、アカデミーのあらゆる事象・課題などを“最適化”するための部署である。谷本氏は、その責任者なのだ。

「V神戸がなぜ準優勝できたのか」を紐解くために前段が長くなったが、つまりV神戸のベンチに座っていたのは、 “元Fリーグ監督”ではなく、“クラブのアカデミーを構築する重要人物”である。ただ単に“フットサル大会に出るから、フットサルのスパイスを取り入れて戦おう”ということではないことは、非常に重要なポイントのはずだ。

では、V神戸アカデミー所属・谷本氏は子どもたちに何を伝えたのか。

取材・文=舞野隼大

キャプテンがピッチで体感した「フットサルの価値」

V神戸アカデミーは、日頃からフットサルを取り入れているわけではないため、当然「本格的に練習を行ったのは大会直前だった」という。これは、多くのサッカー系チームと同じだ(なかには、全くフットサルの練習をしないまま大会に出場するチームもいるようだが……)。

しかしながら、V神戸の選手たちはフットサルに適応していた。

「日頃から“フットボールがうまくなるよう”に取り組んでいますし、普段のトレーニングに肉づけして、狭いスペースの4対4で連係して相手を崩す攻撃や、守備のディテールを詰めた」

もちろん、ピッチで体現するのは簡単ではない。

「ヴィッセル神戸のスカウトやスタッフによって発掘された素晴らしいタレントを持った選手がうちには集まっています。ジュニアの坪内(秀介)監督たちの充実した指導という土台があるおかげで、普段とは異なるフットサルの競技環境のなかでも大会期間中、驚くほどのスピードで日々学習しながら成長してくれている」(谷本氏)ことも大きかっただろう。ただし全7試合で大量42得点を挙げたその中身を見る限り、味方同士が狭い局面を打開するシーンも多く、いわゆる“サッカースタイル”だけで勝ち上がったわけでないことは明白だった。

結果としては、決勝でブリンカールFCに敗れたものの、選手たちが「フットサル」を意識してプレーし、選手としての“新たな可能性”を見出したことは間違いない。それを証明するかのように、キャプテンの花元誉絆がこんなコメントを残している。

「瞬間、瞬間で仲間のことを見て判断・予測して、チームが連動して動かなければいけない難しさはあります。でも、こういうプレーをすれば時間が生まれて、仲間を助けることができるし、自分がやりたいことをしやすくなるんだなということがわかりました」

花元の言葉はきっと、自身の今後のプレーによってさらに深みを増していくに違いない。

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