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卓球と、雪掻き? 北陸大学卓球部が10年以上続ける“雪かきボランティア”の理由

卓球とSDGs 卓球と、雪掻き? 北陸大学卓球部が10年以上続ける“雪かきボランティア”の理由

2021.11.05 取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)

11.住み続けられるまちづくりを
雪国の暮らしに、雪掻きは必須のものだ。

高齢化の進む日本の各地域にとって、生活道路の雪掻きを誰が担うのかというのは、年を追うごとに深刻化する社会課題の一つである。

石川県金沢市にある北陸大学卓球部が、市と大学近辺の東浅川地区町会連合会との「雪掻きボランティア協定」を締結し、雪掻き活動を続けて、もう10年以上になる。

北陸大学卓球部
写真:北陸大学卓球部の雪掻きボランティア活動/提供:北陸大学卓球部近年は金沢も大雪に見舞われることが多く、28名の卓球部員が自治体からの要請に応え、例年1、2月に東浅川地区の通学路や各施設前などの雪掻きを実施している。

始まりは2010年。
北陸大学卓球部を創設してまもなくの木村信太(きむらしんた)監督が、金沢市からの雪搔きボランティア募集の案内を見て申し込んだ。当時、卓球部員は3人しかいなかった。

木村信太さんに話を聞いた。

北陸大学卓球部監督 木村信太氏
写真:北陸大学卓球部監督 木村信太氏/提供:本人このページの目次

  • [5 取材を終えて]()

「応援されるチーム」になる

——なぜ部員3人の頃から「雪掻きボランティア」を?
木村:
高齢化の進む地域の方にとって、雪掻きは重労働です。僕らは創部以来「応援されるチーム」を目指していて、ボランティア活動にも重点を置いています。雪掻き以外にも、地域の清掃活動を定期的に実施しています。

——部員に戸惑いはなかったんですか
木村:
当初は正直、嫌々参加する学生もいました。ただ、続けるにつれて、感謝されること、応援されることに学生自身が意義を見出すようになりましたね。「いつもありがとう」「君たちはどこの学生?運動部?」などと声をかけて頂き、地域の方に本学卓球部のことを知って頂く良いきっかけになっています。

その程度で弱くなるなら、普段の練習の方が問題

——その分の練習時間を割くということに抵抗はないですか
木村:
雪搔きボランティアは、原則、授業の合間に実施しますので練習への影響はありません。それに、練習があるからと言っていてはボランティア活動は実践できないです。いかなるときも、要請があれば応えるつもりです。その程度の時間で弱くなるのであれば、普段の練習の方が問題です。逆にトレーニングになります。

——信念ですね
木村:
いま私たちがやらねば誰がやる、という気持ちはあります。学生のパワーはあり余っているので(笑)、今後も高齢化社会とマッチングを行っていき、この地域に根づいた大学スポーツクラブとなっていきたいと思っています。

北陸大学卓球部
写真:北陸大学卓球部 練習の様子/撮影:ラリーズ編集部## 雪掻きをきっかけに地域住民との交流も

協定を結んでいる金沢市役所の市民協働推進課の担当・吉本さんも、この北陸大学卓球部の活動を「雪掻きボランティア事業の模範」と語る。

「降雪時に積極的に雪搔き活動をしていただいてるのはもちろんのこと、コロナ禍以前は東浅川地区町会連合会の新年会に学生が参加したり、雪かきボランティアへの参加をきっかけに地域の消防団に仲間入りする方がいらっしゃるなど、雪かきをきっかけに学生と地域住民の交流も活性化していますね」

年月を重ね、冬季には数多くの雪掻きボランティアの要請を受けるようになり、また、学生サークルや高校からの参加申し出も増えてきたという。

「まさに雪搔きボランティア事業の模範となるような協定で、末永く地域の皆様と交流を続けて頂きたい」と期待を寄せる。

北陸大学卓球部
写真:「雪掻きボランティア」協定書/提供:北陸大学卓球部Rallys×パンダーニ コラボユニフォーム登場 オンライン限定販売## 「思ったより大変でした(笑)」

ところで、雪掻きを行う卓球部員自身はどう思っているのだろうか。雪国出身ではない、和歌山県から北陸大学に入学した卓球部2年生、亀井康平さんに聞いてみた。

——雪掻きボランティア、大変じゃないですか
亀井:
作業は思ったより大変でした(笑)。除雪する際にスコップを使いますが、雪が塊となっているときは、腰に負担がかかります。僕らみたいな若者の力が必要だなと思いました。

——入学してから、亀井さん自身が雪に困ったことはありますか
亀井:
雪が積もると原付バイクでの移動ができなくなり、通学や練習に行く際の移動手段が限られることですね。車を持っている部員が12人と多いので、降雪時は乗せてもらっています。

北陸大学
写真:北陸大学卓球部の雪掻きボランティア活動/提供:北陸大学卓球部——雪掻きしていて、嬉しかった経験はありますか。
亀井:
はい。2021年1月は雪が多く、アパートの近くでスタック(タイヤが雪にはまって動かなくなること)して困っていた人がいたので、部員数名で力を合わせて手助けしました。手伝ってくれてありがとうと言われ、お菓子を頂きました(笑)。人のために動いて、実際に役に立ってありがとうと言われたのは、とても嬉しかったです。

あと、雪掻きしていると、寒さを忘れてトレーニングしているような気持ちになるので、実は結構楽しかったりもします。

北陸大学卓球部の部員たち/
写真:北陸大学卓球部の部員たち/提供:北陸大学卓球部## 取材を終えて

つい先日も、ハロウィンナイト翌朝の繁華街を早朝6時から清掃した北陸大学卓球部。タバコの吸い殻が約8割を占めたゴミ袋は、7袋にも及んだという。

北陸大学卓球部
写真:片町地区のボランティア清掃を行う北陸大学卓球部/提供:北陸大学卓球部スポーツで地域貢献を、とみな口にする。

でも、いま現在、地域に暮らす住民が直面している課題は、予期せぬ災害発生時に避難場所への道は雪掻きされているか、とか、ハロウィン翌朝の散乱したゴミをどうするか、とか、スポーツビジネスや経済合理性の観点からは抜け落ちるものも多いのだ。

部活動が地域に根ざしたクラブスポーツを目指していくとき、スポーツに何ができるかという視点と同時に、共に同じ地域に暮らす人間としてお互い何を持ち寄って支え合うか、という共生型の取組みを大切にしてほしい。そして、それこそ敷居の低いスポーツ、卓球の得意な領域なのだから。

雪掻きボランティアは、10年以上続く、その一つの先駆的なチャレンジなのだと思った。

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