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打率1割台、外野出場10試合でも票が入る「ベストナイン」。史上8人目の投手五冠でも満票選出されない理由を知りたい<SLUGGER>

今年のベストナインで起きた“波乱”。阪神からは大山(左上)、陽川(左下)が“謎”の1票が入り、最強投手・山本も満票にならなかった。写真:田口有史(山本)、大山(山手琢也)、徳原隆元(陽川)
「ベスト(best)」——広辞苑の定義によれば「1:最良、最優秀、2:できる限り、最善、全力」と書いてある。なるほど、プロ野球のアウォード投票であるベストナイン賞は、各ポジションの「最優秀選手」を称えるための賞となるわけだ。

 12月14日、2021年のセ・パ両リーグのベストナインが発表された。山本由伸(オリックス)ら10名が初の栄誉に与り、球団別ではリーグ優勝を果たしたヤクルトとオリックスから最多4名が輩出された。

 想像以上に差がついたのはセ・リーグの三塁手か。二冠王の岡本和真(巨人)と本塁打王の村上宗隆(ヤクルト)の一騎打ちと見られていたが、村上が5倍近い246票を得て圧勝した。今年のベストナイン(セ・リーグ)の有効投票数は306。村上が249、岡本が59票だから足して305となり、1票だけ足りない。それは阪神の大山悠輔にも1票が入っていたからだ。

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  たしかに大山も立派な選手である。昨年は最終盤まで本塁打と打点のタイトル争いを演じ、甲子園という打者不利な球場を本拠としながらOPS.918と出色の成績を残した。今年も優勝争いが激化していた9月5日の巨人戦で劇的なサヨナラ2ランを放つなど、印象的な活躍もあった。

 ただ、故障離脱もあってシーズン全体の成績は下降。シーズン終盤にはスタメン落ちもあった。にもかかわらず、その大山が村上や岡本よりも「ベスト」にふさわしいと考えた記者がいた、というわけだ。

 同じ阪神の選手でいえば“不可解”だったのが、外野手部門で1票を得た陽川尚将だ。そもそも、セ・リーグ外野部門はかなりハイレベルで、選外には規定打席にわずか4打席足りなかったものの、OPS実質リーグ2位のオースティン、打率リーグ5位・6位の桑原将志と佐野恵太(いずれもDeNA)らがいる。

 一方、陽川は出場41試合で打率.174、2本塁打、OPS.581にとどまり、ベストナインどころかレギュラーですらない。何より、外野での出場はわずか10試合、一塁で23試合という選手になぜ票が入ったのだろうか。外野部門では、他にもヤクルト・荒木貴裕(100試合/打率.200/OPS.462)、広島・松山竜平(85試合/打率.263/OPS.679)にも1票が投じられているが、どのあたりが「ベスト」だったのか、記者にはぜひとも説明してほしいものである。
  ダントツの支持を集めた山本由伸(オリックス)。しかし、彼が満票選出でないことにも驚かされた。

 山本は防御率(1.39)・勝利(18)・勝率(.783)・完封(4)・奪三振(206)でリーグトップに立ち、プロ野球史上8人目の投手五冠を成し遂げた。票が入った宮城大弥(オリックス)、益田直也(ロッテ)、千賀滉大(ソフトバンク)も素晴らしい投手ではある。しかし、「歴史的」と言ってもいい快投を演じた山本よりも「ベストナイン」にふさわしかっただろうか。

 先に発表されたゴールデン・グラブにしても、新聞・通信・放送各社に所属し、プロ野球取材経験5年以上の記者による投票で決定される。選手に近い距離感で、毎試合のように球場に足を運び、生のプレーを見てきた記者が票を投じたのだから、そこには明確かつ絶対的な理由があるはずだ。
  しかし、日本のアウォード投票では、「誰が」「どの選手に」「どんな理由で」投票したのかが明かされることはない。SNSなどで自身の投票内容を明かす記者もいるが、ごく一部に過ぎない。

 一方、メジャーリーグでは、どの媒体に所属している誰が、どんな順位で投票したのかが明確にされる。当然、投票内容に納得のできないファンから理由を問い詰められることもあるが、大半の記者は臆することなく投票の根拠をしっかりと説明している。

 毎年提言しているが、プロ野球のアウォード投票も公開制での記名形式を導入するべきだ。真剣に投票している記者が大半のはずだが、一部に「担当チームへの忖度」を疑われるような投票をする記者が“悪目立ち”してしまっている。しかも、批判の矛先が記者本人ではなく、選手に向かってしまうのもおかしな話だ。こうした流れになってしまうのも、すべては“非公開投票”というシステムに問題がある。

 アウォード投票形式における「ベスト」なやり方とは何か。答えはもう、一択である。

構成●新井裕貴(SLUGGER編集部)
 

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