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堀米雄斗のマネジメントに訊く! 金メダルを獲得した事務所のリアル

UPDATE 2021/08/11

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7月25日、1人の日本人の名前が世界を駆け巡った。

「堀米雄斗」

爆増するSNSのフォロワー数。明らかに変わる周囲の反応。Googleトレンドの検索数も、劇的に上昇した。トレンドのど真ん中にいる本人は、どれほどの激震を感じているのだろう。

金メダル獲得から数日、実態を探るために堀米雄斗のマネジメント事務所を直撃。彼を6年以上サポートしてきたポリバレント株式会社・飯田修平社長がインタビューに応じてくれた。

堀米の知られざるエピソード、金メダル獲得直後の堀米の本音、周囲の変化、なかなか聞けない契約のこと、堀米を間近で見てきた飯田氏が明かした赤裸々な言葉を紹介しよう。

【堀米雄斗が漏らしたリアルな感想】

雄斗が金メダルを獲った後に食事に行きましたが、「ホッとした」と話していました。めちゃくちゃ紙一重だったと思います。

最初のランで調子が悪かったので、追い詰められていたんじゃないかと感じました。金メダルを手にした実感はあまりない様子でした。世間の大きな流れと、本人が直面しているものが一致していない。それは僕も一緒で、どこか他人事のような感覚もありますからね。

【金メダルを獲得して何が変わった?】

わかりやすいのはSNSのフォロワーです。インスタのフォロワー数は、大会前の70万人くらいから、金メダル獲得後には136万人を超えました(8月8日現在)。大谷翔平選手を超えたという記事もありましたが、爆発的に認知度が上がったわけですよね。

一瞬にして影響力が上がったので、彼の発言は大きなものになっていくと思います。テレビでも話していましたが、スケボーはネガティブなイメージがある、と。いわゆる不良が道を占拠していて、「スポーツ」と思われていない印象を変えたいと発信していました。

もっとポジティブなスポーツだと。女子を見ても、金メダルを手にしたのは“普通の”女の子。そういう子がやるスポーツだ、という印象は持たれていなかったと思います。今大会を通してポジティブなイメージに変換できたことが、彼にとっては一番うれしいことだったようですね。

【お祝いやスポンサーの連絡が鳴り止まない?】

僕のもとにはスポンサー関連の電話やメッセージなど、50件から100件くらい連絡がありました。名刺交換したけどその後付き合いのない人からも連絡をもらい、多くの代理店から、契約の提案をしたいという連絡もありました。当日から翌日にかけてすぐでしたね。直接の現場の担当者には200〜300件はあったと思います。今も相当きていますよ。

十数年マネジメントをしていますが、経験したことのないレベルでした。それくらい、注目されたメダルなのかなと。勝ち方やタイミング、ストーリーなど、うまく流れに乗ることで、本来の競技力だけではない扱いを受けることがあります。雄斗も「女子も金を獲ったし、日程が逆だったらここまでになっていないかもしれない」と話していました。予測できないですよね。

【金メダルを獲ると儲かるの?】

雄斗が金メダルを獲得したことで、周囲からも「儲かりますね!」と言われることがありますけど、僕たちは「儲かる」という感じではなく、「助かった」という感覚です。

最高の結果を手にしましたが、予選敗退して、契約を全て切られてしまうこともありえる。金メダルを獲れたから、次の五輪まであと3年間、高いレベルでサポートができる期間をもらえた、と。

うちの事務所には、2022年の北京冬季五輪を目指すスノーボードクロスの桃野慎也選手や高原宜希選手もいますが、良くも悪くも同じような可能性を持っていると思います。結果を期待できる選手だからこそ、契約金を高く設定できるかもしれないですが、それは、ダメだった時に切られやすくなるということ。責任とプレッシャーが大きくなる。そういう意味でも、雄斗の今回の成果によって、事務所としても、彼自身としても1つステージが上がったと感じています。

見えない世界、見たことのない景色を見られる喜びもありますが、それはすなわち、メディアからの注目を含め、味わったことのないプレッシャーとの戦いが始まることも意味します。喜びは3日くらいで終わり、もう次のことを考えて動き始めています。

【マネジメント会社の社長は怖くて試合を見られない】

実は、決勝は生で見ていません。というか、怖くて見ることができなかった。だから、結果を知って、とりあえず安心しましたね。

経営者として、これでそれなりの契約をつかめて、社員の給料や家賃が払える。ある程度、最低ラインを確保できるだろうという、打算的な思考が浮かんでしまいます。もちろん、6年くらい一緒に進んできていますから、金メダルを獲ってくれたことが素直にうれしいですけどね。

一方で、アスリートのマネジメントは一か八かの仕事でもあります。予選落ちしていたら、本当に笑えないくらい厳しいことになりかねない。僕らの仕事は、試合前までのサポートですから、最後は他力です。僕らが代わりにトリックを決めるわけではないし、そこに価値を見出して出資するわけでもない。だからアスリートの結果次第です。

長い期間を費やしてきたことが、わずか1日、ものの数時間で決着してしまう。結果では報われないかもしれない。選手の未来が変わってしまう怖さから直視できないのが本音です。

 

【堀米雄斗のマネジメントを始めたきっかけ】

2014年10月に前職のホリプロを退社し、マネジメント会社を立ち上げたのですが、半年後くらいに、知り合いを通じて雄斗を紹介してもらいました。彼が16歳くらいの頃ですね。

まだスケボーが五輪種目に決まっていない時期で、彼自身は界隈では天才と言われていましたが、世界的に有名な選手ではありませんでした。マネジメント事務所への理解があったわけでもないと思いますし、「とりあえずお手伝いしてくれるところ」くらいの感覚だったと思います。

金メダル直後の映像を見ても、しゃべりが得意には見えないですよね? あれでも100倍は成長しました(笑)。すごく人見知りだったので。アメリカでコミュニケーション能力が上がり、今は少し積極的に話すようにはなりました。

【堀米雄斗の最初の仕事は雑誌の取材?】

たしかいろんな売り込みをかけて、うちの社員が取ってきた雑誌『Tarzan』(ターザン)に出してもらったのが最初の仕事だったと思います。

2018年1月に東京五輪の新種目が決定しましたが、その少し前くらいから、あまり知られていない競技のスケートボード第一人者は誰だということで、テレビ局を中心に取材が入り始めました。

でも、新種目決定後にすごく仕事が流れ込んできたかというと、そうではありませんでした。取材などは、拠点としていたアメリカから帰国したタイミングか電話取材。今のようにZOOMなどのオンライン取材が一般的ではなかったので。

【堀米雄斗が世間で注目を集め始めたのは?】

スケートボードの世界では、ストリートリーグという、テニスの四大大会のような位置付けの大会が年に3回か4回開催されます。そこで、2018年の初優勝から3連続制覇したあたりから潮目が変わりました。

五輪種目も決定していたので、「メダルを獲るのは誰だ?」という話題からいきなり勢いが出てきました。XFLAGさんをはじめ、今のスポンサーに出会えたのは偶然でしたが、多くの方々に興味を持っていただき、CMやスポンサーが5、6社つきました。

そこから彼も勢い付いていきました。世界ランキングが2位になった時は、それなりの契約金になっていましたね。提案される金額が自然と上がっていった。具体的な額は明かせませんが、1社で数千万円ということも当然あります。ほぼ0円だったところから、年間数千万円以上の稼ぎになっていく。これはある意味でスポーツの魅力であり、怖さでもあると思います。

【マネジメント事務所と所属アスリートのリスクは同じ】

大会前から少しずつ知名度が上がっていましたが、あの瞬間からとんでもないことになり、久しぶりに自分のキャパオーバーを感じています。世界1位は伊達じゃないなと(苦笑)。

雄斗自身もそうだと思います。急にみんなに持ち上げられて驚いているはずです。そこで勘違いすることなく、他のアスリートの指針になることで、次につなげてほしいなと。

僕らの会社は、選手と社員のリスクが同じ。その感覚で仕事ができるのはいいですね。所属アスリートが予選敗退したからといって倒産するわけではないですが、結果には大きく左右されます。つまり一蓮托生だから、僕らも勝負する。会社の経営バランスはもちろん考えますが、本質的なリスクは一緒だと思っています。

本当に、リスクを背負えないと、死ぬ気でサポートできないですから。そうやってきて、今回は全ての結果で涙が出ました。お金にならない部分も多いけど、泣ける瞬間がある職業は魅力的だと思います。この先も続けていきたいですね。

【金メダリストを輩出したマネジメント会社として】

雄斗が達成してくれた結果として、会社のステージを上げてもらいました。これまで銀メダルを獲得したアスリートはいましたが、やはり金は世界が違うなと。だからこそ、もっと環境づくりを進めないといけないですし、新しく入ってくれる選手がいたら、彼らに環境を提供できないといけません。事務所間で、獲得合戦みたいなことも起こりますからね……。

実際、他の事務所から、「もっと良い条件を出すからうちにきなよ」という声がアスリートに来ることはあります。まだまだうちは小さい事務所です。絆やファミリー感も大事ですし、単純にその時の金額を釣り上げるのではなく、選手をどうやって守るかを考え続けなければいけません。金メダル選手を輩出したことで、さらに考える必要が出てきましたし、それくらいの重みが、このメダルにはあります。

金メダリストを輩出した事務所ということになれば、クライアントやこれから出会うアスリートも期待してきますから、選手とともに僕らも成長していかないといけません。すでに、雄斗の五輪連覇に向けた戦いは始まっていて、それをどうサポートできるかという責任です。楽しみながら進んでいますけど、決して簡単な道のりじゃないことは、もう嫌というほどわかっているつもりです。

僕らの意識は、「雄斗がいるポリバレント」ではなく「ポリバレントのなかに雄斗がいる」こと。今は、大手芸能事務所もスポーツ選手のマネジメントを始めていますし、資金力も人材も少ない僕らなりの戦い方を模索する必要があります。トップアスリートが来てくれた時に、「自分たちの格に合っていない」と思われないように、常に進化し続けることが求められています。

雄斗のように、ある意味で生え抜きの選手がトップに到達したことで、僕らもその水準に適応しないといけない。そうやって僕たち自身の能力が高まり、キャパが上がれば、また違うステージの世界を見ることができます。

今回は、その意味でも貴重な経験でした。もう一生ないかもしれないと思いつつ、いやいや、3年後の挑戦権をつかんだからこそ、もっと力をつけて備えないといけないな、と。選手に見限られないように戦う必要があるという危機感が増しました。

■プロフィール

飯田修平(いいだ・しゅうへい)
1984年1月8日生まれ、東京都出身。2007年4月に株式会社ホリプロに入社し、スポーツ文化部に所属。マネジメント業務では、ジローラモ氏や浦和レッズの槙野智章などを担当。2014年に同社を退社し、同年10月にポリバレント株式会社を創業。後にスケートボードで東京五輪・金メダリストとなる堀米雄斗の他、スプリントコーチ・秋本真吾らをマネジメント。現在は、野球の内川聖一や、サッカーの稲本潤一、武藤嘉紀、大島僚太、谷口彰悟、バスケの田中大貴、競泳の中村克を始め、あらゆる競技のトップアスリートと契約。様々な分野において、世界で活躍する才能を送り出すことを目指して事業を展開している。
ポリバレント株式会社:http://polyvalent.tokyo.jp

■クレジット
取材:北健一郎(Smart Sports News編集長)
編集:本田好伸

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