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喝采を浴びたインドネシア代表の“究極の”フェアプレー精神。日本人指導者・高橋健介が異国の地でもたらしたもの【フットサルアジアカップ】

高橋健介がインドネシアで整備したもの

バルドラール浦安を率いる小宮山友祐監督は、ツイッターで「健介がインドネシアに残したものがデカすぎる」と呟いた。2018年、現在フットサル日本代表のコーチを務める高橋健介氏は、インドネシア代表の総監督に就任。フル代表だけでなく、U-20代表、女子代表まで幅広く指導し、現在のインドネシア代表の基盤を作り上げた。

文=河合拓

健介がインドネシア🇮🇩に残したものがデカすぎる。

— 小宮山友祐YUSUKE KOMIYAMA (@yusuke_komiyama) October 4, 2022

インドネシア代表監督として高橋氏が目指していたのは、2020年に開催される予定だったAFCフットサルアジアカップで4位以内に入り、FIFAフットサルワールドカップへ初出場させることだった。しかし、インドネシアではフットサルの人気は高かったものの、リーグなどの環境は整っておらず、選手の発掘も手探り状態だった。

整っていないのは、フットサルの環境だけではない。代表合宿中にスコールにより電気が止まったり、試合会場へ移動する途中に電車事故に遭遇して会場に到着するまで18時間を要したりしたこともあった。

高橋氏は選手たちとともに寮生活を送りながらインドネシア語を学び、スムーズにコミュニケーションを図れるようになっていく。また、「それが一番、みんなが見るから」と、同国で最も浸透しているSNSであるインスタグラムも使い、積極的に世界のフットサルの動画を発信。選手たちが世界トップレベルのプレーを目にする機会を増やすとともに、なぜそのプレーが重要なのかも説明した。

たとえば高橋氏がインドネシアに渡った直後は、相手の進路に先に入って動きを制限する “ブロック”の動きは、皆無に近かった。それを高橋氏は代表合宿などで教えていき、同国にも徐々に浸透していった。種蒔きというよりも、豊富な養分がありながらも荒れていた土壌を耕し、整備するところからのスタートだった。

そうした濃密な時間を過ごし、ポテンシャルのあるチームや選手の成長を肌で感じていたからこそ、高橋氏はアジアカップの準々決勝で、日本がインドネシアと対戦することが決まった後に、複雑な胸の内を明かしている。

「正直、このタイミングでは当たりたくなかったなという気持ちと、当たれてうれしいなという、本当に複雑な気持ちです。なぜかというと、僕が2018年にインドネシアに行った時から1年前まで、自分自身も掲げていた目標が『アジアカップでベスト4に入り、W杯へ行く』というものでした。選手がその目標、夢に向かって努力している姿を一緒に見てきましたし、一緒に努力してきた子たちの目標を今回、打ち破らなければいけない部分では、すごく言葉にしづらい感情があるのは、正直なところです」

今大会のインドネシアの中心選手たちの情報を持つ高橋氏の存在は、日本にとって大きかった。例えば、フィクソを務めた石田健太郎は相手のピヴォであるサムエル・エコについて、プレーの特徴を伝えられただけでなく「僕たちがU-20日本代表で出たU-20アジア選手権にも出ていた選手だったと健介さんに言われていて、絶対に負けたくないなと思っていた」と、闘争心を駆り立てる助言を受けていたことを明かしている。

自分たちのミスによって第2ピリオド開始早々に先制点を許した日本だったが、31分に金澤空と水谷颯真が連続ゴールを決めて一気に逆転。さらにGKピレス・イゴールの代表初ゴールも飛び出すと、相手の反撃を1点に抑えて3-2で2大会連続の準決勝進出を決めた。

フットサルとは、友好のためにあるもの

この試合のハイライトの一つとなるのが、第2ピリオド15分の場面だ。自陣深くでインドネシアのボールを回収した日本は、清水和也がドリブルを開始してカウンターに転じる。清水に連動して、ピッチ上にいた金澤、上村充哉、石田も相手陣内に駆け上がっていった。この時、石田は自陣で転倒していた。ボールを失い、倒れこんでいたインドネシアの選手に、足を手で引っ張られる悪質なファウルを受けていた。

「足を手で引っ張られた時点でカードが出るんじゃないかと思ったのですが、プレーが続いていました。日本が攻めていたのも、僕は見ていなくてわからない状態でした」

後方で石田が倒されたことに気づかないまま日本は攻撃を仕掛け、清水のパスを受けた金澤がシュートを放ったが、相手GKに防がれる。跳ね返ったボールが相手に渡ると、そこに上村がプレスをかけたが、これもパスでいなされた。日本陣内には倒れこんでいる石田とGKイゴール、そしてボールを保持した選手を含め、インドネシアの選手が2人という決定機ができていた。

しかし、ここでボールを保持していたインドネシアの選手が不満そうな顔を見せながらも、プレーを止めた。イゴールを引き付けて、そのままパスを出せば確実に同点に追いつける場面だった。アジアカップにフェアプレー賞はないが、もし表彰できるならば、確実に受賞していたような、フェアプレー精神にあふれる場面だった(石田への極めて悪質なファウルについては、この際は不問とする)。

試合後の記者会見で、インドネシアのモハンマド・ハシェンザデ監督は、「私たちは多くのチャンスを作ったが、アンラッキーだった。フェアプレーは重要だ。私たちは2人の選手がゴールに迫ったが、日本の選手が座り込んでいたため、プレーを止めた。スポーツ、フットボール、フットサルというのは、友好のためにあるものだ。この場面について私はとても満足している」と、選手の振る舞いを称賛するとともに、この場面についても触れた。

日本代表の木暮賢一郎監督も「試合中にリスペクトの精神を見せてくれた」とこの行動を称えていたが、高橋前監督にとっては、より感慨深いシーンになったようだ。

「実際に僕が監督をしていた時に、ああいう場面で点を取りに行ってしまって、試合後に『あれはフェアプレーで、プレーをやめないといけないよ』という話をしたこともあったんです。一度、東南アジア選手権の決勝戦で、タイ代表と対戦した時に、大いに揉めたことがあって、その試合の後にみんなでミーティングをして『フェアプレーっていうのはこういうことだよ』という話もしてきました。そういうところも含めて、すごくいろんな面での成長を見られてうれしかったです」

史上初の準決勝進出がかかった日本戦で、インドネシアが見せたフェアプレー精神。それは高橋健介という指導者が、異国の地で心血を注ぎ、同国のフットサルを大きく発展させた成果の一つでもあった。

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