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視力を失った柔道家が伝えたい「人の可能性を見せる」パラリンピックの魅力

東京オリンピックの閉幕からおよそ2週間。8月24日にパラリンピックが開幕を迎えた。依然として新型コロナウイルスの感染が拡大しており、緊急事態宣言下での開催に懐疑的な目が向けられている。

しかし柔道家として2008年のパラリンピックに参加した初瀬勇輔さん(視覚障害者柔道)は、様々な困難に向き合い、その都度絶望から這い上がってきたからこそ、パラリンピックが今の世の中に「可能性」を示すことができると語る。

現在は日本パラリンピック委員会の運営委員を務める初瀬さんにインタビューをお願いした。

※障害の表記について:固有名詞以外は「障がい」と記載しております。

「非接触」は、特に視覚障がい者に厳しい

──新型コロナウイルスの蔓延は、障がい者の方々にも大きな影響を与えているのでは?

初瀬勇輔(以下、初瀬) 障がい者のなかでも、特に視覚障がい者にはかなり厳しいと思います。去年の4月や5月は人が全く出歩いていなくて、視覚障がい者が道に迷っても尋ねることができませんでした。

視覚障がい者を案内する際は、肩や肘に触れるなど必ず接触を伴います。しかし今の世の中は接触を嫌がる。ご高齢の障がい者の方にはヘルパーさんが付くのですが、コロナの感染を嫌がって仕事に出てこないことがあるとも聞いています。

──確かに、コロナの蔓延で“接触を避ける”は1つのポイントとなっています。

初瀬 今は、非接触が進んでいますよね。例えばコンビニ。先日、買い物をした際にレジで「お支払い方法は?」と言われて「Suicaで」と答えると「(レジ画面を)押してください」と言われたんです。「操作がわからないので、現金でお願いします」と言っても同じように「押してください」と言われました。

非接触が増えることで、世の中が便利になることもわかります。ただ、私たちのような視覚障がい者にとっては、逆に生きにくくなっている。みなさんが便利になったと思うことが、私たちにとっては不便になっていることって、実はあるんですよ。

パラリンピックは人の可能性を見せる大会

──コロナによって様々な状況が変わってきています。オリンピック開催についても懐疑的な目が向けられていました。まもなくパラリンピックが開催されますが、率直にいかがでしょうか?

初瀬 オリンピックについては、色々な意見が出ていることも理解していますが、開催できて良かったと思っています。実際に開会式の視聴率は56%でしたし、アスリートたちの頑張りを見て応援の声が大きくなっていきました。

個人的に思うことですが、賛成反対どちらでもない層がいるのかなと。「これだけコロナの新規感染者が出ました」という報道を見て「やらない方がいいんじゃない」と思う人も、「選手たちは頑張ってこの大会を迎えました」という報道を見て応援してくれる。その時その時の空気感で動く人は多いと思います。そしてアスリートが頑張っている姿は、多くの人たちに感動を与えてくれました。

ただ、純粋に応援できる気持ちになれたのは無観客が決定したからだと思います。観客を入れていたら、コロナが心配だと思っていた人たちは一気に反対していたでしょう。複雑な状況のなかでしたが、開催できて良かったと思います。今回を逃せば次は3年後。前大会から8年となると、アスリートにとっては2世代違いますし、選手たちはガラッと変わっていたでしょう。

今大会で一番感じたのは、アスリートの真面目さです。アスリートの方たちはみんな、「この状況のなかでも開催してくれて」と感謝を口にします。そういう思いは、このコロナで頑張っている人たちに届いているんじゃないかなと思います。

──アスリートの頑張りが人々の支えになる?

初瀬 オリンピックよりも、パラリンピックの方が共感を得られるかもしれないですね。今は、本当に多くの人たちが、当たり前のようにできたことができなくなっています。ただ、目の前で懸命にプレーしているパラアスリートは、事故で車椅子生活になりながらも走れるようになりました。「諦めなければ色々な可能性がある」と思ってもらいたいですね。

オリンピックは人の限界を超えるところを見せますが、パラリンピックは人の可能性を見せるところだと思います。パラアスリートのプレーを見て、「自分もできる」「もっと頑張れる」「チャレンジできる」と思ってもらいたいですね。

30歳を超えて目が悪くなってもこれだけのことができるんだっていう、自分たちの身近な存在として可能性を感じさせてくれると思います。それがオリンピックとパラリンピックの役割の違いです。

だからこそパラリンピックも開催して欲しいですね。緊急事態宣言下なので無観客でもいいので開催して欲しいです。できれば少しでもお客さんが入るといいですね。