サッカーで言えばレアル・マドリードでレギュラーになるようなもの。スペインのビッグクラブで躍動する23歳のフットサル日本代表・山田凱斗とは何者?|渡邉知晃コラム
インテル・モビスターというチームをご存知だろうか。
フットサルの世界最高峰と言われるスペイン1部リーグ「リーガ・ナシオナル・デ・フットボル・サラ(LNFS)」に所属する強豪チームである。
かつて名古屋オーシャンズでもプレーし、2021年のFIFAフットサルワールドカップでポルトガルを優勝に導いた名手リカルジーニョも長年在籍していた。スペインリーグで歴代最多14回の優勝を誇る誰もが知る名門だ。
そして今、そのインテル・モビスターで活躍する日本人選手がいる。
フットサル日本代表の山田凱斗、23歳だ。
スペインの3大ビッグクラブの1つであるインテルで、加入1年目ながらシーズンを通して主力としてプレーしている。
今回は、3月末にスペインのマドリードで山田と会って話を聞き、インテルのホーム試合を観戦した元日本代表・渡邉知晃が、そのスゴさを伝える。
リーグ優勝14 回の名門・モビスター・インテルFS
「インテル・モビスター」という名称が一番浸透していると思うのでそう記したが、2015年以降は「モビスター・インテルFS」が正式名称である。昔からフットサルを見ている方にとっては、「ブーメラン・インテルビュー」という名前の方が、馴染みがあるかもしれない。
1977年に設立されたチームは、スペインのマドリード州トレホン・デ・アルドスを本拠地としており、ホームアリーナは、パべリョン・ホルヘ・ガルバボサである。筆者もこの施設で試合をしたことがあるが、隣にショッピングモールが併設されているアリーナだ。
スペインリーグの中で、FCバルセロナ、エルポソ・ムルシアFSと並び、ビッグ3の一つであるインテルは、スペインを代表する名門クラブであり、これまでリーグ優勝14回を誇る。その強さから、「緑の機械」を意味する「マキナ・ベルデ」とも呼ばれている。
日本でプレーしたことがある選手でいうと、元ブラジル代表キャプテンのマルキーニョ、ポルトガル代表として2021年にW杯を優勝したリカルジーニョ、現在も名古屋オーシャンズに所属しているダルラン・エンリケ・ロペス、元名古屋のセルジーニョなどだ。
インテルという名前を聞くと、サッカー界の人は、FC東京でプレーする長友佑都選手がかつて所属した「インテル・ミラノ」が浮かぶかもしれないが、フットサルのインテルと言えば「モビスター・インテル」なのだ。
フットサル界での知名度や功績でわかりやすく例えるならば、チームの資金面や規模感にこそ大きな違いはあるが、同じマドリードを本拠地としているサッカーの「レアル・マドリード」のようなチームである。
そんなビッグクラブで、今、日本人選手が活躍している。
元バサジィ大分で、日本代表の山田凱斗だ。2022年8月にセカンドチームであるインテル・Bに入団することが発表された。セカンドチームスタートだったが、9月には早くもトップチームデビューを飾ることになる。
日本人として初めての快挙
「怪我人が何人かいたこともあって、シーズン開幕前のCopa de Getafeという交流戦形式の大会でトップチームに参加しました」
Bチームで力をつけてトップ昇格を目指すつもりでいたが、新シーズンが開幕する前にトップチームに招集されると、そのまま本拠地に戻ってからもトップチームの練習に参加し続けていた。
「毎回の練習後に、フィジカルコーチを通して明日の練習に参加するかどうかを確認していたのですが、ある時、監督からもう確認はしなくていいと言われました」
それまではトップチームとBチームの両方の練習に参加することもあったが、現在は基本的にトップチームの活動に専念している。つまり、昇格を告げられたわけではなく、自然とトップチームでの立ち位置を獲得していたのだ。
2022年9月24日に行われた第2節、アウェイのパルマ戦でスペインリーグデビューを果たす。そこからは全試合にメンバー入りを果たし、徐々に監督の信頼を勝ち得ていった。
そして、年が明けた2023年1月24日のコパ・デル・レイ(国内カップ戦)のベスト16、ホームで行われたリベラ・ナバーラ戦で、トップチーム初ゴールを決めてみせた。さらに、2月28日に行われた第20節、アウェイのカルタヘナ戦ではリーグ戦初ゴールをマークした。
「世界最高峰のリーグ」と言われ、各国の代表選手たちが集まるリーグのなかの、インテルという強豪チームで出場機会を勝ち取り、結果を残している。
これは、日本人にとって快挙だ。
過去にスペインリーグで活躍した日本人選手はいたが、ビッグ3のクラブでコンスタントに試合に出場した選手はいない。コルドバに所属し、年間16ゴールを挙げた清水和也でさえも、エルポソのトップチームで出場する機会は多くなかった。それもそのはずで、レアル・マドリードで日本人がレギュラーとして出場しているようなものだからだ。それほどすごいことが起きている。
日本代表・木暮賢一郎監督も、モロッコ遠征に向けた会見で「スペインリーグのインテルというビッグクラブでプレー機会を得ていること自体が一つの評価になると思っています」と述べている。
もちろん、いろいろな巡り合わせはある。「シーズンを通して怪我人が多いので」と山田が話したように、今季のインテルは怪我人に苦しんでおり、リーグ戦に全選手が揃って臨めていないという状況もある。
しかし、筆者自身も多くの外国人監督と一緒に仕事をしてきたが、シビアな監督というのは、たとえ怪我人が多く、チームの人数が揃わなくても、1試合を6人のフィールドプレーヤーで回すなど、少ない人数で戦うという選択肢を取ることは往々にしてあるのだ。
チームの台所事情が苦しかったとしても、信頼されていなければピッチには立てない。山田のように若い選手にチャンスを与える監督もいるが、ピッチで納得のいくパフォーマンスをしなければ、継続した出場は難しい。
つまり、今の山田は監督からの”信頼”を勝ち得ているということだ。世界的に見ると決して若いとは言えないかもしれないが、23歳という年齢でこの舞台に立てているのは、本当に素晴らしいことなのだ。
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