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坂本弘美(スポーツ庁)HIROMI SAKAMOTO Vol.1「スポーツの可能性を“拡張”していく」

スポーツ庁とSPORTS TECH TOKYOが共同開催する「INNOVATION
LEAGUE」(イノベーションリーグ)」は、スポーツを活用した日本の産業拡張を推進する取り組みとして始められた。
この「イノベーションリーグ」を先導するのがスポーツ庁の坂本弘美氏だ。システムエンジニア出身で、製造業のIoTやキャッシュレスの推進政策に携わった後、スポーツの成長産業化を推進する。
東京オリンピック・パラリンピックの開催を控える中、日本におけるスポーツがこれまで以上に発展するには、どのようなイノベーションが求められるのか。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

オープンイノベーションを創出する“SOIP”

──スポーツ庁が「イノベーションリーグ」をスタートさせた経緯から教えてください。

「イノベーションリーグ」はスポーツコンテンツを活かして、オープンイノベーションを促進していく取組です。スポーツの場におけるオープンイノベーションを促進し、他産業と融合することで、新たな財やサービスを創出する仕組みを、Sports Open Innovation Platform (SOIP)と呼んでおり、このSOIPの構築を推進しています。SOIPは、2025年までにスポーツ市場規模を15兆円まで拡大していくことを目指す「スポーツの成長産業化」の政策の一つに位置付けられています。スポーツが成長産業になるように、スポーツ市場の裾野を、「スポーツ×○○」と、かけ合わせることで他産業と連携し、広げていくというコンセプトのもとで生まれてきたのが、SOIPであり2018年から取り組んでいます。

──「スポーツ×○○」という掛け合わせはかなり可能性があると思っています。特にスポーツとテクノロジーの親和性が高いと思うのですが、坂本さんはどうお考えですか?

おっしゃる通り、テクノロジーというのはスポーツと親和性の高い分野の一つだと思っています。スポーツを「する・みる・ささえる」という行動するから成り立つスポーツコンテンツが中心にあり、そこから裾野を広げていくために、まずは、例えばドローンの技術であったり、AR・VRの技術であったり、先端技術等との連携によってスポーツの価値自体を高めていくことを狙っています。後程お話ししますが、コロナ禍において、より一層、このスポーツとテクノロジーによってもたらされる新しい「する・みる・ささえる」の価値向上に期待が高まっていると思います。そして、その次の段階が他産業との連携です。例えば医療・健康やアパレルなど他の産業とスポーツが連携することで、連携先産業の価値高度化も目指していけると考えています。また、最終的には、そうした産業連携の中で社会課題の解決を行う事例を出していきたいというのが、SOIPのコンセプトです。「イノベーションリーグ」はスポーツ庁が実施する今年のSOIPの取組です。

(スポーツ庁説明資料より)

──具体的な事例を挙げていただけないでしょうか。

周辺技術と連携することで「スポーツの価値高度化」を目指す、一番わかりやすい例が、フェンシングの試合演出で、試合中の剣先の動きを見える化した例があります。また、アスリートの健康・コンディショニング管理を一般の人が使えるようにライフレコーディングしてアプリ化し、サービス展開をしていくといった他産業と連携することでヘルスケア業界のサービス向上に貢献した事例もあります。

──最終目標である社会課題の解決というところではいかがですか?

ボランティアとしてだけでなく、関係者同士が対等な関係で価値を享受し合い、社会的課題の解決に貢献していくことが重要であると考えています。例えば、徳島ヴォルティスと徳島県美馬市と大塚製薬が協力して、ヴォルティスのコーチが地域住民にむけて、運動プログラムを実施して、住民の運動の習慣化や、体力レベルの向上に取り組む活動などを進めています。地域住民の方々はスポーツをすることで健康になり、市の介護費の削減や介護給付費の削減につながることが期待できます。こういった動きがある中、SOIPの動きが各地で起こるように取り組んでいるところです。

──「イノベーションリーグ」には「アクセラレーション」と「コンテスト」という2つの部門がありますが。

「アクセラレーション」は、スポーツ団体が持つ課題を解決するアイデアを募集して、事業化を目指すことを後押しする取組です。昨年から開始し、今年は(公財)日本バレーボール協会と3×3.EXE PREMIERが提示した課題に対して、アイデアを提案してきた企業・団体等から、5社を採択させて頂きました。2月下旬の成果発表にむけて事業を進行中です。
「コンテスト」は、スポーツを活用したさまざまな事例を応募していただき、新しいものや、優れたものを表彰するという取組で今年から新しく初めました。イノベーションリーグ大賞、ソーシャル・インパクト賞、アクティベーション賞、パイオニア賞という4つの賞があります。

withコロナ、afterコロナにおいて、試合会場に足を運ぶ顧客は、テクノロジーを用いて従来よりも付加価値を受けることが可能になり、その一方で、顧客はデジタル技術等により、付加価値がついた状態でリモートでも楽しむことができ、スポーツ団体にとっては新たな収益源となっていく流れになるのではないかと思います。この流れにおいて、デジタル技術、いわゆるテクノロジーはスポーツと親和性が高く、実際に、(公財)日本バレーボール協会と3×3.EXE PREMIERが提示した課題に対するアイデアから5社を採択させて頂きましたが、いずれも先進的な技術などを持った企業となっています。
「コンテスト」は今、まさしく事例を募集しています。誇れる技術を持っている日本の企業などにぜひ新たな事例を生み出してもらいたいと期待しています。また、技術力を持っている企業だけでなく、地域に根差して、地域の企業やスポーツチーム、自治体、団体などと連携をして、スポーツを用いて地域経済や地域の社会課題の解決に取り組んでいくような事例にも、ぜひ、注目してきたいと考えています。

スポーツ×テクノロジー

──「アクセラレーション」は既に採択をしたとのことですが、面白い事例はありますか。

どこも全て面白いです。技術力を戦略の中心に強く据えているという点ですと、サッカーなどで始まっているマルチアングル映像配信技術をもつAMATELUS(株)でしょうか。

──マルチアングルでの試合観戦はどのように実現しているのでしょうか?

従来の360度動画というのはあらゆる角度の映像を組み合わせて配信するのでデータが重く、なおかつ多額のコストがかかるというものでした。それがAMATELUS(株)の技術では、カメラとカメラの映像が切り替わるスピードが高速で、動きの予測もできるため、データがとても軽く、4G環境でもリアルタイムで配信ができるそうです。AMATELUS(株)はもともとライブ・エンタメ業界向けにサービスを提供しており、スポーツ業界にも提供をしようと挑戦しています。

──他にも注目されている企業はいらっしゃいますか?

パソコン等の周辺機器の総合メーカーである(株)アイ・オー・データ機器は、自社のメーカーとしての強みを生かし、“音”という切り口でクラウド型音声配信サービスを拡張して、スポーツを盛り上げていくことを検討しています。また、SpoLive Interactive(株)は通信インフラを活かしたインターネット回線サービスの強みを生かして、リアルタイムでスポーツ観戦をして、その感動を共有し、応援を届けたりできないかという検討をしています。世界中とリアルタイムで繋がって、離れていながらも試合中に選手に声援が届くようになるかもしれません。他にもありますが、2月下旬に成果発表の場で詳細を公表できたらと思います。成果発表会(デモデイ)の詳細はスポーツ庁HPやイノベーションリーグのサイトに公表予定です。

──テクノロジーによってスポーツ観戦がどんどん進化していきそうです。

はい。野球で球を打ったり、サッカーでボールを蹴ったり、ラグビーの選手同士がぶつかった時の音や迫力というのは、スタジアムやアリーナなどの試合会場だからこそ味わうことができるものです。観戦に行った時に、スタジアム等の試合会場の周辺に飲食店に、友達や家族と訪れて余韻を楽しんだ思い出は、遠隔で観戦するのとは違った魅力があります。現在、新型コロナウイルス感染症拡大にともない、スポーツ庁は自粛を余儀なくされていますが、
withコロナ、afterコロナにおいて、リアルに足を運ぶ従来のスポーツの楽しみ方というのは残しつつ、テクノロジーとスポーツをうまく融合させて、イノベーションを推進できたらいいなと思っています。

Vol.2「地域の取り組みにもフォーカスしたい」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fd871de1f153d354e01b7e2

Vol.3「スポーツが社会の改題を解決する」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fd872f17d56213abd1654b2

■プロフィール

坂本弘美(さかもと・ひろみ)
スポーツ庁
参事官(民間スポーツ担当)付 参事官補佐
東京大学大学院を卒業後、NTTコミュニケーションズ(株)にシステムエンジニアとして就職。その後、2016年3月に経済産業省に入省、製造産業局にて製造業のIoT推進政策に携わる。2018年10月から同省 商務・サービスグループにて、主に中小・小規模事業者や自治体へのキャッシュレス推進政策に携わる。2020年7月より現職、スポーツの成長産業化に取り組む。

INNOVATION LEAGUE(イノベーションリーグ)とは
スポーツ庁が取り組む「スポーツオープンイノベーションプログラム(SOIP)」と、スポーツテックをテーマとしたグローバルアクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」がタッグを組み開催する スポーツイノベーション推進プログラム。プログラムは大きくふたつ。スポーツビジネスを拡張させる「イノベーションリーグ アクセラレーション」と新しいスポーツビジネスを讃える「イノベーションリーグ コンテスト」。「イノベーションリーグ アクセラレーション」 では、コラボレーションパートナー(実証連携団体)として公益財団法人日本バレーボール協会と3×3. EXE PREMIERもプログラムに参画。テーマ設定をはじめ、プログラムの中で採択されたテクノロジーや事業アイデアの実証において連携を行っていきます。
「イノベーションリーグ コンテスト」は今年初開催。スポーツやスポーツを活用した新しい取り組み・優れた取り組みを表彰いたします。

公式サイト
https://innovation-league.sportstech.tokyo

SPORTS TECH TOKYOとは
スポーツテックをテーマとした世界規模のアクセラレーション・プログラム。第1回開催時には世界33ヶ国から約300のスタートアップが応募。スタートアップ以外にも、企業、スポーツチーム・競技団体、コンサル、メディアなど多様なプレイヤーが参画。事業開発を目指すオープンイノベーション・プラットフォームでもある。

公式サイト
https://sportstech.tokyo/?ja

■クレジット

取材・構成:上野直彦、北健一郎

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