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スプリントコーチ 秋本真吾 SHINGO AKIMOTO Vol.1「日本初のスプリントコーチ」

年間1万人以上の子どもに「走り方」を伝え、足を速くしてきた秋本真吾氏。
彼は日本で初めて「スプリントコーチ」を名乗り、これまで7万人以上の子どもたちと、野球、サッカーを始め、500名以上のプロアスリートに走り方を指導してきた。
「足を速くする」。そこに魔法のスパイスがあるわけではない。実際に、「今すぐ簡単に速くなる!」といううたい文句で速くすることはできても、走力を継続するには土台が必要だ。
足を速くするために本当に必要なこととは何か。そして、走ることを通して、秋本氏は、どんな未来を描こうとしているのか。
「Smart Sports News」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

初めてはプロ野球選手へのコーチング

──秋本真吾さんは日本で初めて「スプリントコーチ」を名乗った方です。このキャリアを歩むきっかけはなんだったのでしょうか?

僕が選手時代の陸上界は、引退したアスリートは就職して会社員や公務員になる道が主流でした。特に教員が多かったですね。それと、オリンピックに出場したようなトップレベルの多くは有名な高校や大学で指導者の道に進みます。でも僕は陸上界で知られている存在ではないですし、日本代表でもない。そういった指導者のポジションに座ることは厳しいだろうと感じていました。そこで、まさにきっかけとなる出来事がありました。

──引退した頃のお話ですか?

まだ現役でした。僕がプロになり初めた頃に契約してくださったサプリメント会社の担当者は、プロ野球の12球団にも営業を回っているような方で、オリックス・バッファローズも取引先の一つでした。そこで盗塁率が低いから走りのコーチを探しているという話を聞いて、僕にオファーをくれたんです。即答しましたね。

──最初は、現役時代に、しかもプロ野球選手へのコーチングだったんですね。

神戸にある寮に出向いて、コーチングスタッフに挨拶をしたら、そこにオリックスの7選手が集められていました。手始めに、僕が学生コーチをしていた頃に、自分が足を速くしてきた練習をしてもらいました。そうしたら、1時間ほどのメニューの後にタイムを測ろうと言い始めたんです。実は、僕が教える前に測定していたんです。試されていますよね(笑)。正直、練習の後だったし、(疲労も溜まっているので)タイム落ちるじゃん……って思っていたんですけど、7人中6人が速くなったんです。コーチたちもかなり驚いていましたし、何より自分が驚きました。こんなことで速くなるのか、と。

──見事、試練を突破したんですね(笑)。

そうだったみたいです(笑)。その後、座学をやって、論文を紹介しながらコーチ陣にプレゼンをしたらかなり食いついてもらって、キャンプにも呼んでもらえるようになりました。陸上界では100分の1秒を縮められるかという勝負でしたが、野球選手は走りに特化したトレーニングを続けてきたわけではないので、こっちのほうが可能性がありました。新聞の紙面などでも一面で取り上げられるようになって、こうした引退後のキャリアやブランデイングをしている選手はいなかったのでいけるなと。ロンドン五輪に出られなかったタイミングで心の中では決めていました。こっちに専念しようと。

──とはいえ、当時は“秋本真吾のメソッド”が確立されていたわけではないですよね?

そうですね。単純に自分が続けてきた練習に取り組んでもらっていた感じです。

肉眼で見て、フォームの病名と処方箋を出せる

──秋本さんのコーチングはすごく理論的で、なおかつ裏付けるデータもありますよね。どんな人でも実践できる今の形にはどのようにして行き着いたのでしょうか?

実は、スプリントコーチを生業にするまでにはすごく時間がかかりました。本当に大変な期間でしたね(苦笑)。最初は、1回6000円で小学校を周り、その数を増やそうと思ってやっていました。そのうちに自分のなかで、小学生の足を速くする方法が確立していきました。年間1万人くらいを見ていたので、この練習をするとこう変わる、足が速い子はこうなる、遅い子はこうなる、この順番でやればこうなるということが数年で分かるようになりましたね。

──ものすごい数をこなしたからこそ見えてきたんですね。

そうです。それはプロアスリートでも同じだと感じていたので、サッカーや野球の選手を片っ端から見て、勉強するようになりました。実際に自分でもサッカーをしてみたり、野球のスパイクを履いて走ってみたり、外野の守備をしたり、バントをしてみたり……まずは知ることから始めて、学び、繰り返していく。そうやっていくうちに今度は、自分のやっていることが統計としてエビデンスが出るのかを知りたくなった。それで調べていたら、世の中にはそういった論文がたくさんあったんです。もちろん、すべての子どもに相関関係があるデータとは言い難いですけど、あらゆる年代を対象にした研究があって、それが記述化されている。読み漁っていくうちに、自分の狙いが正しかったことに気がつきました。と同時に、もっとこういったアプローチがあるのではないかという発見もありましたし、自分で積み重ねてきたものに、後から肉付けされていった感覚です。

──先に実践で教えていくうちに手応えをつかんで、過去の論文などとも照らし合わせることで化学的な根拠が実証されていた。

そういうことです。僕は陸上競技者なので、もともと自分の体を実験台にしてきたから、何を練習するとどんな変化が起こるかを体感しています。それを今度は、他人でやるということ。感度が高い選手もそうではない選手もいるので、表現を噛みくだいたり、順序立ててやらないといけないといったことは、実際にコーチングするなかで気づいていきました。この選手にはAがハマる、AとCを組み合わせたほうがいいなとか。

──あらゆる側面が融合していったんですね。

それが決定的となった話があります。「LEOMO(レオモ)」という、靴や体にセンサーをつけて走ると、どこの筋肉がどう活動して、どういう軌道をしているかがすべて数字として表れる走りの測定器が出てきました。20、30km走っても、Bluetoothと連動して、波形データが出るんです。この波形だからこういうフォームだよねというのがわかってしまうんです。でも、それはフォームを直す方法まで出るわけではありません。逆に僕には直すためのアプローチがわかる。つまり、レオモで病名が判明しても、処方箋を出せるわけではないというイメージです。僕は、肉眼で見て、フォームがこうなっているという病名がわかるのですが、実際にレオモでもそうした結果が出ていたので、自分の目が間違っていないことが理解できました。

──最先端の機械が導き出す波形やデータを目視で理解できる……すでに脳内にレオモがある状態ですね。

導き出される結果は誤差レベルだったので、そういう感覚かもしれません。

──まるで“走りのお医者さん”ですね。

僕は相手に応じてより的確な処方箋を出せるので、自分は貴重なことをやっているという確信を得られました。

Vol.2「土台がなければ田中将大にもクリロナにもなれない」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/603ef90d3f7d7c683b6390f3

Vol.3「子どもが塾に行くように、走りを変えることを文化にしたい」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/603ef91b293cdc6bee6b52d2

■プロフィール

秋本真吾(あきもと・しんご)
1982年4月7日、福島県生まれ。2012年まで400mハードルのプロ陸上選手として活躍。現役当時、200mハードルのアジア最高記録、日本最高記録、学生最高記録を樹立し、オリンピック強化指定選手にも選出。100mのベストタイムは10秒44。2012年の引退後はスプリントコーチとして活動を始め、プロ野球、日本代表を含むJリーグ、女子サッカー、アメリカンフットボール、ラグビーなど、500名以上のプロスポーツ選手に走り方を指導。コーチング力向上のため、引退後もマスターズ陸上に出場し2018年世界マスターズ陸上において400mハードルで7位入賞。2019年アジアマスターズ陸上において100mと4x100mリレーで金メダルを獲得。日本全国の小中学校でかけっこ教室を開催し、年間約1万人、合計7万人以上の子どもたちに走り方を指導している。

秋本真吾ホームページ
https://www.akimotoshingo.com

CHEETAH(オンラインコーチング)
https://www.cheetah.tokyo/run/

■クレジット

取材・構成:北健一郎
写真提供:秋本真吾

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